6 / 8
アランが育ての親になる
しおりを挟む
◆◆◆◆◆
育ての親のアランは、ちょっと変わり者の魔人である。元々は、魔王城ではなく森の中で一人で暮らしていた。魔人は群れる事を嫌う種族だが、そんなアランにも親友がいた。
それが、俺の父親のスティーグ = ヴァレンティンだ。ある日、スティーグとアランの間で不穏な会話が交わされた。
「白の魔王に真名を知られて以来、俺は魔王に使役されている。真名を知られたのは俺の不覚ではあるが、寿命が尽きるまでこの状態が続く事は耐え難い」
「しかし、真名を知られた以上は命令に従う他にないだろ。諦めろ、スティーグ」
「相変わらず、アランは冷たいな。だが、同じ魔人なら、自由を奪われる辛さは理解してくれるだろ?」
「まあ、確かに」
「ならば、俺に協力してくれ」
「協力?」
「俺は魔王の支配から逃れる方法を探してきた。まあ、簡単には見つからないと半ば諦めていたのだが、奇跡が起こった」
「奇跡とは大袈裟な事を言う」
「奇跡さ。聖女が俺にもたらす奇跡」
「聖女がもたらす奇跡?」
「そうだ、アラン。俺は魔王に命じられて、人間界で聖女を探し続けてきた。そして、ようやく聖女を見つけだす事ができた。聖女の姿を目にして、俺は名案を思い付いた。白の魔王を出し抜き、奴の支配から脱却する方法だ」
「そんな方法があるのか?」
「それが、あったんだ。白の魔王が聖女を抱く前に、俺が聖女の処女を奪ってしまえばいい。聖女の処女を奪われて、白の魔王は怒り狂うだろうな?だが、その頃には魔人の俺は聖女の光に焼かれて死んでいる訳だから、全く問題なしだ」
「死ぬのか、スティーグ?」
「ああ、死ぬ」
「そうか。だが、ここまでの話では、俺がお前に協力する場面は無さそうだがな?」
「俺が死んだ後の話だ、アラン」
「スティーグが死んだ後の話?」
「聖女の世話を頼みたい」
「冗談だろ?」
「聖女が処女を失えば、特別な力は徐々に失われ普通の女になる。聖女が普通の女になれば、白の魔王も興味を失う筈だ。それまで、聖女を匿って欲しい」
「俺がそれに応じると思うのか?」
「アラン、俺は死ぬ」
「だからなんだ?」
「遺言だ」
「お前の遺言の為に、俺は白の魔王に恨まれろと?冗談ではないぞ、スティーグ」
「お前は俺と違い特別な魔人だ。白の魔王に恨まれはしても、お前を殺せはしない。もしも、アランを殺せば他の魔人が一斉に白の魔王に攻撃を仕掛ける。白の魔王は領地の統治者として、そんな選択はできない・・おそらく」
「おそらくだろ?」
「おそらく」
「はぁ・・分かったよ」
「面倒を見てくれるのか?」
「人の命は長くはないかはな。衣食住を与えるだけでよいなら、引き受ける」
「それでいい。ん、まてよ?万一、聖女が孕んだ場合はガキの世話を頼む」
「孕まないだろ?」
「たぶんな。だが、念のために遺言に追加しておく。よろしくな、アラン」
「承知した、スティーグ」
アランもスティーグも、聖女が子を孕むとは全く考えてはいなかった。だが、現実は小説より奇なり。聖女は子を孕み産んだ。子は瀕死状態だったが、聖女の残り僅かな聖なる光を与えられ命をとりとめた。そして、聖女は亡くなった。
困り果てたのは、アランだった。まさか、聖女とスティーグの間に子が出来るとは考えもしなかったのだから。だが、アランは魔人にも関わらず律儀な奴だった。
こうして、アランは俺の育ての親となったのだ。
◆◆◆◆◆
育ての親のアランは、ちょっと変わり者の魔人である。元々は、魔王城ではなく森の中で一人で暮らしていた。魔人は群れる事を嫌う種族だが、そんなアランにも親友がいた。
それが、俺の父親のスティーグ = ヴァレンティンだ。ある日、スティーグとアランの間で不穏な会話が交わされた。
「白の魔王に真名を知られて以来、俺は魔王に使役されている。真名を知られたのは俺の不覚ではあるが、寿命が尽きるまでこの状態が続く事は耐え難い」
「しかし、真名を知られた以上は命令に従う他にないだろ。諦めろ、スティーグ」
「相変わらず、アランは冷たいな。だが、同じ魔人なら、自由を奪われる辛さは理解してくれるだろ?」
「まあ、確かに」
「ならば、俺に協力してくれ」
「協力?」
「俺は魔王の支配から逃れる方法を探してきた。まあ、簡単には見つからないと半ば諦めていたのだが、奇跡が起こった」
「奇跡とは大袈裟な事を言う」
「奇跡さ。聖女が俺にもたらす奇跡」
「聖女がもたらす奇跡?」
「そうだ、アラン。俺は魔王に命じられて、人間界で聖女を探し続けてきた。そして、ようやく聖女を見つけだす事ができた。聖女の姿を目にして、俺は名案を思い付いた。白の魔王を出し抜き、奴の支配から脱却する方法だ」
「そんな方法があるのか?」
「それが、あったんだ。白の魔王が聖女を抱く前に、俺が聖女の処女を奪ってしまえばいい。聖女の処女を奪われて、白の魔王は怒り狂うだろうな?だが、その頃には魔人の俺は聖女の光に焼かれて死んでいる訳だから、全く問題なしだ」
「死ぬのか、スティーグ?」
「ああ、死ぬ」
「そうか。だが、ここまでの話では、俺がお前に協力する場面は無さそうだがな?」
「俺が死んだ後の話だ、アラン」
「スティーグが死んだ後の話?」
「聖女の世話を頼みたい」
「冗談だろ?」
「聖女が処女を失えば、特別な力は徐々に失われ普通の女になる。聖女が普通の女になれば、白の魔王も興味を失う筈だ。それまで、聖女を匿って欲しい」
「俺がそれに応じると思うのか?」
「アラン、俺は死ぬ」
「だからなんだ?」
「遺言だ」
「お前の遺言の為に、俺は白の魔王に恨まれろと?冗談ではないぞ、スティーグ」
「お前は俺と違い特別な魔人だ。白の魔王に恨まれはしても、お前を殺せはしない。もしも、アランを殺せば他の魔人が一斉に白の魔王に攻撃を仕掛ける。白の魔王は領地の統治者として、そんな選択はできない・・おそらく」
「おそらくだろ?」
「おそらく」
「はぁ・・分かったよ」
「面倒を見てくれるのか?」
「人の命は長くはないかはな。衣食住を与えるだけでよいなら、引き受ける」
「それでいい。ん、まてよ?万一、聖女が孕んだ場合はガキの世話を頼む」
「孕まないだろ?」
「たぶんな。だが、念のために遺言に追加しておく。よろしくな、アラン」
「承知した、スティーグ」
アランもスティーグも、聖女が子を孕むとは全く考えてはいなかった。だが、現実は小説より奇なり。聖女は子を孕み産んだ。子は瀕死状態だったが、聖女の残り僅かな聖なる光を与えられ命をとりとめた。そして、聖女は亡くなった。
困り果てたのは、アランだった。まさか、聖女とスティーグの間に子が出来るとは考えもしなかったのだから。だが、アランは魔人にも関わらず律儀な奴だった。
こうして、アランは俺の育ての親となったのだ。
◆◆◆◆◆
10
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
どんな者でも堕とす媚薬を作成した研究者は同居の騎士に慰められる
月下 雪華
BL
精神についての研究を続けていたルジェダはとある命を国から受けることになる。「どんな者でも快楽に堕とす媚薬」それは彼が命を受けて作り出したものであり、その後に彼の人生に大きな変化を与えるものであった。
ルジェダは手間と時間をかけたそれが漸く完成し、とても浮かれていた。折角だから同居しているルイゾンと飲もう。味見に上司から貰ったワインを1口口に含んだ瞬間、意識が飛んで……
優しいが裏のある騎士×素直で真面目な研究者
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
眠れぬ夜の召喚先は王子のベッドの中でした……抱き枕の俺は、今日も彼に愛されてます。
櫻坂 真紀
BL
眠れぬ夜、突然眩しい光に吸い込まれた俺。
次に目を開けたら、そこは誰かのベッドの上で……っていうか、男の腕の中!?
俺を抱き締めていた彼は、この国の王子だと名乗る。
そんな彼の願いは……俺に、夜の相手をして欲しい、というもので──?
【全10話で完結です。R18のお話には※を付けてます。】
屈強冒険者のおっさんが自分に執着する美形名門貴族との結婚を反対してもらうために直訴する話
信号六
BL
屈強な冒険者が一夜の遊びのつもりでひっかけた美形青年に執着され追い回されます。どうしても逃げ切りたい屈強冒険者が助けを求めたのは……?
美形名門貴族青年×屈強男性受け。
以前Twitterで呟いた話の短編小説版です。
(ムーンライトノベルズ、pixivにも載せています)
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
花を愛でる獅子【本編完結】
千環
BL
父子家庭で少し貧しい暮らしだけれど普通の大学生だった花月(かづき)。唯一の肉親である父親が事故で亡くなってすぐ、多額の借金があると借金取りに詰め寄られる。
そこに突然知らない男がやってきて、借金を肩代わりすると言って連れて行かれ、一緒に暮らすことになる。
※本編完結いたしました。
今は番外編を更新しております。
結城×花月だけでなく、鳴海×真守、山下×風見の番外編もあります。
楽しんでいただければ幸いです。
【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった
佐伯亜美
BL
この世界は獣人と人間が共生している。
それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。
その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。
その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。
「なんで……嘘つくんですか?」
今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる