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1-3 ミア・グリーン(加筆修正2024/10/12)
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◆◆◆◆◆
「ミア、一人でおりられるか?」
「大丈夫です、セドリック様」
ミアは赤子を抱いたまま馬車から降りると、アシュフォード邸を見上げて呟いた。
「懐かしい…昔のままだわ」
「庭園も昔と変わらないぞ。後で三人で散歩しよう」
ミアにそう言うと、女は嬉しそうに笑って抱いた赤子に『散歩しようね』と話しかける。
ミア・グリーンと初めて出逢った時は、情を交わす関係になるとは思いもしなかった。庭師長夫婦の娘であるミアの幼い日の遊び場はアシュフォード邸の庭園。
最初はただの下女としか見ていなかった。だが、気が付けばミアは美しい少女に成長し、俺の心を奪ったまま大人の女性に開花した。
身分違いの恋に溺れても苦しいだけ。そう分かっていても、俺はミアに想いを告げずにはいられなかった。
『好きだ』と心を込めた言葉に、ミアは『私も好きです』と応じてくれて…やがて男女の仲になる。
だが、そこからが茨の道だった。
両親にミアとの仲を引き裂かれ、失意の内に侯爵家の行き遅れの娘と婚姻させられて…。
「セドリック様」
「どうした、ミア?」
「馬車がこちらに向かって来ます」
「…妻の馬車だ」
ヴィオレットの乗る馬車が邸の門をくぐり、こちらに近づいてくる。
「…私はどうすれば?」
「堂々としていろ。ミアはアシュフォード家後継者の実母だ。」
「はい、セドリック様」
「お前の事は俺が守る」
◇◇◇
『お前の事は俺が守る』
セドリックの言葉に思わず笑みが浮かびそうになり、私は慌てて俯き男から顔を隠す。
私の息子が伯爵位を継ぐ事になるなんて!ああ、信じられない。庭師の娘の私がアシュフォード家後継者の実母に…嬉しくて体が震える。
「心配はない、ミア」
どうやら、セドリックは私が恐怖に震えているとでも思ったようだ。相変わらず女に夢をみる男。
「セドリック様、私はどうなっても良いのです。でも、奥様がもしもルイに危害を加えたなら…私は…」
「ヴィオレットはそんな事をする女ではない…侯爵家の娘だぞ。下品な邪推はするな、ミア」
「ごめんなさい、セドリック様」
「いや、言い過ぎた…すまない」
貴方のそういうところが大っ嫌いなのよ。情を交えて子を得ても、貴方は私の事を庭師の娘と蔑んでる。他の貴族とは違うと愛を囁きながら結局同じ。
でも、いいの。
私も貴方のこと蔑んでるから。
セドリックと交わって最初の妊娠をした時に、私は慎重に動くようにセドリックに忠告した。なのに、このバカはなんの工作もせずに自身の両親に私との仲を伝えて…。
私はその日の内に堕胎させられた。
庭師長だった両親と共にアシュフォード邸を追い出された後も辛い日々が待っていた。職を失った両親が私を責めて折檻したわ。
でも、耐えた。
セドリックは必ず私の元に帰ってくる…そう信じて全てに耐えたのよ。
やがて、セドリックは私の元に帰ってきた。彼が訪ねて来た時は抱きついて泣いたわ。そして、私と両親の関係は逆転する。今は私が両親を罵っても、二人は反論もできない。
まあ、当然よね。
私は金のなる木だもの。
「ミア」
「はい、セドリック様」
「庭園を三人で散策するのは次の機会にしよう。俺は今からヴィオレットとルイの将来について話す。君はルイを連れて先に邸に入りなさい」
「私もルイの母として、話し合いに同席したいです」
「その必要はない。君はルイの実母だが、身分はルイの乳母だ。ルイの育ての親はヴィオレットになる。そうしなくては、彼女の実家の侯爵家に顔向けができないからね」
なにそれ…。
「事前にそう説明したはずだが?」
「たしかに…そうですが……」
「ルイの部屋の続き部屋が君の自室だ。使用人に案内させる。行きなさい、ミア」
「承知しました、セドリック様」
セドリックに頭を下げて邸に向きなおると、不意に下女や使用人の視線が突き刺さった。
「どなたか、ルイ様の部屋に案内してくださる?」
怯みそうになる自分を叱咤して、私は使用人に声を掛けて邸へ向かって一歩踏み出す。
「…負けない」
庭師の娘には勿体無い美貌だと常に言われ、その美貌でセドリックの愛人の座を得ろと両親に命じられた。
男の部屋に常に美しい花を飾り、手紙や刺繍のハンカチを贈り、優しく接して笑って許して…セドリックの心を掴んだ。
ほんの一時、セドリックを本気で愛した時もあったけど、最初の子供を堕胎した時にセドリックへの愛情も流れていった。
苦労知らずの女、ヴィオレット。
アシュフォード家の跡継ぎのルイを、貴女にむざむざと渡したりしない。この家を継ぐのは私の息子…そして、私が育てた息子でなければ意味がないの。ただの乳母では終わらない。
貴女は死ぬべき人間よ、ヴィオレット。
◆◆◆◆◆
加筆修正しました(2024/10/12)
リリアーナ→ヴィオレット
ごめんなさい!!!!
「ミア、一人でおりられるか?」
「大丈夫です、セドリック様」
ミアは赤子を抱いたまま馬車から降りると、アシュフォード邸を見上げて呟いた。
「懐かしい…昔のままだわ」
「庭園も昔と変わらないぞ。後で三人で散歩しよう」
ミアにそう言うと、女は嬉しそうに笑って抱いた赤子に『散歩しようね』と話しかける。
ミア・グリーンと初めて出逢った時は、情を交わす関係になるとは思いもしなかった。庭師長夫婦の娘であるミアの幼い日の遊び場はアシュフォード邸の庭園。
最初はただの下女としか見ていなかった。だが、気が付けばミアは美しい少女に成長し、俺の心を奪ったまま大人の女性に開花した。
身分違いの恋に溺れても苦しいだけ。そう分かっていても、俺はミアに想いを告げずにはいられなかった。
『好きだ』と心を込めた言葉に、ミアは『私も好きです』と応じてくれて…やがて男女の仲になる。
だが、そこからが茨の道だった。
両親にミアとの仲を引き裂かれ、失意の内に侯爵家の行き遅れの娘と婚姻させられて…。
「セドリック様」
「どうした、ミア?」
「馬車がこちらに向かって来ます」
「…妻の馬車だ」
ヴィオレットの乗る馬車が邸の門をくぐり、こちらに近づいてくる。
「…私はどうすれば?」
「堂々としていろ。ミアはアシュフォード家後継者の実母だ。」
「はい、セドリック様」
「お前の事は俺が守る」
◇◇◇
『お前の事は俺が守る』
セドリックの言葉に思わず笑みが浮かびそうになり、私は慌てて俯き男から顔を隠す。
私の息子が伯爵位を継ぐ事になるなんて!ああ、信じられない。庭師の娘の私がアシュフォード家後継者の実母に…嬉しくて体が震える。
「心配はない、ミア」
どうやら、セドリックは私が恐怖に震えているとでも思ったようだ。相変わらず女に夢をみる男。
「セドリック様、私はどうなっても良いのです。でも、奥様がもしもルイに危害を加えたなら…私は…」
「ヴィオレットはそんな事をする女ではない…侯爵家の娘だぞ。下品な邪推はするな、ミア」
「ごめんなさい、セドリック様」
「いや、言い過ぎた…すまない」
貴方のそういうところが大っ嫌いなのよ。情を交えて子を得ても、貴方は私の事を庭師の娘と蔑んでる。他の貴族とは違うと愛を囁きながら結局同じ。
でも、いいの。
私も貴方のこと蔑んでるから。
セドリックと交わって最初の妊娠をした時に、私は慎重に動くようにセドリックに忠告した。なのに、このバカはなんの工作もせずに自身の両親に私との仲を伝えて…。
私はその日の内に堕胎させられた。
庭師長だった両親と共にアシュフォード邸を追い出された後も辛い日々が待っていた。職を失った両親が私を責めて折檻したわ。
でも、耐えた。
セドリックは必ず私の元に帰ってくる…そう信じて全てに耐えたのよ。
やがて、セドリックは私の元に帰ってきた。彼が訪ねて来た時は抱きついて泣いたわ。そして、私と両親の関係は逆転する。今は私が両親を罵っても、二人は反論もできない。
まあ、当然よね。
私は金のなる木だもの。
「ミア」
「はい、セドリック様」
「庭園を三人で散策するのは次の機会にしよう。俺は今からヴィオレットとルイの将来について話す。君はルイを連れて先に邸に入りなさい」
「私もルイの母として、話し合いに同席したいです」
「その必要はない。君はルイの実母だが、身分はルイの乳母だ。ルイの育ての親はヴィオレットになる。そうしなくては、彼女の実家の侯爵家に顔向けができないからね」
なにそれ…。
「事前にそう説明したはずだが?」
「たしかに…そうですが……」
「ルイの部屋の続き部屋が君の自室だ。使用人に案内させる。行きなさい、ミア」
「承知しました、セドリック様」
セドリックに頭を下げて邸に向きなおると、不意に下女や使用人の視線が突き刺さった。
「どなたか、ルイ様の部屋に案内してくださる?」
怯みそうになる自分を叱咤して、私は使用人に声を掛けて邸へ向かって一歩踏み出す。
「…負けない」
庭師の娘には勿体無い美貌だと常に言われ、その美貌でセドリックの愛人の座を得ろと両親に命じられた。
男の部屋に常に美しい花を飾り、手紙や刺繍のハンカチを贈り、優しく接して笑って許して…セドリックの心を掴んだ。
ほんの一時、セドリックを本気で愛した時もあったけど、最初の子供を堕胎した時にセドリックへの愛情も流れていった。
苦労知らずの女、ヴィオレット。
アシュフォード家の跡継ぎのルイを、貴女にむざむざと渡したりしない。この家を継ぐのは私の息子…そして、私が育てた息子でなければ意味がないの。ただの乳母では終わらない。
貴女は死ぬべき人間よ、ヴィオレット。
◆◆◆◆◆
加筆修正しました(2024/10/12)
リリアーナ→ヴィオレット
ごめんなさい!!!!
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