義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

文字の大きさ
上 下
104 / 119

水鏡に映る姿5

しおりを挟む
◆◆◆◆◆


僕は息を飲んでルチアを見つめた。そうだ、当然のことじゃないか。僕の体がまだ生きている。そして、ルチアの魂が宿っている。ならば、この体を返さないと。

でも、どうやって?

「ルチアの意見は当然だよね。僕の代わりに病を背負って死の淵にあるなんておかしい。でも、どうやって魂を入れ換えたらいいのか、僕には分からない。水鏡にお願いすればいいのかな?僕はどうすれば・・」

僕が言葉に詰まると、ルチアは肩を竦めた。そして、尋ねてきた。

『僕もルチアの体は死んだと思っていたよ。自殺を図って・・気がつくと、藤原雷の体に魂が宿っていた。病が重くて苦しい日々だった。でも、苦しみは当然だ。自ら命を絶つものを神は救わないと、教会で教わっていたのに・・僕は自殺を図った』

「僕は苦しんで当然だなんて思わない!苦しんで命を絶った人を救わないなんて、そんな神様は僕は信じない。別の神様を探せばいいんだよ、ルチア!」

ルチアが目を丸くして僕を見た。そして、少し笑って言葉を紡ぐ。

『君って・・ルチアの姿をしているのに、考え方がこっちの世界の人間だな。多神教って考え方?』

「そうかもしれない」

『なるほど。ところで、君はどうやってここに辿り着いたの?ここは、藤原雷の精神世界を僕が再現したものなのだけど?』

「え、僕の箱庭を再現したの?」

『君の記憶を探ると、この世界の事が色々分かったからね。作り方もわかった。子供の頃から病気で辛くなると、君は何度も空想の世界に逃げ込んで痛みや苦しみをやり過ごしていた。そうだろ、ライ?』

「僕の箱庭は安全だから」

『・・安全か。でも、もう駄目なんだ。最近は長くこの世界・・箱庭にはいられない。苦しくて現実に引き戻されるから。その度に箱庭は壊れる。たぶん、次壊れたらもう後はない。死ぬよ・・僕は』

「そんな、ルチア!」
『それより、ここに来た方法を教えて』

「・・『運命の番』を映す水鏡を、陛下にお借りしたんだ。そして、水鏡を覗き込んだら病に臥せった君が映ってた。僕は必死に水鏡に頼んだんだ。ルチアが僕の『運命の番』ならば逢わせてって。そしたら、水鏡が叶えてくれた!ルチアに逢えた!」

『運命の番?僕たちが?』
「・・たぶん?」

僕の言葉にルチアは明らかにがっかりした表情を浮かべた。

『僕の『運命の番』はアルフレート兄上だと思っていたのに、ショックだ』

僕は狼狽えた。

「あうっ!その、僕だってそうだから!アルフレート兄上が映ればいいのにって思いながら、水鏡を覗き込んだもの!だけど、水鏡が映し出したのは・・ベッドの上のガリガリに痩せた僕の体だった。正直、納得はいっていないけど、納得はした!」

『納得はいっていないけど、納得はしたの?君、大丈夫?うーん、家に入る?』

ルチアに心配された。僕は肩を落としながら頷いていた。ルチアは不意に近づくと、僕の腕を掴んだ。触れたルチアの指先から温もりが伝わる。

「ほら、家に入るよ。僕にはあまり時間がないからぐずぐずしない、ライ」

「あ、うん」

僕はルチアに導かれて家の中に入った。



◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...