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馬車での秘密話 3
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◆◆◆◆◆
きっと父上は、最初から僕が起きている事に気がついていた。それでも、会話を止める気はないみたい。
胸が痛くて涙が零れて、父上のズボンにシミができちゃった。アルフレート兄上に気付かれないように、僕は唇を噛みしめる。父上が僕の髪の毛を優しく撫でてくれた。
仮面を剥がして、兄上の本音を聞かせて。
◇◇◇
「ルチアは死にました。ルチア自身がそう言った。それがルチアの抱える秘密だ。その子は、もう貴方の子供じゃない。父上なら気が付いていたはずだ。俺ですら違和感を抱いていたのだから。そうでしょ、父上?」
「お前に指摘されるまでもない。ルチアが目覚めた時に、すぐに気がついた。アルフレートが違和感を感じていた事の方が、私には意外に思える」
「俺だって、ルチアとの付き合いは長い。違和感を感じても不思議はないでしょ?」
「それもそうだな・・」
「ルチアと初めて出逢ったのは、温室の中だった。ルチアは花に囲まれて、静かに書物を読んでいた。少し目が赤かった。亡くなった母親を想い、泣いていたのかもしれない。だけど、俺は弟かもしれないルチアに、愛情を抱けなかった。彼の読む書物の題名が難しくて、俺には読めなかった。なのに、ルチアはそんな書物を読破していた。あまりの境遇の違いに、俺はルチアに憎しみを抱いた。馬鹿げたことだけど、憎悪は一瞬で胸に焼き付いた」
「それは、ルチアを誘拐した時の話だな? その時から、アルフレートはルチアに憎しみを抱いていたのか・・」
「俺はルチアを誘拐する為に、温室に忍び込んだ訳じゃない。温室の中に新種のチューリップの球根があるから、それを盗んでこいと父から言われていた。新種のチューリップの球根は、驚くほど高値で取引されているからって。それを盗んで売りさばいたら、幌馬車でしばらく旅をすると父は言い出した。何の計画性もない旅の計画に、父は夢中になっていた」
「庭師を職業にしながら、奴は何も学んでいなかったようだな。その当時も今も、私の屋敷に新種のチューリップの球根などない。もしかすると、黄色に朱色が混じったチューリップを新種と勘違いしたのかもしれないな。それで、アルフレートは球根ではなくルチアを盗んだわけだな。何のためにと・・聞くまでもないか」
「ルチアと温室で出逢った偶然を、俺は利用する事にした。父を陥れる為に。ルチアはひどく無防備で、俺が手を差し出すとあっさりと手を繋いできた。苦労知らの綺麗な手が、ひどく憎くて・・腹立たしかった。俺はルチアを屋敷から連れ出した。屋敷を出ても、誰も追いかけては来なかった。でも、見張られている気配は感じた。俺はルチアに優しく接した。見張りに疑われないように、俺は無邪気に振る舞った」
「人畜無害の仮面をかぶり、お前はルチアを騙した。そして、父親を殺した」
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きっと父上は、最初から僕が起きている事に気がついていた。それでも、会話を止める気はないみたい。
胸が痛くて涙が零れて、父上のズボンにシミができちゃった。アルフレート兄上に気付かれないように、僕は唇を噛みしめる。父上が僕の髪の毛を優しく撫でてくれた。
仮面を剥がして、兄上の本音を聞かせて。
◇◇◇
「ルチアは死にました。ルチア自身がそう言った。それがルチアの抱える秘密だ。その子は、もう貴方の子供じゃない。父上なら気が付いていたはずだ。俺ですら違和感を抱いていたのだから。そうでしょ、父上?」
「お前に指摘されるまでもない。ルチアが目覚めた時に、すぐに気がついた。アルフレートが違和感を感じていた事の方が、私には意外に思える」
「俺だって、ルチアとの付き合いは長い。違和感を感じても不思議はないでしょ?」
「それもそうだな・・」
「ルチアと初めて出逢ったのは、温室の中だった。ルチアは花に囲まれて、静かに書物を読んでいた。少し目が赤かった。亡くなった母親を想い、泣いていたのかもしれない。だけど、俺は弟かもしれないルチアに、愛情を抱けなかった。彼の読む書物の題名が難しくて、俺には読めなかった。なのに、ルチアはそんな書物を読破していた。あまりの境遇の違いに、俺はルチアに憎しみを抱いた。馬鹿げたことだけど、憎悪は一瞬で胸に焼き付いた」
「それは、ルチアを誘拐した時の話だな? その時から、アルフレートはルチアに憎しみを抱いていたのか・・」
「俺はルチアを誘拐する為に、温室に忍び込んだ訳じゃない。温室の中に新種のチューリップの球根があるから、それを盗んでこいと父から言われていた。新種のチューリップの球根は、驚くほど高値で取引されているからって。それを盗んで売りさばいたら、幌馬車でしばらく旅をすると父は言い出した。何の計画性もない旅の計画に、父は夢中になっていた」
「庭師を職業にしながら、奴は何も学んでいなかったようだな。その当時も今も、私の屋敷に新種のチューリップの球根などない。もしかすると、黄色に朱色が混じったチューリップを新種と勘違いしたのかもしれないな。それで、アルフレートは球根ではなくルチアを盗んだわけだな。何のためにと・・聞くまでもないか」
「ルチアと温室で出逢った偶然を、俺は利用する事にした。父を陥れる為に。ルチアはひどく無防備で、俺が手を差し出すとあっさりと手を繋いできた。苦労知らの綺麗な手が、ひどく憎くて・・腹立たしかった。俺はルチアを屋敷から連れ出した。屋敷を出ても、誰も追いかけては来なかった。でも、見張られている気配は感じた。俺はルチアに優しく接した。見張りに疑われないように、俺は無邪気に振る舞った」
「人畜無害の仮面をかぶり、お前はルチアを騙した。そして、父親を殺した」
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