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『運命の番』を映す水鏡1
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◆◆◆◆◆
「父上と庭師の関係はわかりました。ですが、イツィアール様を後妻に迎え、アルフレート兄上を次期当主に指名したのは父上です。父上が兄上に対して否定の言葉を並べても、説得力がありません。やはり、二人の事が気がかりだったのでしょ?庭師に興味はなくとも、二人には特別な感情が父上にはあった筈です」
僕がそう発言すると、父上はすぐに応じてくれた。それは、予想外の言葉だった。
「利害の一致だよ、ルチア」
「利害の一致?」
「イツィアールは生活に困り私を頼った。元婚約者が性商売に身を落とす事は、私には屈辱でしかなかった。そして、その時の私は、アルファの息子を『駒』として必要としていた。だから、イツィアールを後妻に迎えただけだ」
「父上は素直ではないです。アルフレート兄上が後継ぎに相応しいと思い、ガーディナー家に迎えたのでしょ?僕の事を慮り、兄上を貶める発言をすることは間違っています」
「残念ながら、ルチアの考えはハズレだ。アルフレートが領主となれば、領地を維持し発展させる為に、時には冷徹な判断を要求されるだろう。『領主は領地や領民を支配する立場』・・そう意識してこそ、領民に対して冷徹な判断が下せる。だが、アルフレートは支配される側に長く身を置きすぎた。領主としては、ルチアの方が向いているだろうね。ただし、冷徹過ぎても駄目だ。そのさじ加減が難しいところだ。ふむ・・そう考えると、二人が伴侶になるのも悪くはないな。領地運営の観点から見ればだが」
僕は思わず父上に反論してしまった。
「僕は父上が仰るほど、冷徹な人間ではありませんよ?もしも、父上が領地運営の為に、僕と兄上を伴侶にしたいなら・・腹違いの兄弟ではないと、はっきりと仰って下さい」
父上が苦い表情を浮かべながら、言葉を紡ぐ。
「イツィアールは後妻となってから、アルフレートを私の子供だと頻繁に仄めかす様になった。だが、イツィアールの事は信用していないので、判断材料にならない。アルフレートの容姿が庭師に似ていたなら、赤の他人だと断言できる。だが、彼はイツィアール似だろ?私がイツィアールと、肉体関係を持った事だけは確かだ。だが、子種の行方までは私も把握していない。すまないね、ルチア」
「・・父上と子種の行方について話し合う事になるとは、思いもしませんでした」
「ルチアと性に関する会話をするとは、私も予想外だよ。本来ならば、ルチアへの性教育は、オメガ性であるアルカディーの担当だ。アルカディーが亡くなった時点で、私はルチアに性教育を行うオメガ性の教師を雇うべきだった。だが、私は愛していたアルカディーに先立たれ、ルチアの性教育にまで意識が回らなかった。ルチアを性に対して慎ましい息子に育てられなくて、アルカディーには本当に申し訳なく思っている」
「父上は僕に謝るべきだと思います。僕が性に奔放なのは、父上の手抜かりですから!」
「すまない、ルチア」
「『運命の番』だと思い込むほど愛したアルカディー母上に先立たれたのですから、父上が何も考えられなくなった事は理解しています。だから、仕方がないので許します」
父上は少し笑ってから、馬車の座席に身を沈めた。そして、馬車の天井を見上げながら口を開く。
「・・『運命の番』を映し出す水鏡があることを知っているかい、ルチア?」
「王家に伝わる秘宝だと耳にしたことがあります?ですが、実在するのですか?」
「陛下はその秘宝を、顔を洗う洗面器代わりに使っていたらしい」
王家の秘宝を洗面器代わりに使うとは・・陛下。しかし、父上は陛下と親しい間柄なのかな?王都に出てきた父上は、陛下の相談相手として一週間王城で過ごしていたようだし。
「陛下は変わり者ですか?」
「変わり者だな。変わり者の私が『陛下は変わり者だ』と断言できる位には変わり者だ」
「そ、そうですか。国政が心配です」
「陛下は頭は良いから、王国は揺るがないと思うよ?しかし、学生時代から陛下は変わらないな。話を戻すが、ある日、何時ものように陛下は水鏡の器で、顔を洗おうとした。だが、水鏡には陛下の顔ではなく、別人の顔が映りこんでいた。驚きつつも、陛下は水鏡に映った顔を観察し、そして思い出した。陛下が以前に性的関係を持ったオメガ男で、教会の修道士の顔だった」
「ええ!?」
ここに来て、BLゲーム「☆下位オメガの僕を愛して☆」に繋がるのとは!教会の修道士は、ゲーム主人公アンリの産みの親だ。
「そ、それで!陛下はどうされたのですか?『運命の番』である修道士を求めて、教会をお訪ねになってのでしょうか?」
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「父上と庭師の関係はわかりました。ですが、イツィアール様を後妻に迎え、アルフレート兄上を次期当主に指名したのは父上です。父上が兄上に対して否定の言葉を並べても、説得力がありません。やはり、二人の事が気がかりだったのでしょ?庭師に興味はなくとも、二人には特別な感情が父上にはあった筈です」
僕がそう発言すると、父上はすぐに応じてくれた。それは、予想外の言葉だった。
「利害の一致だよ、ルチア」
「利害の一致?」
「イツィアールは生活に困り私を頼った。元婚約者が性商売に身を落とす事は、私には屈辱でしかなかった。そして、その時の私は、アルファの息子を『駒』として必要としていた。だから、イツィアールを後妻に迎えただけだ」
「父上は素直ではないです。アルフレート兄上が後継ぎに相応しいと思い、ガーディナー家に迎えたのでしょ?僕の事を慮り、兄上を貶める発言をすることは間違っています」
「残念ながら、ルチアの考えはハズレだ。アルフレートが領主となれば、領地を維持し発展させる為に、時には冷徹な判断を要求されるだろう。『領主は領地や領民を支配する立場』・・そう意識してこそ、領民に対して冷徹な判断が下せる。だが、アルフレートは支配される側に長く身を置きすぎた。領主としては、ルチアの方が向いているだろうね。ただし、冷徹過ぎても駄目だ。そのさじ加減が難しいところだ。ふむ・・そう考えると、二人が伴侶になるのも悪くはないな。領地運営の観点から見ればだが」
僕は思わず父上に反論してしまった。
「僕は父上が仰るほど、冷徹な人間ではありませんよ?もしも、父上が領地運営の為に、僕と兄上を伴侶にしたいなら・・腹違いの兄弟ではないと、はっきりと仰って下さい」
父上が苦い表情を浮かべながら、言葉を紡ぐ。
「イツィアールは後妻となってから、アルフレートを私の子供だと頻繁に仄めかす様になった。だが、イツィアールの事は信用していないので、判断材料にならない。アルフレートの容姿が庭師に似ていたなら、赤の他人だと断言できる。だが、彼はイツィアール似だろ?私がイツィアールと、肉体関係を持った事だけは確かだ。だが、子種の行方までは私も把握していない。すまないね、ルチア」
「・・父上と子種の行方について話し合う事になるとは、思いもしませんでした」
「ルチアと性に関する会話をするとは、私も予想外だよ。本来ならば、ルチアへの性教育は、オメガ性であるアルカディーの担当だ。アルカディーが亡くなった時点で、私はルチアに性教育を行うオメガ性の教師を雇うべきだった。だが、私は愛していたアルカディーに先立たれ、ルチアの性教育にまで意識が回らなかった。ルチアを性に対して慎ましい息子に育てられなくて、アルカディーには本当に申し訳なく思っている」
「父上は僕に謝るべきだと思います。僕が性に奔放なのは、父上の手抜かりですから!」
「すまない、ルチア」
「『運命の番』だと思い込むほど愛したアルカディー母上に先立たれたのですから、父上が何も考えられなくなった事は理解しています。だから、仕方がないので許します」
父上は少し笑ってから、馬車の座席に身を沈めた。そして、馬車の天井を見上げながら口を開く。
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「王家に伝わる秘宝だと耳にしたことがあります?ですが、実在するのですか?」
「陛下はその秘宝を、顔を洗う洗面器代わりに使っていたらしい」
王家の秘宝を洗面器代わりに使うとは・・陛下。しかし、父上は陛下と親しい間柄なのかな?王都に出てきた父上は、陛下の相談相手として一週間王城で過ごしていたようだし。
「陛下は変わり者ですか?」
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