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拝み屋、散花!

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困った。

陰間茶屋から料理屋に向かう途中で雨に降られた。年増の陰間がのる籠は雨漏りがする。

若い頃はもっと立派な籠に乗っていた。金回りの良い旦那や僧侶にチヤホヤされて、贅沢もたっぷり味わった。

陰茎を咥え込みながらね。
まあ、花の命は短いので仕方ない。そろそろ転職を考えねば。

料理屋に着いた頃には随分と濡れてしまった。まあすぐに裸になってずぶ濡れになるから良しとするか。

座敷に上がると常連客が待っていた。

「よう、散花」
「喜助さん、お待たせしました」
「ん、雨に濡れたか」
「ほんの少し」
「そしたら、風邪をひく前に温めたろ。床の準備はできてるか?」

喜助が女中に尋ねるとすぐに寝所に案内された。なかなかに良い部屋だ。

しかし‥‥。

寝床の上に死霊がいてる。いや、それとも生霊か?そこまでは見分けがつかん。

「どうした、散花?」

見た目は町娘ですごく気がきつそう。なんか、私の事睨んでくるし。そして喜助に向ける眼差しが熱すぎる。これは‥‥。

「喜助さん」
「なんや?」
「女を泣かせたんと違いますか?」
「何やいきなり!」

「寝床に死霊か生霊おります。多分、喜助さんの知り合いやと思いますから、私は遠慮させてもらいます。喜助さんは死霊と仲良くやって下さい。ほな、さいなら」

「散花、ちょいまち!」

喜助が袖を強く掴んだのでそのまま胸に飛び込んでしまう。喜助が私を抱きしめて見つめる。大工の喜助は相変わらずいい男や。

「喜助さん」

「あー、確かに最近‥‥女に泣かれたな。女と寝たあとに旦那がいること分かって、別れた。俺は悪ないで。知らんかったんやから。」

「その人は左目の下にホクロはある?」
「たしかあった。え、まじでおるの?」
「寝床におるよ」
「嘘やろ?つまり女は身投げでもしたってことか?」
「生霊か死んで化けて出たんかまでは分からんわ。」

「まじか。とにかくなんとかしてくれ。お前の裏稼業は拝み屋やろ。」

陰間では食べられなくなって、拝み屋をはじめて二年目。中々に人気の拝み屋になったが、祓うところは誰にも見せたことのない秘術。

「喜助さん、そしたら死霊か生霊かわからんけど祓うわ。秘術を使うけど秘密は守ってや」

「もちろんや、散花」

喜助から離れると私は寝床に近づく。そして女にあるモノをぶちまける。

「秘術!通和散~~~~~!」

後孔を解して柔柔とする通和散は万能だった。色々試したがこれが一番効く!

塩より効く!

女は通和散を被ると急に苦しみだして体が溶け出す。そしてトロトロと妖しげな雫を残して消えた。

「よし、処分した」
「えぇ??」

「今日は通和散なくなったし肛交はできんけど堪忍ね、喜助さん」

「ちょい待って‥‥処分ってどういう意味や??散花、怖いねんけど」

「生霊なら元の体に戻るし、死霊なら成仏してるとおもうわ‥‥‥多分?そしたら、私はこれで失礼します」

「あかん!」
「喜助さん?」
「‥‥‥‥怖いからそばにおって」
「えっ!?」
「たのむ」
「そんな事言われても、寝床はべたべたやし‥‥‥困ります」

「好きや、散花」

その言葉にため息が出た。そんな言葉を誰彼構わず呟くから霊に取り憑かれる。

困った人。

「ほんまに困った人。」
「そうや。俺は困った男や」
「多分‥‥‥生霊やと思う」
「そうか」

薄っすらと笑う喜助。

時々恐ろしくなる。この人は人の生き死に関心がない。ただそうかと受け止めるだけ。

私が死んだら‥‥‥少しは悲しんでくれるやろうか?



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