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1巻
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小鳥遊にまず先に夕食を取ろうと誘われたが、それは断った。この状態で、普通に彼と食事ができるはずがない。それほどアルコールに強くないが、その力を借りて躯の強張りをほぐさなければどうにもならないと思うほど、優花の緊張は高まっていた。
それならばと小鳥遊が連れて行ってくれたのは、横浜にあるシティホテルのスカイバーだった。
「ここなら軽食も頼めるからいいと思って。鳴海は大学時代よりも、お酒……強くなった? それとも、昔と同じくらい?」
「……たくさんの量は飲めない。昔と同じぐらいかな」
「わかった。じゃ、俺が鳴海の分も頼んでいい?」
「あの、はい……お任せします」
小鳥遊はカウンターに座ると、バーテンダーに合図を送る。
「彼女にはハイライフ、俺にはベルベット・ハンマー。夕食を取っていないので、適当に何か食べるものを見繕ってもらえないかな」
「はい。少々お待ちくださいませ」
バーへほとんど来たことがない優花は、物珍しさから、優雅な所作でシェイカーを振るバーテンダーを眺める。でもこのまま口を噤んでいるのも居心地が悪く、優花は小鳥遊を窺った。
「……カクテルに詳しいのね」
「そうでもないよ。ただ……結構こういうシチュエーションを繰り返してきたかな」
それは、女性を頻繁にバーへ連れて行く機会があるという意味なのだろう。
大学を卒業して八年ともなれば、小鳥遊だっていろいろと経験してきたはずだ。それは彼の慣れた女性への扱いでわかっていたのに、こうして決定的な言葉を聞くと、優花の胸に苦いものが生まれてしまう。
「お待たせいたしました」
優花の前には白っぽい液体が入ったカクテルグラス、小鳥遊の前にはコーヒー色の液体が入ったカクテルグラスが置かれた。さらに、ピンチョスの盛り合わせが並べられる。小さく切られたパンの上に、クリームチーズとスモークサーモン、アボカドと生ハムとオリーブがのっている。お腹は空いていなかったのに、彩りも鮮やかなオードブルを見ていると、優花の口腔に唾があふれてきた。
「じゃ、まず再会を祝して……乾杯」
小鳥遊に促され、優花はカクテルグラスを持ち上げた。グラス越しに、彼の強い眼差しが向けられる。それを直視できず、優花は視線を外した。
「乾杯」
そう囁き、小鳥遊とグラスを触れ合わせる。そして、逃げるようにグラスを口に運んだ。
カクテルを一口飲んだ瞬間、パイナップルのさっぱりとした風味が口の中に広がった。ついさっき小鳥遊と目を合わせないようにしたはずなのに、優花は思わず目を輝かせて彼を見てしまう。
「美味しい!」
そういう反応が返ってくるとわかっていたのか、小鳥遊は優花に顔を向けたまま目を細める。
「良かった、気に入ってくれたみたいで。ただアルコール度数は高いから、ゆっくり飲んで」
注意を受けるが、優花の飲むスピードは速くなる一方だ。美味しいのもあるが、緊張で舌が乾くせいで、自然と速度が上がってしまう。
グラスが空になると、小鳥遊が同じものをもう一杯頼んでくれた。
近況報告を兼ねて、たわいない話をしながらピンチョスを食べ、カクテルを一口、二口と飲む。アルコールが程よく回ってきたのか、優花の中で張り詰めていた緊張の糸が緩まり始めた。少し気怠くもあるが、寧ろそれが心地いい。
優花がうっとりと吐息を零した時、小鳥遊が手にしていたグラスをコースターに置いた。
「鳴海、……俺、鳴海にずっと訊きたいことがあったんだ」
「……何?」
「何故、卒業式を境に姿を消したんだ?」
不意をつかれて、優花の心臓が跳ね上がる。その件だけは触れられたくなかったのに、小鳥遊は無遠慮に優花の心に踏み込んできた。優花は目を逸らし、あの日の話はしたくないと暗に告げるが、彼は問答無用とばかりに優花に詰め寄る。
「サークルの仲間にも一言も告げず、掻き消えるように俺の前から消えたのはどうして? 鳴海との関係は一生のものになると思ってた。でもそれは、俺が一方的に感じていただけだった?」
一生のもの? 優花には、ほんの一欠片の想いさえ抱いていなかったのに?
強い光を瞳に宿す小鳥遊に、優花は〝嘘吐き!〟と叫びたくなった。小鳥遊は宇都宮との距離を縮めるために、優花の心を利用した。それがショックだったので、すべての関係を絶って逃げたのだというのに。
でも優花は、その想いをぐっと胸の奥へ抑え込んだ。
「偶然なの。別に……小鳥遊くんの前から消えたわけじゃない。携帯も……壊れて、誰とも連絡が取れなかっただけ」
何もないと肩を竦める。だが、小鳥遊は優花の言い訳を信用せず、躯を捻って優花を凝視してきた。
「俺ね、この世界で頑張れば、絶対に俺の情報が鳴海の耳に入ると思っていた。もちろん望んで入った職場だから、鳴海のためだけに頑張ったわけじゃないけど……。でも、その考えが頭にあったのは事実だ。なのに、鳴海はずっと連絡をくれなかったね。こうして偶然に再会しなければ、今もまだ俺に連絡をしようとは思ってくれなかったんだろうな」
「……卒業してからもいろいろあって、昔を思い出す心の余裕なんてなかった。でもそれは、小鳥遊くんも同じでしょ?」
千穂ちゃんと付き合い始めたら、彼女が一番大事になって、わたしのことなんて思い出しもしなかったでしょ? ――優花はそう言いたい気持ちに、無理矢理蓋をする。
「そうだな。鳴海の言うとおり、新しい出会いや付き合いが増えていったよ。だからといって鳴海を忘れたわけじゃない」
「わたしだって、同じよ。わたしの大学生活を色鮮やかにしてくれた……小鳥遊くんを、そう簡単には忘れられなかった」
優花はカクテルグラスの細い脚を撫でながら、小さくため息を吐いた。
小鳥遊に言ったとおり、彼がいなければ優花の大学生活は灰色の四年間になっていたに違いない。優花が大学生活を語る際には、必ず彼が登場する。
それぐらい、優花の心の深い部分に彼の存在が根付いている。だからこそ好きな人に利用されたのが悔しくて、悲しかった。
優花はカクテルグラスの細い脚に触れ、口元へ持っていく。
「鳴海……」
「何?」
「鳴海ってさ、今、特定の……その、彼氏はいる? 好きな人はいる?」
「……小鳥遊くんは?」
千穂ちゃんと今も続いているの? それとも、もう結婚とか? ――そう思っただけで、優花の胸に痛みが走った。その痛みをアルコールで消したい一心で、残ったカクテルを一気に飲み干す。
「特定の相手はいないよ。俺は……ここ数年ずっと恋人はいない。駄目なんだ、誰と付き合っても、誰に好意を持たれても……昔みたいに、胸を熱く焦がせない」
小鳥遊の告白に驚き、優花は彼を見つめた。
それって、宇都宮とはもう関係がないという意味だろうか。小鳥遊が口にした〝昔みたいに〟という部分に引っ掛かりを覚えないわけではないが、彼の真摯な眼差しに、だんだん優花の頑なな心が柔らかくなっていく。
「わたしも、今は誰もいない……」
雰囲気に流されて、優花は自然と真実を吐露する。すると、躊躇なく手を伸ばしてきた小鳥遊に手を握られた。
「鳴海、今夜は……俺の傍にずっといてくれないか。朝まで……」
「……えっ?」
最初、優花は小鳥遊の言葉を理解できなかった。だが、彼の指に手の甲をエロティックに撫でられて、初めて誘われていると気付く。彼は、優花とベッドを共にしたいと伝えているのだ。
でも、小鳥遊が優花をほしがるはずはない。あの卒業式の日、小鳥遊の気持ちが自分にないということを、確信したのだから。
なのに、優花に触れる小鳥遊の手つきに、優花の躯の芯は期待で疼き始めてしまう。心臓が激しく鼓動し、呼気も浅くなり、それは熱を帯びていく。
小鳥遊はどういう気持ちで優花を誘うのだろう。そこに、何か意図がある?
いろいろな考えに頭を悩ませつつも躯を熱くする優花の耳元に、小鳥遊が顔を寄せてきた。
「お互い、特定の人物に縛られているわけでもない。悲しませる相手もいない。誰かに気兼ねする必要もない。……そうだよね?」
「……うん」
「鳴海、俺はこの手を離したくない」
わたしだって、離したくない! ――感情のまま出そうになった言葉を無理やり呑み込み、そっと顔を動かした。小鳥遊の情熱に燻る双眸を、これまでにないほどの至近距離で見つめる。
小鳥遊を目にすると、大学時代に抱いた彼への恋心と、それを利用されて傷つき、すべての関係を絶って逃げたあの日をどうしても思い出してしまう。
でも、わかってもいた。小鳥遊が宇都宮の気を引くために優花に話しかけていても、それを理由にして優花が彼に文句を言う筋合いはないことを。彼は、ただ好きな人に告白して両想いになっただけなのだ。
その小鳥遊が、優花を欲している。宇都宮にした愛の告白とは似ても似つかないが、彼は今の優花に女として興味を持ってくれている。
もしかしたら、スタジオを出る時に小鳥遊にいきなり手を繋がれても拒まず、大人の対応を取ったのが功を奏したのかもしれない。それで小鳥遊は、優花を女性として意識してくれたのだろう。
それでもいい、一夜だけでも構わない。何か小鳥遊に意図があったとしても、このチャンスを掴みたい。好きだった人の求めに応じたい!
優花は勇気を出して、小鳥遊と繋いでいた手に力を込めた。暗に、彼の誘いに乗ると伝える。
「鳴海……」
小鳥遊が、情熱的に優花の名を囁く。その声音に心を躍らせながら、優花はゆっくり顔を上げた。彼は、優花の手を持ち上げ、恥ずかしげもなく手の甲に唇を落とす。
「もう、待てない。俺は充分過ぎるほど――」
充分過ぎるほど、何? ――そう訊ねる前に、小鳥遊は背の高いスツールを降り、手を繋いだまま優花を引っ張る。
「行こう」
優花は、小鳥遊に〝どこへ?〟なんて訊く無粋な真似はしなかった。疎い優花にも、彼の心理はわかる。彼は今、後腐れなく情事に応じる、大人の女性を求めているのだ。
今夜だけ、小鳥遊くんの求める大人の女性を演じたい――そう強く願うのは、大学時代とは違って魅力的になったと、小鳥遊に思ってほしかったからかもしれない。
一度フロントへ戻って部屋を取ると、小鳥遊は優花と手を繋いでエレベーターに乗り込んだ。
女性を連れてホテルの部屋へ行く行為に慣れているのか、小鳥遊に焦りは見られない。それが逆に、優花を緊張させる。彼に握られている手が汗ばんでくるほどだ。湿り気を帯びた手のひらを拭いたくて、小鳥遊の手を離そうとするが、彼に逆に強く握られる。
エレベーターに乗っている間も降りてからも、小鳥遊は何も言わなかったが、歩くスピードを上げた。部屋の前に着くと、ドアを押し開ける。オレンジ色を放つ薄暗い間接照明が、ダブルベッドの部屋を神秘的に照らした。
あのベッドで、小鳥遊と大人の関係を結ぶ……
これから起こる行為を考えただけで、胸の高鳴りが激しくなる。生唾を呑み込んで落ち着こうとするが、鼓動はどんどん大きくなっていく。息も弾み、浅い呼吸しかできなくなってきた時、優花の後ろでオートロックのドアが閉まった。
小鳥遊は優花の手を引いて奥へと進み、ベッドの傍に来たところで優花を解放してくれた。
欲望剥き出しで押し倒されなかったことにホッとしながら、優花は手にしていたバッグを脇のテーブルに置く。だが次に何をすればいいのかわからず、手持ち無沙汰を解消するために顔にかかる髪を耳にかけた。
刹那、優花は背後から小鳥遊に抱きしめられ、彼の広い胸に引き寄せられた。彼の体温が薄いチュニック生地を通して、優花の素肌にまで浸透してくる。
小鳥遊は何も言わず優花の髪に頬を寄せ、そこに何度もキスを落とす。耳の近くで彼の吐息が聞こえるだけで、優花はざわざわと肌を這う疼きに襲われる。それは下腹部の深奥にまで伝わり、じんわりと波紋を広げる熱へと変化した。
「……た、小鳥遊くん?」
アルコールが入っているせいか、それとも小鳥遊に女性として見られているこの状況に酔っているせいかはわからない。ただ、優花自身でさえこれまで聞いたことのない、甘く誘うような声が出た。
小鳥遊の手が腹部へ滑り降り、チュニックを捲り上げて優花の素肌に触れる。徐々にその手が上がり、肋骨を撫でられた。その行為は止まらず、彼の指先がブラジャーをかすめる。
嘘、もう!?
優花はハッと息を呑むと、咄嗟に小鳥遊の腕に触れ、肩越しに彼を振り返った。
「ま、待って。シャワーを……っんぅ」
小鳥遊が顔を傾け、優花の唇を塞ぐ。彼が飲んでいたベルベット・ハンマーの香りが口腔に広がっていく。ブランデーとコーヒーリキュールの味に酔わされそうで、たまらず息を継ぐ。しかしその隙を狙って、彼のぬるっとした舌が唇を割って口腔に滑り込んできた。何か危険なものに触れたのではと思うほどの甘美な電流に、躯を焦がされる。彼の腕を掴む優花の手に、自然と力が入った。
小鳥遊のキスは、奥手な優花の心を躍らせるほどエロティックだった。淫らに舌を使い、優花の唇をいやらしく舐める。角度を変えては、深い口づけを要求された。
あんなに爽やかだった大学時代の小鳥遊からは想像できないほど、彼の欲望に忠実な口づけに、優花の腰が砕けそうになる。
「……はぁぅ……んぅふぁ」
キスが深くなればなるほど、優花の四肢がじんじんし出し、煽られた熱で脳の奥が痺れたようになってくる。それはあらゆるところを刺激し、双脚の付け根にまで影響を与え始めた。キスだけでしっとりと濡れるなんて、初めてだ。
小鳥遊からもたらされるすべてに魅了されていたところで、優花は躯の向きを変えられ、彼と向かい合わせになった。顔を上げて彼を仰ぎ見る。すると彼は優花の背中に両腕を回し、背骨に沿って優しく上下に撫でながら唇を塞いだ。巧みに唇を動かし、歯を立て甘噛みし、濡れた舌で口腔を侵す。それだけで優花の躯は蕩けそうになる。
咄嗟に、湧き起こる快感を意思の力で抑えようとするが、それは彼の望む大人の女性ではないと気付く。
実のところ、優花は性に大胆になれるほどの男性経験はない。初めて付き合った男性と何回か肌を重ねたことはあるが、その時の優花は受け身で、されるがままだった。
でも今夜だけは、小鳥遊に飽きられない大人の女性として振る舞いたい。
その一心で、優花は踵を上げて背伸びし、自ら彼と深い口づけを求めた。
すると、小鳥遊が驚愕したように息を呑み、唐突にキスを終わらせた。だが、優花の背に回した両腕の力は緩めず、再び顔を近づけてくる。優花の額に自分の額をこつんと触れさせ、甘い息をついた。
「今夜は、俺にさせて。鳴海は、俺がするすべてを受け入れてくれるだけでいい。そんな鳴海を俺だけに見せて……、俺に味わわせて」
「……うん。でもその前に、シャワーを――」
小鳥遊の逞しい胸板に両手を置いて距離を取り、バスルームへ行きたいと意思表示するが、彼の優花を抱く力は変わらない。
「小鳥遊くん?」
「シャワーは浴びさせない。そのままの鳴海がほしいんだ」
「でも――」
「さっき、俺を受け入れてくれるって言ったのに。もう忘れた?」
「ううん。でもわたし……雨に濡れたし」
「それぐらい何? 俺、鳴海の匂いは嫌いじゃないよ」
優花の背に回されていた小鳥遊の手が上がり、二人の躯がぴったり重なるぐらいに引き寄せられる。そして彼は、優花の下腹部に硬くなったものを押し付けてきた。
「わかる?」
「……っぁ」
大きく膨らむ男性のシンボルでぐいっと擦られる。そうされればされるほど、深奥で燻っていた火がじりじりと燃え上がり始めた。それはうねり、優花を包み込む勢いでどんどん広がっていく。
小鳥遊は優花を欲し、優花もまた彼を欲している。二人の気持ちがぴたりと一つになったのが嬉しくて、優花は顔を上げて、至近距離で目を合わせた。
「ああ、鳴海……」
優花の名を呼ぶ小鳥遊の声がかすれる。それが、彼の興奮を充分に示していた。湿り気を帯びた息が、キスで濡れた優花の唇や火照る頬をかすめるだけで、くらくらする。
そっと目を閉じると、優花の背を抱いていた小鳥遊の手が後頭部に触れた。彼は優しい手つきで髪を梳き、優花の喉元を露にする。
「……っんく」
小さな声が口をついて出た時、小鳥遊の唇が首筋の脈に触れる。舌で執拗に舐め、吸い、耳へと移動させる。背筋を這う強い快感に襲われ、優花はたまらず首を竦めた。
「鳴海、逃げないで」
「ち、違っ……そこ、……っぁ!」
小鳥遊の吐息が優花の耳朶をなぶり、耳孔に入り込む。それだけで、尾てい骨や下腹部奥が疼くほどの愉悦に襲われる。これまで、特に耳が弱いというわけではなかった。職場の仲間に耳元で話しかけられても、こんな風に反応したことは一度もないのに、彼にそこを攻められるだけで、自分でも驚くほどの甘い潮流に躯を攫われそうになる。
「もしかして、耳が弱い?」
小鳥遊が優花の耳元で囁く。そうされると、またも「っん!」と甘い声が漏れてしまう。
「鳴海、可愛い……。もっと知りたい、俺の知らない鳴海を教えてよ」
「待って、あっ、……イヤぁ……」
耳孔をくすぐられながら息を吹きかけられ、優花は小鳥遊の腕の中で躯を縮こまらせた。ブラジャーに覆われた乳房が異様に重くなり、隠れている乳首が硬く尖る。欲情しているのが恥ずかしくて大腿を擦り合わせるが、くちゅと音を立ててしまうのではないかと思うほど、蜜液がパンティに浸み込んでいた。
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優花は小鳥遊の胸を押し、背の高い彼をベッドに腰掛けさせた。目を見開く彼を見下ろしながら、開いた両脚の間に移動し、彼の頬を手で覆う。
「……わたしにも教えて。わたしでさえ知らないわたしを、小鳥遊くんの手で暴いて」
こんなにも大胆に小鳥遊を誘うなんて、本当に自分らしくない。でも、今夜だけは別。彼の望む性に奔放な大人の女性になってみせる!
優花はおもむろに上体を倒し、小鳥遊の首に両腕を回した。でも彼を強く抱きしめず、キスもしない。ただ二人の息がまじり合う距離まで近づき、彼の目をじっと見つめる。
大学時代とは違う、わたしを見て――優花がそう願いを込めると、小鳥遊が眉間に皺を刻ませて、乾いた笑い声を漏らした。
「俺、自信あったんだけど、やっぱり無理だ。鳴海と会えなかった時間を思うと凄く悔しくてたまらない」
優花は小鳥遊が何を言っているのかわからなかった。優花が小首を傾げると、彼が顎を突き出し、優花の唇を塞ぐ。
「ン……っんぅ!」
苦しくなって唇をかすかに開くと、優花の口腔に小鳥遊の舌が差し入れられた。巧みな舌の動きに応えなければと思うが、そこは経験が乏しく、大人の彼を掻き立てられない。ただ、キスを受け入れつつも、優花は彼への滾る想いを伝えたい一心で行動した。彼の襟足を優しく揉み、頭皮を指先で撫で上げる。
「なる、み……っ!」
「……きゃ!」
優花の腕を掴んだ小鳥遊に引き寄せられ、ベッドへ押し倒された。彼は優花の大腿を両膝で挟み込んで馬乗りになると、上体を起こす。そして捲れたチュニックとキャミソールの裾を掴み、ゆっくりたくし上げ始めた。
優花は展翅された蝶のように、両腕を頭の横に置いて手足の力を抜く。小鳥遊の目が、間接照明の下に浮かぶ素肌に向けられる。その視線は、繊細なレース仕立てのブラジャーから零れそうな乳房に落ちる。優花はこの光景を一生忘れないとばかりに、彼に見入った。
優花の躯を見ていた小鳥遊が、いきなり自分の指を口に含む。ちゅぷちゅぷと淫靡な粘液音を立てて、優花を上目遣いで見つめてきた。
これから何をするのかという不安と、妙な期待に煽られ、優花の心臓が早鐘を打ち始めた。それは、どこまで強くの打つのかと思うほど迫り上がっていく。
かすかに唇を開いて空気を求めるが、浅くしか息を継げない。小鳥遊の目が、呼吸に合わせて上下する乳房に吸い寄せられる。その姿に、優花は興奮を抑えられなくなった。
すると、小鳥遊の目線が乳房を離れた。躯を舐めるように視線を這わせ、そして優花の瞳を見つめた。
小鳥遊は優花から目を逸らさず、口に含んでいた指を抜いた。そこに照明が当たり、彼の唾液があやしく光る。
こんな風になるぐらい、めちゃくちゃに感じさせるから――そう意味深に伝えられている気がして、優花の下腹部奥が待ち望むみたいに戦慄く。
「……ぁ」
小さな喘ぎが零れたと同時に、小鳥遊が唾液にまみれた指を優花の肌に這わせた。ひんやりする感触に息を呑むが、すぐに火のような熱に取って代わる。じわじわと侵食するそれは、血管に乗って躯中を駆け巡っていく。
小鳥遊は触れるか触れないかのタッチで、優花の腹部に指を走らせた。まるでキャンパスに絵を描くような繊細な手つきに、優花の躯が痙攣して跳ねる。
「んっ……!」
躯だけでなく意識をも凌駕する、ジリジリと焦げるような疼き。あまりの心地よさに、優花の口から止め処なく喘ぎ声が零れる。その間も小鳥遊の愛撫は止まらない。彼の指が、ブラジャーの下で硬く尖る乳首を探し当てると、執拗にそこを弄った。爪で弾き、転がし、強く押す。
「っんぅ!」
優花は我慢できず、手の甲で口元を覆って淫らな声を堪える。だが小鳥遊の愛戯に、抑えるどころか、甘く誘う声が出てしまう。自分で自分を律することができないもどかしさに瞼を閉じた時、彼がブラジャーの紐を肩口から滑り下ろして乳房を解放した。冷たい空気に晒されて、乳首がさらに硬くなるのがわかる。
恥ずかしさに口を塞ぐ手にさらに力を入れるが、小鳥遊に手首を掴まれてベッドに押し付けられた。
「駄目だよ。俺の前で声を殺すのは無しだ」
優花は漏れる声を隠せなくなり、恨めしげに彼を見上げる。
「そんな目をしても、俺は鳴海の気持ちを優先させないよ」
真剣な面持ちをしていた小鳥遊が、突然悪戯を楽しむ子どもみたいにふっと頬を緩める。でも優花を見るその瞳は、欲望で艶めいていた。彼が大人の魅力で、優花を翻弄させるという強い意志が見え隠れしている。
「これ、持って」
小鳥遊が、優花の手にキャミソールとチュニックの裾を押し付けた。自ら服を上げて裸体を見せる行為に、優花の躯が羞恥で火照る。そんな優花を見つめながら、彼は薄手のジャケットを脱ぎ、その下の白いシャツも脱いだ。どこで躯を鍛えているのかと思うほど筋肉がつき、腹筋も割れている。見事な男らしい体躯に、優花の口腔に生唾があふれてきた。
小鳥遊はチノパンのボタンを外し、ファスナーを下ろす。彼の下着に包まれた大切な部分が露になる。形までわかるほど、そこは大きく膨れ上がっていた。早くほしいと訴える彼自身に、優花の躯が期待と不安で小刻みに震える。
「鳴海は、俺がほしい?」
その言葉にハッとした優花は、小鳥遊の昂りから目を離し彼を仰ぎ見た。彼は優花の一挙一動を見守りつつ、再び指を口に含む。ちゅくっと音を立て引き抜くと、唾液で濡れる指で乳白色の乳房に触れた。
「ぁ……んんっ!」
小鳥遊の指が柔らかな山を辿り、ぷっくりと勃つ乳首を捏ねくり回す。そこを弄られるだけで、双脚の付け根が熱くなり、花弁が充血してぴくぴく波打っているのがわかるほどだ。しかもとろりと蜜があふれ、パンティを濡らしている。
欲望のままに奪ってほしいと思うのは優花だけだろうか。理性を持っていかれそうになるのに、彼がその壁を越えさせてくれない。小鳥遊は、ゆったりした愛撫を繰り返すのみだ。何も考えずに彼と躯を重ねたいと強く思いながら、彼を見つめる。
「どうして、そんな……触り方をするの?」
「うん? これ?」
小鳥遊は、胸の谷間に指を置き、真っすぐお臍へと滑らせていく。
「……鳴海の躯に、俺の匂いをつけてる。鳴海の肌にこうやって顔を近づけたら――」
小鳥遊が優花の胸に顔を寄せ、初めて膨らみにキスを落とす。ペロッと舌を出して吸い付き、乳首を口腔に含んだ。ビリビリした甘い電流に襲われる。
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