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1-19 食料庫の中で
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◆◆◆◆◆
「ねえ、エレノア、領地の別邸って馬車でどれくらいかかるの?」
薄暗い食料庫で片付けをしていると、すぐに腰が痛くなってきた。仕方なく、小麦袋に腰を掛け、忙しく働くエレノアに話しかける。
「馬車だと三時間くらいですね。本邸にはセドリック様のご両親が住んでいますが、別邸には管理人だけなので、掃除も準備も必要かもしれません」
「三時間!?そんなにかかるの?最悪だわ。」
「遠い領地もありますから、三時間で済むのは近い方かと。」
「そうだけど…。でも、三時間も馬車に乗るのはルイ様の体に負担だわ」
「それは気になりますね、ミアさん」
「あ、呼び捨てでいいのよ。私もエレノアって呼んでるし」
「そうですね…では、ミア」
エレノアは芋の選別をしながら、手際よく箱に詰めている。働き者の彼女を眺めながら、私は愚痴を漏らした。
「男ってなんで狩りなんか好きなんだろうね?キツネ狩りとか、野蛮じゃない?」
「…私は毎年のキツネ狩りが楽しみですけど」
「そうなの?けっこう野蛮な趣味してるのね」
「野蛮、ですか?でも…参加した使用人には、セドリック様からキツネの毛皮で作った小物が頂けるのです。それが、みんなの密かな楽しみでして」
キツネの毛皮ですって!?
「たとえばコートとか?」
「奥様やお嬢様には毎年、毛皮のコートが贈られますね。私はファーをいただいたことがありますが、仕立てがよくて一生ものです」
ヴィオレットが毎年毛皮のコートをもらってるの!?私はまだ一度ももらったことないのに!
「私もコートを貰うわ」
「いえ…使用人はコートは貰えないかと」
エレノアの言葉に、少しムッとしてすぐ反論した。
「私は使用人じゃないわ!ルイの母親の私がコートをもらえないなんて、ありえないでしょ」
「そ、そうですね…。ごめんなさい。」
「わかればいいのよ」
それにしても、ヴィオレットもまだ家にいるなんて。セドリックに愛されていないと分かっているのなら、さっさと実家に帰ればいいのに。キツネ狩りに行く暇があるなら、その大好きな実家に戻りなさいっての!
「…ヴィオレット様って、今年のキツネ狩りにも参加するのは確実なの?」
「リリアーナ様が別邸をとても気に入っているので、きっとご一緒されるでしょう。あちらには広い花畑や湖があるので、お嬢様には良い刺激になるようです」
「田舎なんて、何もない場所でどこが楽しいのかしら」
「…田舎というよりも、森と別邸以外何もない場所です」
「ため息しか出ないわね」
自然にため息が漏れる。
「ところで…」
「なに?」
「先日、ミアさんとダミアンさんの会話を立ち聞きしてしまいまして…よければ私も協力させていただけませんか?」
「えっ!?」
驚いて立ち上がり、私はエレノアを見つめた。何を言ってるの…この子!?
◆◆◆◆◆
「ねえ、エレノア、領地の別邸って馬車でどれくらいかかるの?」
薄暗い食料庫で片付けをしていると、すぐに腰が痛くなってきた。仕方なく、小麦袋に腰を掛け、忙しく働くエレノアに話しかける。
「馬車だと三時間くらいですね。本邸にはセドリック様のご両親が住んでいますが、別邸には管理人だけなので、掃除も準備も必要かもしれません」
「三時間!?そんなにかかるの?最悪だわ。」
「遠い領地もありますから、三時間で済むのは近い方かと。」
「そうだけど…。でも、三時間も馬車に乗るのはルイ様の体に負担だわ」
「それは気になりますね、ミアさん」
「あ、呼び捨てでいいのよ。私もエレノアって呼んでるし」
「そうですね…では、ミア」
エレノアは芋の選別をしながら、手際よく箱に詰めている。働き者の彼女を眺めながら、私は愚痴を漏らした。
「男ってなんで狩りなんか好きなんだろうね?キツネ狩りとか、野蛮じゃない?」
「…私は毎年のキツネ狩りが楽しみですけど」
「そうなの?けっこう野蛮な趣味してるのね」
「野蛮、ですか?でも…参加した使用人には、セドリック様からキツネの毛皮で作った小物が頂けるのです。それが、みんなの密かな楽しみでして」
キツネの毛皮ですって!?
「たとえばコートとか?」
「奥様やお嬢様には毎年、毛皮のコートが贈られますね。私はファーをいただいたことがありますが、仕立てがよくて一生ものです」
ヴィオレットが毎年毛皮のコートをもらってるの!?私はまだ一度ももらったことないのに!
「私もコートを貰うわ」
「いえ…使用人はコートは貰えないかと」
エレノアの言葉に、少しムッとしてすぐ反論した。
「私は使用人じゃないわ!ルイの母親の私がコートをもらえないなんて、ありえないでしょ」
「そ、そうですね…。ごめんなさい。」
「わかればいいのよ」
それにしても、ヴィオレットもまだ家にいるなんて。セドリックに愛されていないと分かっているのなら、さっさと実家に帰ればいいのに。キツネ狩りに行く暇があるなら、その大好きな実家に戻りなさいっての!
「…ヴィオレット様って、今年のキツネ狩りにも参加するのは確実なの?」
「リリアーナ様が別邸をとても気に入っているので、きっとご一緒されるでしょう。あちらには広い花畑や湖があるので、お嬢様には良い刺激になるようです」
「田舎なんて、何もない場所でどこが楽しいのかしら」
「…田舎というよりも、森と別邸以外何もない場所です」
「ため息しか出ないわね」
自然にため息が漏れる。
「ところで…」
「なに?」
「先日、ミアさんとダミアンさんの会話を立ち聞きしてしまいまして…よければ私も協力させていただけませんか?」
「えっ!?」
驚いて立ち上がり、私はエレノアを見つめた。何を言ってるの…この子!?
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