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不味いホットドッグを売る男

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不味いホットドッグを売る男がいる。最初は本当に不味くて、男の眼の前でゴミ箱にホットドッグを捨てた。

キッチンカーの中の男が悔しそうに唇を噛む姿を見て、何とも小気味よい気持ちになった。

お店はすぐに潰れると思ってた。脱サラしてキッチンカー買って、なんの苦労もなく成功したら腹が立つから‥潰れろって思った。

なのに‥‥。

「美味しかった。ごちそうさま!」
「いつもありがとうございます」

常連客になってしまった。ランチタイムには客が並ぶようになった。臭みがあったソーセージが野趣あふれる旨味に変ったのはいつからだろう。食感もいい。

柔らかいだけでなく、コリコリとした歯ごたえがある。店主に『美味しさの秘訣は?』と問うものもいる。答えは何時も同じ。

『食材に愛情を注ぎ余すことなく使う事です』って。

そう伝える時の店主の男の目は生き生きとしている。好きな事をして儲ける。それってすごく難しいと思う。会社勤めの私には羨ましくて、ちょっと憎らしい。

でも、男に微笑まれると嬉しい。
まあ、ハンサムだから仕方ないか。

今日のホットドッグは特に美味しかった。脂の旨味が口内に広がりもう虜。思わず唇を舌で舐めると、店主と目があってしまった。

男が少し眩しそうに目を細めた。
もしかしたら、私が‥‥欲しいのかな?

なんて‥‥ね。



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