7 / 14
6 ヘルベルト兄上 3
しおりを挟む
◆◆◆◆◆
「クロードを部屋に呼んだ事を、忘れていました!まずいです、ヘルベルト兄上!」
『クロードなど放っておきなさい』
「そんな事は出来ません。私がクロードを呼び出したのですよ?それに、牢獄に会いに来てくれたのは、彼だけでした」
『ガーネット家がカルロッタを救わない事を、クロードは伝えに来ただけだ。君はひどく傷付いていたのに、慰めの言葉もなかった。クロードの事など放っておけばいい、カルロッタ』
ヘルベルト兄上にぎゅっと抱きしめられて、おもわず顔を火照らせてしまった。婚約者のアデルバートとは、手を繋いだだけで・・こんな抱擁は初めて。
「ヘルベルト兄さま、恥ずかしいです」
『ん、顔が赤いね?』
「そこを突っ込まないでください!」
私は恥ずかしくなり、ヘルベルト兄上の抱擁から逃れた。だが、互いの体が離れた途端に、兄上の体が周辺の景色に溶け出し朧になった。
「兄上!?」
『どうやら、カルロッタの体に触れている間だけ実体化できるらしい。でも、カルロッタが見えているなら問題ないかな?』
ヘルベルト兄上は平然とそういうが、とても安心できる姿ではない。輪郭が淡くなり、背景に溶け始めている。
「兄上、消えちゃだめ!嫌だ!兄上!」
『落ち着いて、カルロッタ』
「ヘルベルト兄さまの体が、硝子みたいになってます!消えないで、兄上ーー!」
私は混乱して叫ぶことしか出来なかった。その時、自室の扉が勢いよく開いた。
「カルロッタ!」
「クロード!」
クロードは慌てた様子で私に近づくと、ふらつきながら立つ私を抱き寄せ支えた。
「ふらついているな。お前には、まだ療養が必要だ。ベッドでおとなしく寝ていろ、カルロッタ」
クロードが私を抱きしめたまま、ベッドの方向に促す。でも、今はベッドで寝ている場合ではない。
「クロード、それどころじゃないよ!ヘルベルト兄上が私に逢いに来てくれたのに、消えそうになっていているの!何とかして、クロード!兄さまが、消えちゃう!」
「ヘルベルト?何を言っているんだ、カルロッタ。ヘルベルトが会いにくるとか、あるわけがないだろ。ヘルベルトの夢でも見たのか、カルロッタ?」
「夢じゃないよ、クロード!ヘルベルト兄上をしっかりと見て。おねがい!」
私はクロードの頬を両手で包み込むと、ヘルベルト兄上の方向に無理やり首をひねった。
「うおっ、痛いだろ!やめろ、カルロッタ!お前の怪力は知ってるが、首はヤバイって。イテテ、やめろ~!」
「クロード、見えるでしょ!ほら、ヘルベルト兄上がいるでしょ?ね、ねっ?」
「この部屋にいるのは、俺とカルロッタだけだ。ヘルベルトはこの部屋にはいない」
「そんな・・そこに兄さまがいるのに」
私の視線の先で、ヘルベルト兄上が首を左右に振った。そして、ゆっくりと口をひらく。
『やはり、カルロッタ以外には俺の姿は見えないみたいだ。俺の存在は秘密にした方がよさそうだ。精神を病んだと疑われて、屋敷に閉じ込められる可能性がある』
「っ!」
『カルロッタ。俺は消えたりしないから、落ち着いて行動しなさい。いいね?』
「・・はい、兄上」
「カルロッタ?」
私はクロードの頬から手を離し、視線をさ迷わせながら言い訳を考えた。そして、単純な嘘を付くことにした。
「あの、その・・夢でした」
「夢か・・よし、ベッドで休むぞ。俺への相談事は、ヘルベルトの夢を見た件か?」
「あっ、それが違うの!クロードへの相談事は、パオラの件なんだよ」
「パオラの件・・わかった。とにかく、ベッドに横になれ。医者を呼んだから、診察を受けた後に話を聞く。それでいいか?」
「うん、クロード」
クロードに肩を抱かれながら、私はベッドに向かった。
◆◆◆◆◆
「クロードを部屋に呼んだ事を、忘れていました!まずいです、ヘルベルト兄上!」
『クロードなど放っておきなさい』
「そんな事は出来ません。私がクロードを呼び出したのですよ?それに、牢獄に会いに来てくれたのは、彼だけでした」
『ガーネット家がカルロッタを救わない事を、クロードは伝えに来ただけだ。君はひどく傷付いていたのに、慰めの言葉もなかった。クロードの事など放っておけばいい、カルロッタ』
ヘルベルト兄上にぎゅっと抱きしめられて、おもわず顔を火照らせてしまった。婚約者のアデルバートとは、手を繋いだだけで・・こんな抱擁は初めて。
「ヘルベルト兄さま、恥ずかしいです」
『ん、顔が赤いね?』
「そこを突っ込まないでください!」
私は恥ずかしくなり、ヘルベルト兄上の抱擁から逃れた。だが、互いの体が離れた途端に、兄上の体が周辺の景色に溶け出し朧になった。
「兄上!?」
『どうやら、カルロッタの体に触れている間だけ実体化できるらしい。でも、カルロッタが見えているなら問題ないかな?』
ヘルベルト兄上は平然とそういうが、とても安心できる姿ではない。輪郭が淡くなり、背景に溶け始めている。
「兄上、消えちゃだめ!嫌だ!兄上!」
『落ち着いて、カルロッタ』
「ヘルベルト兄さまの体が、硝子みたいになってます!消えないで、兄上ーー!」
私は混乱して叫ぶことしか出来なかった。その時、自室の扉が勢いよく開いた。
「カルロッタ!」
「クロード!」
クロードは慌てた様子で私に近づくと、ふらつきながら立つ私を抱き寄せ支えた。
「ふらついているな。お前には、まだ療養が必要だ。ベッドでおとなしく寝ていろ、カルロッタ」
クロードが私を抱きしめたまま、ベッドの方向に促す。でも、今はベッドで寝ている場合ではない。
「クロード、それどころじゃないよ!ヘルベルト兄上が私に逢いに来てくれたのに、消えそうになっていているの!何とかして、クロード!兄さまが、消えちゃう!」
「ヘルベルト?何を言っているんだ、カルロッタ。ヘルベルトが会いにくるとか、あるわけがないだろ。ヘルベルトの夢でも見たのか、カルロッタ?」
「夢じゃないよ、クロード!ヘルベルト兄上をしっかりと見て。おねがい!」
私はクロードの頬を両手で包み込むと、ヘルベルト兄上の方向に無理やり首をひねった。
「うおっ、痛いだろ!やめろ、カルロッタ!お前の怪力は知ってるが、首はヤバイって。イテテ、やめろ~!」
「クロード、見えるでしょ!ほら、ヘルベルト兄上がいるでしょ?ね、ねっ?」
「この部屋にいるのは、俺とカルロッタだけだ。ヘルベルトはこの部屋にはいない」
「そんな・・そこに兄さまがいるのに」
私の視線の先で、ヘルベルト兄上が首を左右に振った。そして、ゆっくりと口をひらく。
『やはり、カルロッタ以外には俺の姿は見えないみたいだ。俺の存在は秘密にした方がよさそうだ。精神を病んだと疑われて、屋敷に閉じ込められる可能性がある』
「っ!」
『カルロッタ。俺は消えたりしないから、落ち着いて行動しなさい。いいね?』
「・・はい、兄上」
「カルロッタ?」
私はクロードの頬から手を離し、視線をさ迷わせながら言い訳を考えた。そして、単純な嘘を付くことにした。
「あの、その・・夢でした」
「夢か・・よし、ベッドで休むぞ。俺への相談事は、ヘルベルトの夢を見た件か?」
「あっ、それが違うの!クロードへの相談事は、パオラの件なんだよ」
「パオラの件・・わかった。とにかく、ベッドに横になれ。医者を呼んだから、診察を受けた後に話を聞く。それでいいか?」
「うん、クロード」
クロードに肩を抱かれながら、私はベッドに向かった。
◆◆◆◆◆
17
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説

ある国の皇太子と侯爵家令息の秘め事
きよひ
BL
皇太子×侯爵家令息。
幼い頃、仲良く遊び友情を確かめ合った二人。
成長して貴族の子女が通う学園で再会し、体の関係を持つようになった。
そんな二人のある日の秘め事。
前後編、4000字ほどで完結。
Rシーンは後編。

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く
小葉石
BL
今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。
10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。
妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…
アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。
※亡国の皇子は華と剣を愛でる、
のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。
際どいシーンは*をつけてます。


婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

追放系治癒術師は今日も無能
リラックス@ピロー
BL
「エディ、お前もうパーティ抜けろ」ある夜、幼馴染でパーティを組むイーノックは唐突にそう言った。剣術に優れているわけでも、秀でた魔術が使える訳でもない。治癒術師を名乗っているが、それも実力が伴わない半人前。完全にパーティのお荷物。そんな俺では共に旅が出来るわけも無く。
追放されたその日から、俺の生活は一変した。しかし一人街に降りた先で出会ったのは、かつて俺とイーノックがパーティを組むきっかけとなった冒険者、グレアムだった。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。

【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!
ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。
僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。
僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。
えへへ。
はやくニールと結婚したいなぁ。
17歳同士のお互いに好きすぎるお話。
事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。
ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。
_______________
*ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。
*短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。
*不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。
*甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)

【完】悪役令嬢の復讐(改)全6話
325号室の住人
BL
初出 2021/10/08
2022/11/02 改稿、再投稿
わたくしマデリーンは18歳の誕生日の今日、2歳年上の第2王子から婚姻式をブッチされました。
「お前は国外追放だ!!」
と、花嫁衣装のまま国境の森に追放。
良いですわ。そちらがその気なら………
悪役令嬢が国外追放に決まった時、友人達はプランBで、動き出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる