元警察官はヤクザに囲われ溺愛される『黒闇姫』2

月歌(ツキウタ)

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堺の刃物街

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◆◆◆◆◆

僕の乗った車はマンションではない、別の場所に向かっていた。不審に思い安堂の部下に尋ねる。

「僕をどこに連れていくつもり?明らかにマンションではないよね」

「堺市です。堺の刃物街に向かいます」
「え、もしかして『白木屋』?」

「そうです。安堂さんから、笹原さんをそこにお連れするように命じられております。『黒闇姫』はお持ちですか?」

「持ってるよ」
「ならぱこのまま堺に向かいます」
「分かった」

僕は返事をせずに、座席にもたれ掛かった。白木屋は代々続く刃物屋だ。高齢の店主が、時々僕の『黒闇姫』の手入れをしてくれる。

もっとも、黒闇姫は手入れをしなくてもいつも綺麗なのだが。人の命を一人奪った後も、手入れを必要とはしない状態だった。まるで、ナイフが命を宿し、自らの体を再生するように。

「そういえば、安堂さんだけだな。『黒闇姫』を手放す必要はないと言ってくれたのは」

まあ、人間関係が希薄な僕の場合、ナイフに心を奪われている事を知ってる人間は少ないけどね。瑛太と家族と・・あとは、あの少女だけだ。

『黒闇姫』で己の父親を刺し殺した、幼い少女。父親を刺した後、頬を血に染めツツジの花びらを踏みしめ立っていたな。施設に預けられたあの子は、その後どうなっただろうか?

◇◇◇

「笹原さん、着きましたよ」
「んんっ?」
「笹原さん」
「うおっ、眠ってた!」
「笹原さんの神経が図太すぎて怖いです」
「自分でもびびった」

安堂の部下と軽い会話を交わした後、車から降りた。黒塗りの車が下町の風景に馴染んでない。周囲の視線が気になり、僕は足早に車から遠ざかった。安堂の部下が一人、僕の後を追ってきた。そして、声を掛けてくる。

「笹原さん、一人で動かないで下さい」

「別に逃げたりしないよ。『白木屋』の場所はわかっているし。確かこの商店街に入って、すぐだったよね」

「そうです。もう看板が見えてますね」

堺市は刃物で有名だが『白木屋』はその中でも老舗だ。僕は『白木屋』の中に入った。ショーケースに刃物がずらりと並ぶ店内は、何時も僕を圧倒する。

並んでいるのは包丁なのだが、種類が豊富で刃先の輝きが鋭い。スーパーの包丁とは比べられない美しさ。まあ、値段もかなり桁違いだけど。

「よう、尻軽」

安堂が店内で店主とお茶してた。仕事の邪魔だろうに、店主も人がよすぎる。

「第一声が尻軽とは、安堂さんの下品さが際立ちますね」

「お前に言われたくないわ。男と寝るなって警告を無視して、ラブホテルで一晩過ごしやがって。まったく、ムカつく」

「瑛太とはセックスしてないから」

「ラブホテルで、セックス以外に何をするんや?親友とトランプでもしてたとか言い訳するつもりか?」

店主が僕にもお茶を用意してくれたので、安堂の隣に座りお茶を頂く。堺市は千利休の町でもあるので、普通のお茶さえ美味しく感じる。多分スーパーのお茶だと思うのだけど。ここの店主は、刃物以外にこだわりがないからな。

「おいしいです」

「そりゃぁ、よかった。そしたら、『黒闇姫』の手入れするわ。はよ出し」

僕は店主の言葉に素直にしたがった。鞄から『黒闇姫』を取り出し手渡す。鞘に収まるナイフは深い闇を宿し輝いていた。

「ふむ、相変わらず艶かしいナイフやな」
「僕の女ですから」

「ナイフを女に例える笹原がキモい。じゃあ、白木屋の親っさん。それの手入れ頼むわ」

「夜には仕上がっとる。それまでには取りにおいで。笹原さんは、手元に『黒闇姫』がないと落ち着かんやろから」

「分かった」
「よろしくお願いしますっ、て、わっ!」

安堂が腕を掴んで、無理やり僕を立ち上がらせた。そして、店を後にする。

「そしたら、ホテルにいくで」
「えーー」

結局、こうなるのか。

◆◆◆◆◆










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