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犬小屋の男

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告白できずに時は過ぎて、男は病で亡くなった。

自意識過剰かもしれないが、お互いに意識し合っていたと思う。それは恋ほどはっきりとした形は取らず、ただ曖昧に二人の間に存在していた。

空っぽの犬小屋を見るたびに寂しさが募る。そこが男の定位置だった。

睡眠薬で眠らせた男の体を犬小屋に押し込んだ時は、興奮で全身から汗が吹き出し達成感から射精していた。

犬小屋での生活は男に不自由を与えたが、男に想いが伝わるように丁寧に世話をした。

だが、徐々に生気を失う男は食事を摂らなくなった。衰弱が激しく四つん這いもできなくなると、床に糞尿を垂れ流す様になる。

犬小屋から出す選択肢はなかったので、弱る男を俺は懸命に看病した。でも、看病疲れで男の事が時々憎くなりそんな自分を呪った。

ある朝、犬小屋の男が完全に動かなくなった。しばらく観察したがやはり動かない。髪や頬に触れて冷たくなっている事を確認する。

死んだ男に愛情は湧かなかった。

なのですぐに山中に埋めに行った。埋めたあとは、これが本当の樹木葬なんだなと森を眺めて感動して涙を流した。

男がいなくなった犬小屋を見つめると、寂しさが心に空洞をつくる。この空洞を埋めるためにも、三人目が必要だ。

犬小屋で二人の男を死なせたけれど、三人目は長生きさせようと決意を新たにした。ほんの少し、心が軽くなる。


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