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5 ヘルベルト兄上 2
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◆◆◆◆◆
ヘルベルト兄上は、泣きじゃくる私をその胸に抱きしめた。兄上の体は冷たく温もりがなかった。だけど胸が熱くなって、私はヘルベルト兄上に抱きついていた。
『俺はずっと側にいた。カルロッタが牢獄で泣いて救いを求めていた時も、処刑台で頸をはねられた時も・・俺は側にいた』
「え?」
『だが、俺はカルロッタを慰める事さえ出来なかった。俺の言葉がお前に届かぬまま、カルロッタは牢獄から連れ出された。カルロッタを処刑台に引きずり出した男を、俺は殺そうとした。だが、俺には特別な力はなく何も出来なかった。そして、処刑は執行されてしまった』
「っ!」
『カルロッタの処刑は執行された。だが、処刑執行人の不手際で、お前の頸が処刑台から転げ落ちてしまった』
「わ、私の頸が転げ落ちた!?」
処刑台から転げ落ちる己の頸を想像して、気分が悪くなってしまった。
『・・辛い話をして申し訳ない。だが、とても重要な事なんだ。俺の話を聞いてくれるかい、カルロッタ?』
「はい、兄さま」
『カルロッタの頸が落ちても、すぐには誰も拾おうとしなかった。だから、俺がお前の頸を拾おうとしたんだ。お前の体に触れられぬ事は分かっていた。だが、それでもそのまま放っておくなど・・俺には出来なかった』
「ヘルベルト兄さま・・」
『だが、その時に奇跡が起こった!』
「奇跡?」
『カルロッタの魂が、頭部から蝶の様に飛び立ったのだ。俺は慌ててお前の魂に触れた。そして、気がつくと・・カルロッタと共に時を遡っていた。カルロッタは生きていて、パオラを睡蓮の沼に突き落とす直前だった。だが、お前が二度目の過ちを犯すことはなかった。カルロッタは、よく耐えたね』
「あの瞬間も、兄さまは側にいらしたのですか?ですが、ヘルベルト兄さまの声が聞こえたのも姿が見えたのも、今がはじめてです。もっと早くにお逢いしたかった」
『俺もお前に逢いたかった。共に時を越えても、カルロッタは俺の存在に気が付かない。だから、もう諦めていたんだ。今までと同じように、届かぬと知りながらお前に声を掛ける。そんな日々が始まると思っていた。だが・・違った』
「はい、兄上!ヘルベルト兄さまの存在を肌で感じています。こんな奇跡ってあるのですね!ならば、あの牢獄の孤独な時間にも、意味がありました。私は様々なものを失いましたが、大切なものを得ました」
『カルロッタ』
「これからも傍にいてください、兄さま」
『勿論だ、カルロッタ』
その時、部屋の扉がノックされた。
「カルロッタ、大丈夫か?」
それは、従兄弟であり義兄でもあるクロードの声だった。
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ヘルベルト兄上は、泣きじゃくる私をその胸に抱きしめた。兄上の体は冷たく温もりがなかった。だけど胸が熱くなって、私はヘルベルト兄上に抱きついていた。
『俺はずっと側にいた。カルロッタが牢獄で泣いて救いを求めていた時も、処刑台で頸をはねられた時も・・俺は側にいた』
「え?」
『だが、俺はカルロッタを慰める事さえ出来なかった。俺の言葉がお前に届かぬまま、カルロッタは牢獄から連れ出された。カルロッタを処刑台に引きずり出した男を、俺は殺そうとした。だが、俺には特別な力はなく何も出来なかった。そして、処刑は執行されてしまった』
「っ!」
『カルロッタの処刑は執行された。だが、処刑執行人の不手際で、お前の頸が処刑台から転げ落ちてしまった』
「わ、私の頸が転げ落ちた!?」
処刑台から転げ落ちる己の頸を想像して、気分が悪くなってしまった。
『・・辛い話をして申し訳ない。だが、とても重要な事なんだ。俺の話を聞いてくれるかい、カルロッタ?』
「はい、兄さま」
『カルロッタの頸が落ちても、すぐには誰も拾おうとしなかった。だから、俺がお前の頸を拾おうとしたんだ。お前の体に触れられぬ事は分かっていた。だが、それでもそのまま放っておくなど・・俺には出来なかった』
「ヘルベルト兄さま・・」
『だが、その時に奇跡が起こった!』
「奇跡?」
『カルロッタの魂が、頭部から蝶の様に飛び立ったのだ。俺は慌ててお前の魂に触れた。そして、気がつくと・・カルロッタと共に時を遡っていた。カルロッタは生きていて、パオラを睡蓮の沼に突き落とす直前だった。だが、お前が二度目の過ちを犯すことはなかった。カルロッタは、よく耐えたね』
「あの瞬間も、兄さまは側にいらしたのですか?ですが、ヘルベルト兄さまの声が聞こえたのも姿が見えたのも、今がはじめてです。もっと早くにお逢いしたかった」
『俺もお前に逢いたかった。共に時を越えても、カルロッタは俺の存在に気が付かない。だから、もう諦めていたんだ。今までと同じように、届かぬと知りながらお前に声を掛ける。そんな日々が始まると思っていた。だが・・違った』
「はい、兄上!ヘルベルト兄さまの存在を肌で感じています。こんな奇跡ってあるのですね!ならば、あの牢獄の孤独な時間にも、意味がありました。私は様々なものを失いましたが、大切なものを得ました」
『カルロッタ』
「これからも傍にいてください、兄さま」
『勿論だ、カルロッタ』
その時、部屋の扉がノックされた。
「カルロッタ、大丈夫か?」
それは、従兄弟であり義兄でもあるクロードの声だった。
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