義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

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悪役オメガに転生しまして

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◆◆◆◆◆

僕は学生寮の自室に戻ると、真っ先にシャワーを浴びた。体を綺麗に清めると、浴室を出てラフな格好に着替えた。ベッドに横たわり身を沈めると、僕は深いため息を付いた。

「悪役オメガを演じるのも、楽じゃないよなぁ。心は痛いし、尻も痛いし。とにかく、もう少しの我慢だ。主人公のアンリが学園に登場すれば、僕たちの関係は変わる筈だ」

前世の僕は、病弱男子だった。幼い頃から入退院を繰り返し、両親にはいっぱい心配をかけた。その上、僕は生粋の腐男子で、唯一の趣味は18禁BLゲームだった。常識人の両親には、僕の趣味は理解できなかったに違いない。

だけど、両親は僕の誕生日に、18禁BLゲームをプレゼントしてくれた。そのBLゲームが「☆下位オメガの僕を愛して☆」だった。そして、そのゲームをプレイ中に、僕は息を引き取った。

「うぉぉ、死に様を思い出すだけで恥ずかしい!スチルがヤバかったからな。主人公のアンリがヒートを起こして、空き教室で輪姦されてるシーンだったからな~」

両親は僕の死に様を見て、何を思っただろうか?いや、深く考えるのはよそう。優しい両親の事だから、黙ってエロゲーム画面を閉じてくれた筈だ。

そして、数々の18禁BLゲームがダウンロードされた僕のノートパソコンを、仏壇に供えてくれたに違いない。そして、両親は祈るのだ。『輪廻転生して再びこの世に戻るまでは、寂しくない様に大好きなBLゲームをしてなさい』と。

まあ、全部想像に過ぎないけど、両親なら祈ってそう。しかし、両親の祈りは、正確には天に届かなかったようだ。

何故か僕の転生先は、BLゲーム「☆下位オメガの僕を愛して☆」の世界だった。しかも、悪役オメガの『ルチア』に生まれ変わっていた。

僕と『ルチア』の繋がりは分からない。でも、自殺を図ったルチアの肉体に、僕の魂が宿った事は確かだ。そして、死を退け目覚めた僕は、ルチアの体と記憶を手にしていた。だけど、ルチアの感情は、記憶を彩る飾り程度に残るのみだった。

ルチアは肉体を僕に奪われ亡くなった。
そういうことなのだろう。

今では随分とルチアと馴染み、元から僕がルチアであるように感じる時も多い。だけど、当初は大変だった。ルチアは厄介な人物で、特に僕を悩ませたのは義理の兄との関係だった。

転生した時には、既にアルフレートとルチアは肉体関係を持っていた。

切っ掛けを作ったのはルチアだった。

ルチアはアルフレートの寝込みを襲ったのだ。上位オメガのルチアは自らヒートを起こし、フェロモンを発した。そして、アルフレートを発情させた。アルファ性のアルフレートは、フェロモンに抗えずルチアを抱いた。

無理やり結ばされた関係に、アルフレートは憤慨し嫌悪感を露にした。その後は警戒を怠らなかった。不意打ちでルチアがフェロモンを振り撒こうとも、アルフレートは決してルチアを抱かずに耐えた。

ルチアは苛立ちを隠さなかった。そして、アルフレートを追いつめる為に、ルチアは別の手段に出た。

それが、自殺行為だった。

ルチアが本気で死ぬ気であったのかは、記憶を探ったが分からなかった。だが、ルチアはその行為により確かに命を落とした。そして、ルチアの肉体に僕の魂が宿った。

ここで、僕とルチアは入れ替わった。

自殺未遂の傷が癒えると、僕はアルフレート兄上を脅して、再び肉体関係を持ち始めた。

これは、悩んだ末の結論だった。

ゲームのシナリオに逆らう事が、僕にはとても恐ろしく思えて筋書きから逸脱できなかった。『ゲームシナリオに従っているだけだ』そう自分に言い聞かせて、アルフレート兄上との関係を続けた。

アルフレート兄上と情交を交える度に、僕の心に様々な心境の変化や感情が生まれた。だけど、僕はそれら全てを心の内に秘めた。

ゲームシナリオにより、ルチアとアルフレートの関係がまもなく終わりを迎えると、分かっているから。

主人公のアンリ = プラデスが学園に現れる。清らかな心の持ち主のアンリと出会い会話を重ねることで、アルフレートは己の心の弱さに打ち勝つ決意する。そして、真摯な態度で弟と向きはい、二人の関係に終止符を打つのだ。

これは、攻略ルートに関係なく主人公のアンリの出現により起こる変化だ。そして、もうすぐ主人公のアンリが王立学園に姿を現す。

という訳で、アルフレートとルチアの関係が自然消滅するまで、僕はBLゲームの悪役オメガとしての役目に徹するつもりだ。役目を果たした後に、自由に生きていけばいい。

「とにかく、主人公が現れるまで、悪役オメガに徹しよう。うん、それが一番波風が立たない生き方だよね~」


◆◆◆◆◆
 
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