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4 ヘルベルト兄上1

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部屋付きの使用人をクロードへの言付けに向かわせると、私は部屋に一人きりになった。

私はふらつきながら、ベッドの縁に腰をおろした。そして、部屋の扉をぼんやりと見つめながら、独り言を呟いていた。

「私がパオラの減刑を求めたら、クロードは不審に思うかな?彼が理由を尋ねてきたらどうしよう。はぁ、考えが纏まらない」

『大丈夫かい、カルロッタ?』
「大丈夫ではないよ、兄上・・」
『ベッドに入って休みなさい』
「そうだね、ヘルベルト兄上・・んっ?」

私は亡くなった兄「ヘルベルト」の名を、自然と口にしていた。その事に驚き、私は兄の声が聞こえた方向に視線を向けた。

「ひゃいっ!?」

死んだはずのヘルベルト兄上が、私の隣に立っていた。そして、目があった。

「あっ、あにうえーーーー!?」

私は叫び声を上げて、ベッドから飛び退いた。そして、カルロッタ兄上から距離を取る。

『俺が見えるのかい、カルロッタ!?』
「あうっ、うー~??」

うっすらと背景に溶けたヘルベルト兄上が、嬉しそうな微笑みを浮かべた。

『奇跡が起きた、カルロッタ!』
「奇跡?」

『そうだよ、カルロッタ!俺は病で死んだ後も、ずっとお前の側にいた。カルロッタに、何度も話し掛けてきたんだよ。だけど、これまで一度も返事は返って来なかった。だが、お前の眼差しが俺を捉えた!そして、俺たちは会話を交わしている。俺たちに奇跡が起きたんだよ、カルロッタ!』

「ヘルベルト兄上・・いえ、そんな事はあり得ないよ!だって、兄上は病で亡くなって天国に行ったのだから。現世にいるはずないよ。あ、ああ!わかった!」

『カルロッタ?』

「貴方は死神ね!地獄からの使者が兄上に扮するなんて、あんまりだよ!」

『落ち着いて、カルロッタ』

死神が私に近づいてきてきた。私は恐怖から後ずさった。そして、背中が壁にぶつかる。逃げ道を失った私は、恐怖で震え上がった。

「嫌だ!私は、死にたくない!人殺しだけど、悪い人間だけど、死にたくない!怖いの、怖いよ、助けて。いやぁあーーー!」

私は壁に背を預けたまま、ずるずると床に座り込んだ。涙が溢れて止まらない。

「私は頸をはねられたの!すごく怖かった。でも、目覚めたら生きていて・・今度は、パオラを殺さなかった!なのに、許してはくれないの?私はまた死ぬの?」

『カルロッタ、俺は死神じゃない!俺をよく見るんだ、カルロッタ。俺はお前の兄だ。ただ一人の兄の、ヘルベルトだ!』

背景に溶けていた兄上の姿が、目の前ではっきりと実態を持ち始める。私は懐かしいヘルベルト兄上の姿に、おもわず手を伸ばしていた。ヘルベルト兄上はゆっくりと床に膝をつくと、私の手を取った。

「ヘルベルト兄上?本物の兄さま?」
『本物だよ、カルロッタ』

指先が触れあい、互いの存在を確認する。余りの事に、私は兄上と手を重ねながら泣き出していた。

「ヘルベルト兄さま、どうして今なのですか?どうして、もっと早くに会いに来て下さらなかったの?私は牢獄で一人で過ごし、頸をはねられて死んだのですよ。ひどいです!兄さまは、ひどいです!」



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