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水鏡に映る姿15
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◆◆◆◆◆
父上は霧を抜けると僕たちに駆けよる。そして、僕を見つめながら片膝を付いた。
「ルチア!見つけたぞ、ルチア!!」
「父上、探しに来てくれたのですね!」
「ルチア、無事か?」
「はい、父上。あ、紹介しますね。彼は僕の『運命の番』で、ルチアです!ルチアなんです、父上!」
「ルチア?」
父上が怪訝そうにルチアを見た。まあ、仕方無いか。見た目は、藤原雷だもんな。
『ライ、説明はこの世界を出てからにしろ。箱庭が崩壊したら、父上まで巻き込まれる。早く元の世界に戻れ、ライ』
「でも!ルチアはどうするんだよ!」
『僕はこのままこの世界に残る』
「そんなの駄目だ!」
『ライ!』
不意に、父上が僕とルチアをその胸に抱き、立ち上がった。僕とルチアは驚いて父上にしがみつく。父上の歩く先には霧が迫っていた。
「待って、父上!」
「ルチア、時間がない。霧が濃くなると元の世界に戻れなくなる。この世界が崩壊すると聞いては尚更だ。この子がルチアの大切な『運命の番』なら、壊れる世界に置いてはいけない。共に連れてゆく。いいね、ルチア?君もいいかな?」
「父上!霧の中は駄目なんです!やだ、父上。待って!父上!」
言い募る僕を制したのは、ルチア自身だった。ルチアは指先で僕の唇に触れると、そっと呟いた。
『ライ・・どうか、このまま逝かせて』
「っ!」
『お願い、ライ』
「・・僕は」
ルチアは父上に抱きしめられて、柔らかな表情を浮かべていた。その表情を見て僕は何も言えなくなった。
「ルチア、進むがいいか?」
「・・・」
僕は黙って頷いた。何が正解かなんて分からない。だけど、ルチアは父上に抱きしめられて微笑んでいる。だから、ルチアの望みを叶えないと・・。
ルチアは優しく微笑みながら目を瞑る。やがて、霧の中でルチアの体は徐々に凍てつき、氷に包まれていった。
「・・ルチア」
僕の声に応じて、ルチアの睫毛が僅かに震えた。そして、目尻から涙が溢れる。その涙が凍てつくルチアの体に亀裂を生じさせた。それは、一瞬の出来事だった。ルチアの体は粉々に砕けて、欠片となる。
「ルチアが・・白い花びらに・・」
粉々に砕けたルチアの欠片は白い花びらに変化して、霧の中から箱庭の空に舞い上がり消えていった。僕は必死になって白い花びらをつかみ、手のひらに閉じ込める。
そして、僕は空に消えていく白い花びらに向かって叫んでいた。
「ルチアーーーー!!」
涙が止まらずやがて嗚咽に変わる。父上は黙ったまま僕の背中を撫で、霧のなかを進んでいった。
◆◆◆◆◆
父上は霧を抜けると僕たちに駆けよる。そして、僕を見つめながら片膝を付いた。
「ルチア!見つけたぞ、ルチア!!」
「父上、探しに来てくれたのですね!」
「ルチア、無事か?」
「はい、父上。あ、紹介しますね。彼は僕の『運命の番』で、ルチアです!ルチアなんです、父上!」
「ルチア?」
父上が怪訝そうにルチアを見た。まあ、仕方無いか。見た目は、藤原雷だもんな。
『ライ、説明はこの世界を出てからにしろ。箱庭が崩壊したら、父上まで巻き込まれる。早く元の世界に戻れ、ライ』
「でも!ルチアはどうするんだよ!」
『僕はこのままこの世界に残る』
「そんなの駄目だ!」
『ライ!』
不意に、父上が僕とルチアをその胸に抱き、立ち上がった。僕とルチアは驚いて父上にしがみつく。父上の歩く先には霧が迫っていた。
「待って、父上!」
「ルチア、時間がない。霧が濃くなると元の世界に戻れなくなる。この世界が崩壊すると聞いては尚更だ。この子がルチアの大切な『運命の番』なら、壊れる世界に置いてはいけない。共に連れてゆく。いいね、ルチア?君もいいかな?」
「父上!霧の中は駄目なんです!やだ、父上。待って!父上!」
言い募る僕を制したのは、ルチア自身だった。ルチアは指先で僕の唇に触れると、そっと呟いた。
『ライ・・どうか、このまま逝かせて』
「っ!」
『お願い、ライ』
「・・僕は」
ルチアは父上に抱きしめられて、柔らかな表情を浮かべていた。その表情を見て僕は何も言えなくなった。
「ルチア、進むがいいか?」
「・・・」
僕は黙って頷いた。何が正解かなんて分からない。だけど、ルチアは父上に抱きしめられて微笑んでいる。だから、ルチアの望みを叶えないと・・。
ルチアは優しく微笑みながら目を瞑る。やがて、霧の中でルチアの体は徐々に凍てつき、氷に包まれていった。
「・・ルチア」
僕の声に応じて、ルチアの睫毛が僅かに震えた。そして、目尻から涙が溢れる。その涙が凍てつくルチアの体に亀裂を生じさせた。それは、一瞬の出来事だった。ルチアの体は粉々に砕けて、欠片となる。
「ルチアが・・白い花びらに・・」
粉々に砕けたルチアの欠片は白い花びらに変化して、霧の中から箱庭の空に舞い上がり消えていった。僕は必死になって白い花びらをつかみ、手のひらに閉じ込める。
そして、僕は空に消えていく白い花びらに向かって叫んでいた。
「ルチアーーーー!!」
涙が止まらずやがて嗚咽に変わる。父上は黙ったまま僕の背中を撫で、霧のなかを進んでいった。
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