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1-12 執事に怒られるミア

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「ムカつく、ムカつくわ。ルイの母親の私がどうして使用人に混じって食事をしないと駄目なのよ。」

貴族の邸宅、その地下に広がる使用人たちの領域は、上階の華やかさとは対照的に質素で、石造りの壁は冷たく灯りは控えめ。

「おかしいわよ、こんな扱い」

使用人達が上階の主一家の夕食の給仕に忙しく立ち働く中、私は木製の長いテーブルの端で愚痴を零しながら食事をとる。

私の様子をチラチラと伺いながら忙しく働く使用人達。時々、「何故あの人は働かないの?」と見当違いの声が聞こえるけど完全無視よ!

「ムカつくけどこのスープは美味しいわね…でも、こんな貧乏くさいスプーンと皿では、美味しいスープも台無しだわ。」

食事自体は不味くはないけど、使用人の休憩室で食事なんてやっぱりおかしい。セドリックを説得して自室で食事ができるようにしないと駄目ね。

パンをちぎって口に放り込みながらセドリックをどう説得するか考えていると、使用人達を仕切る執事のジェフリーが地下に降りてきた。

「皆聞いて欲しい。セドリック様とヴィオレット様、リリアーナ様が食事を終えられた。この後、ご一緒にルイ様の部屋に向かわれる。各々の役目に沿って即座に準備をすすめてくれ」

ジェフリーの言葉に驚いて私は立ち上がり、彼に近づいて話しかけた。

「そんな話、私は聞いていません。ルイの母親である私の許可なく決めるなんて無茶苦茶だわ。とにかく、私はルイの部屋に向かいます!食事はまだ途中ですが片付けてもらって結構です。では、失礼します」

「待ちなさい、ミア」

ジェフリーの横を通り抜けようとして、彼に腕を掴まれ引き戻された。

「急いでいるのですが…何か御用ですか、ジェフリーさん?」

私がイライラしながら尋ねると、ジェフリーは眉を顰めながら口を開く。

「君は必要ないそうだ」
「はぁ!?」

「セドリック様の命令だ。家族だけでルイ様と会いたいので、乳母は来なくて良いとの事だ。なので、食事をそのまま続けてもらっていい。」

「えっ、え!?」

「それと、他の使用人から君に対する文句が出ている。」

「どんな文句ですか!?」

「ルイ様の母親とはいえ、君は主一家に仕える使用人の一人に変わりない。乳母である君が食事中は、他の使用人がルイ様に仕えている。そのことを忘れず仲間と協力して主一家に仕えなさい」

「な、なっ!?」

なんでルイの母親の私が執事に命令されないと駄目なのよ!

「私はルイの母親なのよ?こんな扱いをしてただですむと思っているの?今すぐにセドリック様に言いつけるわ!」

私がそう口にするとジェフリーは大きなため息をつくと口を開いた。

「まず、ルイ『様』と呼びなさい。」
「!」

「セドリック様から君を乳母として扱うように命じられている。乳母も使用人の一人である以上、執事である私は君を管理する立場だ。そして、私は君を特別扱いするつもりはない…理解したかね?」

「!!!???」

理解できるか!
私はルイの母親なのよ!
いずれはヴィオレットを追い出して、セドリックの妻になるんだから。その時がきたら、あんたなんて老いぼれはクビよ、クビ!

「それと、さっき君の客人が正面玄関から訪ねてきたので、使用人が出入りする裏玄関に回るように伝えておいたよ。休憩の許可をあげるから会ってきなさい。客人には次からは裏玄関から訪ねるように話しておくように。」

「私の客人ですか?」

「名はダミアン・クレインと言っていたね。」

ダミアン!?

「もし君の客でないなら人をやって追い払うが?」

「いえ、私の客です。きゅ、休憩してきます。失礼します、ジェフリーさん」

私は慌てて裏玄関に向かう。

子供ができたと相談したら、次の日からダミアンとは連絡が取れなくなった。今になって現れるなんて、なんなのアイツは!!



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