義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

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父上と秘密のはなし1

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◆◆◆◆◆


父上と共に病院をでると、出入り口を塞ぐようにデカイ馬車が停まっていた。

「父上~。病院の出入り口に馬車を停めたままにするのは、駄目ですよ。病院を訪れる患者も病院側も迷惑します」

「そうかい?だが、病院側はここに馬車を停めても、何も言わなかったよ?」

「高位貴族に庶民が文句を言うのは、勇気がいりますよ。優秀な御者なら、気を利かせて馬車を移動させたと思います」

「では、優秀ではない御者はクビにしよう」

父上の言葉に僕は驚き慌てた。

「待ってください、父上!僕は御者をクビにするように進言したわけではありません」

「だが、優秀でない者をただ漫然と雇うことは、正しい雇い主の姿だろうか?ルチアの意見を聞きたいね・・どう思う?」

僕は答えに詰まってしまった。でも、返事をしないと父上を失望させてしまう。それは嫌だ。

「その・・僕は、前提を間違っていました。御者が優秀かどうかは、馬車の乗り心地で判断すべきでした。御者の仕事は、馬車に乗る主をいかに快適に目的地に運ぶかです。乗り心地が最高なら、他の不出来な部分はある程度は大目にみないと、雇い主が損をします」

父上は不意に優しく笑って、僕を抱き上げた。父上にお姫様抱っこされて・・喜んでる自分が恥ずかしい~!

「ち、父上!」

「どうやら、私は御者をクビにしなくて済みそうだ。彼の操る馬車の乗り心地は最高だから、クビにはしたくなかった。彼が庶民を見下す傾向にあるのは、確かだけれどね」

父上は僕を抱いたまま、何事もなかったように馬車に向かう。御者は素早く動き、踏み台を置くと馬車の扉を開いた。

父上は黙って乗り込むと、馬車の座席に僕を座らせた。そして、隣の席に腰を下ろした。程よいタイミングで、馬車が動き出す。

なるほど。たしかに、御者の運転技術は上々のようだ。

「ほらね、ルチア。中々の乗り心地だろ?」

僕は年齢も忘れて頬を膨らませていた。

「父上は最初から、御者をクビにする気はなかったのですね?僕を試すような真似をするなんて、父上は意地悪です!ルチアが性悪オメガになったのは、明らかに父上の血筋です」

父上は柔らかく微笑み、僕の髪をくしゃりと撫でた。そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「確かに、ルチアは私の血筋が濃いね。瞳の色がそっくりだ。青紫色バイオレットの瞳は、ガーディナー家出自の証しだからね」

僕は思わず父上の瞳を見つめる。美しいバイオレットの瞳が輝いている。

「確かに、僕の瞳は父上とそっくりです」
「アルフレートもね」
「・・え?」

「アルフレートに会った時に、よく瞳を見てごらん。彼の場合は、光の加減で瞳が青紫色に変化する。我々ほど純粋な青紫色バイオレットではないから、普段は気が付かないけれどね」

「・・気が付きませんでした」

青紫色バイオレットの瞳。

それは、僕とアルフレート兄上が腹違いの兄弟である証なのかな?

それを暗に示しているの、父上?

◆◆◆◆◆
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