元警察官はヤクザに囲われ溺愛される『黒闇姫』2

月歌(ツキウタ)

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現役警察官と元警察官

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◆◆◆◆◆


居酒屋の店内で鈴木瑛太すずきえいたを見つけて、声を掛けた。
 
「瑛太、待たせたか?」
「おう、要。今来たところや」
「瑛太はビールか。僕もビールにするかな」
「グレープフルーツサワーがあるぞ。生の」
「それ好き。それにする!」

僕は瑛太の向かい側の席に座った。瑛太は店員を呼ぶと、お酒と焼き鳥を頼んだ。僕は砂肝の串も追加で頼んだ。

「先に頼んどいた料理がもうすぐ来るから、ちょい待ってな。枝豆食うか、要?」

「食べる。瑛太は今は何課にいるの?この時間に上がれるなら、内勤?」

「今は生活安全課や。内勤やし重大事件が起きん限りは、ちゃんと休みはとれてる。今の悩みといえば、毎日隣人トラブルの相談に来る爺さんの口臭が、無茶苦茶臭いことやな。あれは、あかん。口臭について生活指導したい・・」

「あー、分かる。僕も交番勤務だった時に、毎日変なおばあちゃんが怒鳴り込んできてさぁ。僕はノイローゼになり掛けたから」

警察時代を懐かしんでいると、瑛太が僕を真剣な表情で見つめてきた。首を傾げると瑛太が口を開く。

「鞄の中を見せろ」
「嫌だよ」

「お前!まだあれを持ち歩いてるんか?警察官を辞めるきっかけになったもんなんか、はよ捨てろって言ってるのに。とにかく、鞄を寄越せ、要!」

周囲の視線が気になり、仕方なく鞄を瑛太に渡した。鞄の中を漁った瑛太は『それ』を見つけて、がくりと首を落とした。そして、鞄をそのまま僕に返す。

「やっぱり、ナイフ持参かよ」

「『黒闇姫』だよ。最近は何かと物騒だから護身用に持っているだけ」

「ナイフに名前をつける辺りが危なすぎる。まあ、要は生粋のオタクやからな。でも、非番の日にそれを持ち歩いて、職質されたんやから懲りろよ。護身用でも、銃刀法違反に問われるくらいは知ってるやろ?」

「あの時は、マジでソロキャンプに行くとこやったの!正当な理由があるのに、銃刀法違反の容疑で引っ張るとか職権乱用だよね?容疑は晴れたけど、職場にバレて辞表出す羽目になるし。公務員になって安定した生活を送るつもりが、こんな事になるとは・・警察官は嫌いだ」

瑛太は枝豆を口に運びながら、眉をピクリとさせた。だが、なにも言わずにビールに手を伸ばすと喉に流し込んだ。

「ビール、うまっ!」
「仕事終わりは最高だね」

僕は注文した生のグレープフルーツを搾って、お酒に流し込んでいるところだった。果汁がお酒の中に広がる様子を確認してから飲んだ。

「うん!いける。美味しい!」
「で、今の要の仕事はなんや?」

「・・無職の時に風俗店でバイトしてたら、そこを経営してる社長に妙に気に入られた。で、そのまま社長の個人秘書をしてる。内情を知ってるくせにわざわざ聞くなよ、瑛太」

「個人秘書とは笑わせる。やくざの愛人なんかやめろ。脅されて関係を続けているなら、警察に相談しろ」

「今さら警察の世話にはならないよ。それより、やくざの愛人なんかと会ってる、瑛太の方が心配だよ。出世に響くよ、瑛太」

瑛太が苦い表情を浮かべて、酒を煽った。

「出世には興味ない。離婚して独り者やしな。そうやった。早苗が再婚するらしい」

三上早苗みかみさなえは、瑛太の元妻だ。大学時代には、一時期僕と付き合っていたけど、上手くいかずに別れた。その後、瑛太と早苗は付き合い出して結婚した。結局、離婚してしまったけど。

「そっか、三上が再婚か。彼女は可愛いから、引く手あまただったんじゃない?で、瑛太は心に打撃を受けて、僕を飲みに誘ったのか?」

「離婚してしばらく経つから、心に打撃はないな。でも、大学時代の色々を思い出して要を誘った。まじ、学生時代が懐かしい。若かったよな、俺たち」

「オヤジの台詞を吐くなよ~。瑛太は今は彼女はいないのか?」

「出逢いがない~。悲しい~。寂しい~」
「ビールで酔うなよ、バカ」

不意に瑛太に手の甲を撫でられて、僕はびくりと震えた。瑛太がそっと撫でながら、呟く。

「要は・・男と女のどっちが好きなんや?」
「えー、それ聞く?」

僕は苦笑いを浮かべていた。


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