ホラー短編集【かなり短い】

俺は幽霊を見たことがない

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俺は幽霊を見たことがない。

霊感が無いからと言われたらそれまでだが、TwitterＸでスピリチュアルな話題で盛り上がっている集団を見かけると可哀想になる。

おそらくは善良である彼等が幽霊に悩まされ常時頭痛や吐き気に見舞われているなら、気の毒でならない。

俺は彼等より死に関わっている。

風俗街の外れで古い産婦人科病院を営んでいる。患者層は風俗嬢がメインだが、最近はたちんぼが増えて素人の患者もよく診る。

性病で受診する患者と、人工中絶希望で訪れる女性が大半だ。中には性病の治療に受診して妊娠が発覚する事もある。

12週未満の初期中絶は日帰り手術が可能で役所の届けも不要。この辺りで患者には来てほしいものだ。

でも、素人売春が増えた事もあり、妊娠12週以降の中絶も増えている。

中期中絶は人工的に陣痛を起こして子を死産させる為、4日ほど入院が必要になる。役所に「死産届」を出し火葬する必要があるが、それを嫌がる患者も多い。

「闇で処理はできないですか？」

そう問う患者もいるが、その場合は軽くあしらって帰ってもらう。他人の為に医者が違法を働くと思う女の思考がわからない。

妊娠22週以降中絶自体が禁止されている。胎児が母体外においても生存できると考えられているからだ。その時期になると女は悲壮な表情で懇願してくる。

「闇で処理はできないですか？」

この言葉を聞くたびに、ブラック・ジャックを自分で探せよと思う。丁重に断って追い返すだけだけどな。

中絶後は契約している胎児収集業者が処理してくれる。火葬場で焼却してくれるのですべてを任せている。先代は火葬時に水子供養を頼んでいだが、俺はそれを取りやめた。

必要を感じないからだ。
中絶胎児は丁重に扱う。
それだけ。

多くの死に関わっている。
でも、俺は幽霊を見たことがない。



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