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見合い結婚の夫婦

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◆◆◆◆◆

見合い結婚で夫の妻となった。

お互いに趣味が大事で婚姻時期を逃してしまった。そんな二人を引き合せてくれたのは、夫の上司だった。

子供には恵まれなかったけど、お互いに不満はなかった。

夫は上場企業に勤める堅実な人で、酒も博打もしない。趣味は菊花石の収集。菊の花が咲く模様が石を彩る菊花石。

石を集める趣味は正直なところ理解できないけど、菊花石は美しいと思う。


私の趣味はアクセサリー作り。専業主婦としての用事を終えると、趣味に全ての時間を費やす。

キラキラとしたアクセサリーは私の心をワクワクさせる。最近はネット販売も軌道に乗りそれなりにファンもでき始めた。

全てがうまくいっていた。

でも、私達を引き合わせてくれた上司が急逝すると、夫は私に別れを切り出した。

「どうして?」

そう尋ねると、夫は静かに返事をした。『やっぱり子供が欲しい』と。それは、私にはもう叶えてあげられないこと。それを理由に離婚を切り出すなんてずるい。

「貴方ももうよい年齢でしょ?今から子供なんでできないよ。ねえ、子供が欲しいなら養子縁組を考えましょ?だから離婚なんて‥言わないで」

「子供ができたんだ」
「え?」

「彼女に子供ができた。もう二歳になる。上司が仲人だから君と別れることもできずに、一人で子育てさせてしまった。でも、彼女は待ってくれた。だがら、責任をとって結婚したい。すまない、敦子。慰謝料はいくらでも払う。だから、俺を解放してくれ」

「‥‥は?解放って何言ってるの?俊彦さんと私は夫婦だよ?解放って、なにその言い方。子供が二歳って‥私を騙していたんだ。妻を騙していたの、貴方は!」

私は怒りに任せて夫の頬を叩いた。でも、夫は真っ直ぐに私を見たまま呟く。

「俺達が本当に夫婦だった時があるか?俺達はバラバラに生きてた。それでいいと思ってた。でも違ったんだ。彼女と知り合って、子供ができて‥‥これこそが夫婦で家族だと思ったんだ。俺達は一度も夫婦じゃなかった」

夫の言葉に私は泣き出していた。同時に激しい憎悪が胸に渦巻く。憎しみは一点に集中して私の心を支配した。

◇◇◇

私は刑務所の中で夫と離婚した。

二歳の子供を夫のコレクションの菊花石で殴って殺した。

私は元夫から子供と趣味を奪った。

その為に私は自由を失い刑務所にいる。だけど、刑務所の中の私の方がきっと自由だと思う。

今頃、元夫は見えない檻に閉じ込められて世間の冷たい視線に晒されている。


◆◆◆◆◆


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