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1-4 この出逢いに感謝する
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◆◆◆◆◆
「僕からアルファ性の気配を感じるの、蓮?やっぱり喉から?」
手で喉を隠しながら蓮太郎に尋ねると、彼は僕を真っ直ぐに見つめ答える。
「喉に触れた時に指先に痛みが走って、アルファ性の気配を感じた。でも、今はオメガ性しか感じないな」
「オメガ性は感じるの?フェロモンは出てないと思うけど…」
フェロモンが出てないからベータ性に擬態できると思っていたけど…違ったのか。
「フェロモンが出ていなくても、アルファならお前がオメガ性だってことは気がつく。アルファはそこまで鈍感じゃない。なのに、お前はネックチョーカーも付けずに外出して…全く危機感が足りない」
蓮太郎が不機嫌そうにそう呟いたので、僕は肩を竦めて応じた。
「危機感なんて持てるわけないでしょ。ヒートが一回も来ないまま30歳になったオメガだよ?アルファを狂わせるフェロモンが出ないのに、誰が僕を襲うって?告ってきた先輩にも襲われずに萎えるって振られたのにさぁ~」
「俺が…襲うかもしれないだろ?」
蓮太郎が少し目をギラつかせて言うので、僕は思わず笑ってしまう。
「いや、無理でしょ」
「なぜそう言い切れる?」
「蓮は理性的だから」
「オメガの前でアルファが理性を保てると思っているのか?」
蓮太郎が真剣な表情で話しかけるのでドキッとする。僕は首元を撫でながら口を開いた。
「フェロモンを撒き散らすオメガに出逢ったら、蓮でも理性が吹き飛ぶかもしれないね。でも、僕はフェロモンが出ない体質だから迷惑は掛けないと思うよ?まあ、嫌なら今度からネックチョーカー付けてくる」
「嫌とかそういう意味じゃない」
「そうなの?」
「そうだ」
蓮太郎が何かを言いたげにこちらを見た。その視線から逃れたくて、僕は視線をテーブルに落とす。食べかけの蕎麦から湯気が立っていた。麺が伸びそうだ。
「蕎麦が伸びちゃうから食べようよ、蓮。話は食事の後にしよ」
僕は蓮太郎の返事を待たずに、ズルズルと音をたてて山菜蕎麦を食べる。蓮太郎をチラ見すると、彼は少し不貞腐れた様子で蕎麦を口にした。
しばらく二人でズルズルと音を立てて蕎麦を食べる。蓮太郎は食べる速度を合わせたのか、僕が食べ終わるのと同時に箸を置いた。そして、僕に話しかけてくる。
「春馬は職場ではネックチョーカーつけてるよな?」
「え、よく知ってるね?」
僕が驚いて尋ね返すと、蓮太郎はちょっと悪い笑みを浮かべて話を続ける。
「雇用主だからな。お前がヒート休暇を取っていることも知ってるぞ」
「えっ!?」
「面接は人事に任せているが、雇用前には履歴書をチェックしている。履歴書にはヒート休暇を取る為の診断書が付いていた。そこには発情症状ありと書かれていたが…?」
「あ~、なるほど」
「春馬がヒート休暇で休んでいる時は、近づかないようにしていた。でも、春馬は発情しない体質なんだよな?」
ちっ、細かいことを気にする奴。
「発情が全く無いわけではなくて…軽い頭痛くらいはあるかな。あと、性欲もちょっと増すし」
「性欲は増すのか!」
「そこ、強調しない。セクハラで労基に走り込むよ、社長さん」
「労基はやめてくれ、春馬」
蓮太郎との軽いやり取りに、つい僕の口も軽くなる。
「フェロモンは出なくても頭痛はするし、性欲が増すからオナニーもしたい。ヒート休暇取得はオメガの権利なんだし、取ってもいいでしょ?それとも…許可取り消し?」
僕がちょっと上目遣いに蓮太郎を見つめると、彼は深い溜め息をついて首を振った。
「許可取り消しなどしない。ただ、ヒート中のお前が一人で苦しんでいないか心配だった…発情中では会いに行く事も出来なかったが…」
「休み中にメールくれていたね。心配してくれていたんだ、蓮?」
「当たり前だ」
「そう‥‥ごめんね」
「なぜ謝る?」
「軽い頭痛だけで休んで」
「ヒート休暇はオメガの権利だ」
僕はホッとして口を開く。
「本当は休まなくても全然働けるのに…ズル休みして悪いと思っている。でも、休まないと一緒に働く人が不安がるから」
僕がそう口にすると蓮太郎は不思議そうな顔をして『不安がるとは?』と尋ねてきた。
「え~っとね…」
蓮太郎は僕の前では庶民的な振る舞いをするけど、アルファの両親から生まれた生粋のエリート。
もしも、母親がオメガならオメガの発情周期についても教わったかもしれないけど…。
「定期的に発情が来ないオメガはいつ発情するか分からないから…職場では敬遠されるんだよ。抑制剤があっても周期が整わないオメガは、大抵夜の職に就いてる」
僕がそう伝えると蓮太郎は目を開いてこちらを見てきた。そして、少し躊躇いがちに言葉を発する。
「知らなかった‥‥わるい」
僕は首を振って応じた。
「謝る必要ないよ、蓮。僕の場合はフェロモンが出ないから全然平気なんだけど…オメガ雇用で働く以上は、皆の不安を煽らないようにしないとね」
「もしも職場で差別があるのなら、俺は雇用主として改善する義務がある。困り事があるなら隠さず伝えてほしい、春馬」
「職場の皆は良くしてくれるよ!ビル清掃の仲間はオメガだから気楽だし、シフトを組んでくれる社員さんはベータだけど皆親切!楽しく働いているから心配しないで、蓮」
蓮太郎が所有するビルの清掃が僕の仕事だけど…まぁ、嫌がらせはある。清掃中にアルファに出逢うと明らかに嫌な顔をされて、わざとゴミ箱を蹴られた事もあったな。
でも、いちいち反応していたらこの社会ではやっていけない。
特に、僕のような孤児院育ちは夜職に就く事が多い。昼職に就けて休みには神社にお参りしてるなんてかなりいい生活だ。
「今の会社に入れてよかった。蓮とも友達になれたし。まさか、アルファと友達として対等に付き合えるなんて思ってなくて…嬉しい」
不意に蓮太郎の手が伸びてきて、僕の頬を撫でた。とろけるような笑みを浮かべた蓮太郎が口を開く。
「春馬が俺の会社を選んでくれてよかった。この出逢いに感謝する」
蓮太郎の言葉に僕は思わず頬を染める。アルファの笑顔は破壊力半端ないな。
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「僕からアルファ性の気配を感じるの、蓮?やっぱり喉から?」
手で喉を隠しながら蓮太郎に尋ねると、彼は僕を真っ直ぐに見つめ答える。
「喉に触れた時に指先に痛みが走って、アルファ性の気配を感じた。でも、今はオメガ性しか感じないな」
「オメガ性は感じるの?フェロモンは出てないと思うけど…」
フェロモンが出てないからベータ性に擬態できると思っていたけど…違ったのか。
「フェロモンが出ていなくても、アルファならお前がオメガ性だってことは気がつく。アルファはそこまで鈍感じゃない。なのに、お前はネックチョーカーも付けずに外出して…全く危機感が足りない」
蓮太郎が不機嫌そうにそう呟いたので、僕は肩を竦めて応じた。
「危機感なんて持てるわけないでしょ。ヒートが一回も来ないまま30歳になったオメガだよ?アルファを狂わせるフェロモンが出ないのに、誰が僕を襲うって?告ってきた先輩にも襲われずに萎えるって振られたのにさぁ~」
「俺が…襲うかもしれないだろ?」
蓮太郎が少し目をギラつかせて言うので、僕は思わず笑ってしまう。
「いや、無理でしょ」
「なぜそう言い切れる?」
「蓮は理性的だから」
「オメガの前でアルファが理性を保てると思っているのか?」
蓮太郎が真剣な表情で話しかけるのでドキッとする。僕は首元を撫でながら口を開いた。
「フェロモンを撒き散らすオメガに出逢ったら、蓮でも理性が吹き飛ぶかもしれないね。でも、僕はフェロモンが出ない体質だから迷惑は掛けないと思うよ?まあ、嫌なら今度からネックチョーカー付けてくる」
「嫌とかそういう意味じゃない」
「そうなの?」
「そうだ」
蓮太郎が何かを言いたげにこちらを見た。その視線から逃れたくて、僕は視線をテーブルに落とす。食べかけの蕎麦から湯気が立っていた。麺が伸びそうだ。
「蕎麦が伸びちゃうから食べようよ、蓮。話は食事の後にしよ」
僕は蓮太郎の返事を待たずに、ズルズルと音をたてて山菜蕎麦を食べる。蓮太郎をチラ見すると、彼は少し不貞腐れた様子で蕎麦を口にした。
しばらく二人でズルズルと音を立てて蕎麦を食べる。蓮太郎は食べる速度を合わせたのか、僕が食べ終わるのと同時に箸を置いた。そして、僕に話しかけてくる。
「春馬は職場ではネックチョーカーつけてるよな?」
「え、よく知ってるね?」
僕が驚いて尋ね返すと、蓮太郎はちょっと悪い笑みを浮かべて話を続ける。
「雇用主だからな。お前がヒート休暇を取っていることも知ってるぞ」
「えっ!?」
「面接は人事に任せているが、雇用前には履歴書をチェックしている。履歴書にはヒート休暇を取る為の診断書が付いていた。そこには発情症状ありと書かれていたが…?」
「あ~、なるほど」
「春馬がヒート休暇で休んでいる時は、近づかないようにしていた。でも、春馬は発情しない体質なんだよな?」
ちっ、細かいことを気にする奴。
「発情が全く無いわけではなくて…軽い頭痛くらいはあるかな。あと、性欲もちょっと増すし」
「性欲は増すのか!」
「そこ、強調しない。セクハラで労基に走り込むよ、社長さん」
「労基はやめてくれ、春馬」
蓮太郎との軽いやり取りに、つい僕の口も軽くなる。
「フェロモンは出なくても頭痛はするし、性欲が増すからオナニーもしたい。ヒート休暇取得はオメガの権利なんだし、取ってもいいでしょ?それとも…許可取り消し?」
僕がちょっと上目遣いに蓮太郎を見つめると、彼は深い溜め息をついて首を振った。
「許可取り消しなどしない。ただ、ヒート中のお前が一人で苦しんでいないか心配だった…発情中では会いに行く事も出来なかったが…」
「休み中にメールくれていたね。心配してくれていたんだ、蓮?」
「当たり前だ」
「そう‥‥ごめんね」
「なぜ謝る?」
「軽い頭痛だけで休んで」
「ヒート休暇はオメガの権利だ」
僕はホッとして口を開く。
「本当は休まなくても全然働けるのに…ズル休みして悪いと思っている。でも、休まないと一緒に働く人が不安がるから」
僕がそう口にすると蓮太郎は不思議そうな顔をして『不安がるとは?』と尋ねてきた。
「え~っとね…」
蓮太郎は僕の前では庶民的な振る舞いをするけど、アルファの両親から生まれた生粋のエリート。
もしも、母親がオメガならオメガの発情周期についても教わったかもしれないけど…。
「定期的に発情が来ないオメガはいつ発情するか分からないから…職場では敬遠されるんだよ。抑制剤があっても周期が整わないオメガは、大抵夜の職に就いてる」
僕がそう伝えると蓮太郎は目を開いてこちらを見てきた。そして、少し躊躇いがちに言葉を発する。
「知らなかった‥‥わるい」
僕は首を振って応じた。
「謝る必要ないよ、蓮。僕の場合はフェロモンが出ないから全然平気なんだけど…オメガ雇用で働く以上は、皆の不安を煽らないようにしないとね」
「もしも職場で差別があるのなら、俺は雇用主として改善する義務がある。困り事があるなら隠さず伝えてほしい、春馬」
「職場の皆は良くしてくれるよ!ビル清掃の仲間はオメガだから気楽だし、シフトを組んでくれる社員さんはベータだけど皆親切!楽しく働いているから心配しないで、蓮」
蓮太郎が所有するビルの清掃が僕の仕事だけど…まぁ、嫌がらせはある。清掃中にアルファに出逢うと明らかに嫌な顔をされて、わざとゴミ箱を蹴られた事もあったな。
でも、いちいち反応していたらこの社会ではやっていけない。
特に、僕のような孤児院育ちは夜職に就く事が多い。昼職に就けて休みには神社にお参りしてるなんてかなりいい生活だ。
「今の会社に入れてよかった。蓮とも友達になれたし。まさか、アルファと友達として対等に付き合えるなんて思ってなくて…嬉しい」
不意に蓮太郎の手が伸びてきて、僕の頬を撫でた。とろけるような笑みを浮かべた蓮太郎が口を開く。
「春馬が俺の会社を選んでくれてよかった。この出逢いに感謝する」
蓮太郎の言葉に僕は思わず頬を染める。アルファの笑顔は破壊力半端ないな。
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