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ゴスロリの母

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「普通の服で行くって言うから信じたのに、なんで参観日にゴスロリなんて着てくるのよ、お母さん!もうやだ!」

娘が泣き出したので慰めようとして肩に手を置くと、強い力で弾かれた。心がぎゅっと痛くなったけど我慢する。

娘は思春期なんだから、怒っちゃ駄目。

「みんなお母さんを見て笑ってた。男子は『ゴスロリババァ』って言ってたし。女子も薄笑い浮かべてお母さんのこと見てたよ。なのに、お母さんは私に手をふって名前を呼ぶし!親子だってバレたじゃない。もう学校に行きたくない!」

「もしかして‥‥イジメられてるの?だから学校に行きたくないの?」

「そうじゃない!なんでわかんないのよ。お母さんがゴスロリ着て参観日に来たからワルイの!全部お母さんのせいなの!学校に行きたくないのはお母さんの責任なんだから!」

娘がひどく興奮して泣き出す。でも、どうして私が責められるのか分からない。私は好きな服を着て行っただけなのに、なんで全否定されないと駄目なんだろ?

「母親は好きな服を着たら駄目ってこと?でも、それって私の人権を無視してない?今は多様性の時代なんだから、貴女には理解して欲しいわ」

「人権とか多様性とか今は関係ないの!TPOを弁えてって言いたいだけ。お母さんがイベントでゴスロリを着たいなら着ていいよ。でも、参観日にゴスロリ着て学校に来るなんて絶対おかしいよ。どうしてわかってくれないの!」

「好きな服を着ることは人をハッピーにするのよ。自己啓発セミナーでそう言ってたの。多様性を受け入れて自由に生きるとこ。それが何よりも大事なの。」 

「今は多様性の話はしてないの!」

「多様性は大事よ?お母さんはゴスロリが好きで着るとワクワクするから着るの。貴方も制服が嫌なら着なくていいのよ?もしも先生が反対したら、私が学校に掛け合ってあげるから。」

突然娘が立ち上がる。
私を睨みつける娘は涙ぐみながら呟く。

「もういい‥‥時間の無駄」

そう言うと二階に駆け上がってしまった。リビングで一人になった私は心がチクチクしてため息をつく。

娘は思春期の真っ只中。反発はきついけど、成長の証だから見守るだけ。でも、やっぱり落ち込む。こんな時はリビングの端に置いた姿見に自身を写す。

「うん、いい」

幻想的で退廃的な装い。その基本をおさえて、黒を基調にしたドレス。レースも帽子も黒でシックに統一している。ウイッグは赤毛のウエーブヘア。

「参観日に合わせてコーディネートしたのにな‥‥‥。」

いつか娘も理解してくれるだろう。



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