義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

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馬車での秘密話 6

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アルフレート兄上が馬車を降りるのを確認してから、僕は父の膝から身を起こした。父上は僕を見つめながら、頬をそっと撫でた。

「すまなかった、ルチア。アルフレートの本心をルチアは知る必要があると思い、こんな手段を取った。だが、ルチアには負担が大きすぎた・・辛い思いをさせたね」

僕は頬の涙を拭いながら、馬車の座席に背を預けた。そして、父上の方に寄りかかった。父上が僕の肩を抱き寄せる。

「父上、謝らないで下さい。父上のお陰で、僕はようやく兄上の本音を聞くことができました。僕はずっと疑問に思っていたことがあって・・でも、ようやく答えを得ました」

「どんな疑問を抱き、どんな答えにたどり着いたのかな、ルチア?」

「・・以前、兄上は僕に『一目惚れだった』『愛している』と告白してくれました。僕は両想いだと嬉しくなって、アルフレート兄上の言葉の矛盾にすぐには気付かなかった。でも、ラケールがルチアの死を直感で感じていたことを知り、僕は疑問にぶつかった。愛する人の死に、兄上が全く気が付かないなんて事があるのかなって・・」

僕は一度呼吸を整えた。また涙が溢れそうになると、父上がハンカチを渡してくれた。僕はハンカチで涙を拭いながら、言葉を紡いだ。

「ルチアが亡くなり僕の魂が肉体に宿ったのに、アルフレート兄上はその違和感を一度も口にしませんでした。以前のルチアと、今のルチアを変わらず『愛している』なんて、やっぱりおかしいです」

「確かに・・そうだな」

「アルフレート兄上が、陛下の仕掛けたゲームから逃れられないと知った時、僕は兄上と別れるべきだと思いました。僕と別れる事で兄上の地位が磐石になるなら、そうすべきだと思ったから。だから、僕は兄上に一方的に別れを切り出しました。辛くて苦しい決断で、僕はいっぱい泣きました。でも、僕は同時に安堵もしていた」

「安堵?」

「そうです、父上。僕は兄上に別れを告げて安堵を得たのです。僕には自分の心が分からず、自答自問を繰り返しました。そして、僕はようやく答えに辿り着いた。アルフレート兄上の愛情を信じきれていない自分が存在しているって。兄上の態度や言動に、不信感を抱く自分を見つけたのです。その存在に気がついた時、僕にはアルフレート兄上と結ばれる資格はないって思いました」

「ルチア・・」

「でも、ようやく・・アルフレート兄上の本心を知ることができました。兄上もルチアの死を、感じ取っていたのですね。兄上は過去の経緯から、ルチアを愛することが出来なかった。でも、今は『愛しい』と言ってくれました・・」




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