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共同執筆者として
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◆◆◆◆◆
「さあ、大塚先生。過去の話はここまでです。私の共犯者として新作の執筆をお願いします」
山崎はテーブルの上の原稿を指さして、俺にペンを取るように促す。
「しかし、原稿は完成している。」
「完成していません。以前のように、加筆修正して下さい。先生が手を加えてくれないと、小説の世界は完成しません。」
俺は山﨑がペンを手渡される。それは青ペンだった。俺はペンを見つめながら呟く。
「赤ペンの方がよくないか?」
「赤ペンは担当編集者の色。青ペンは先生の色です。そのペンで、私の小説を先生の作品に書き換えて下さい。」
俺は躊躇いを覚えて男に尋ねる。
「以前もこうだったのか?」
「以前はネットでのやり取りが主でしたが、担当編集者さんに原稿を渡す前には紙の原稿を送りあっていました。」
「そうか。」
「先生は私の共犯者として協力して下さい。もう一度、共に書籍化を目指しましょう。先生は事故に遭いペンを折りましたが、先生のファンが待っていますよ。」
俺は山崎をしばらく見つめた後に、原稿に視線を移す。そこでは馴染の探偵が昭和の街で活躍をしているはずだ。
「ファンが待っているか。その第一のファンは俺だ。俺は君の書く探偵が好きなんだ。だから、先ずはゆっくりと小説を読ませてくれ。加筆修正はその後にする」
「先生は‥‥」
「なんだ?」
「私の行為を許してくれますか?私はこれからも先生を束縛します。先生が逃げ出しても、何度だってここに連れ戻す。先生と共に執筆する為に。私のそばを離れないで下さい」
俺は原稿を見つめながら返事に窮する。山崎の行為は明らかに犯罪だ。誘拐の罪は重い。だが、それを俺は許そうとしている。
盗作をした負い目がある。
でも、それ以上に小説の続きが読みたい。できるなら、盗作者としてではなく、共同執筆者として‥‥この小説のラストまで付き合いたいと思ってる。
「身勝手な願いだが‥‥盗作者でも共犯者でもなく、共同執筆者としてこの作品に向き合いたい。この作品が終わりを迎えたら‥‥俺達の関係も終わりだ。それで許してくれないか、山崎?」
山崎は大きく目を見開き俺を見つめる。そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「共同執筆者ですか‥‥素敵ですね。でも、前科者の私は名前は出せないので、今まで通り『大塚蓮司』の著者名でお願いします。」
「‥‥そうか」
「それと、『この作品が終わりを迎えたら‥‥俺達の関係も終わりだ』は駄目です。その提案は受け付けません。私は先生との関係を続けるためなら、この作品を書き続けます。」
俺は山崎の言葉に呆れて笑いだしていた。少しからかい気味に尋ねる。
「言い切っていいのか?『昭和喫茶探偵社』の主人公は何時もピンチに見舞われる探偵だ。いつか、硝煙の匂いと共に命を落とすのでは?」
山崎はニヤリと笑う。
「探偵は一度死んでも生き返るものと、相場は決まっています。何度殺しても生き返る不死身な探偵にすることもできるでしょ?」
俺は手をふって否定する。
「殺して生き返らせるのなら、一度だけにしてくれ。シャーロック・ホームズも二回は死んでないだろ?」
「先生がそうおっしゃるなら」
山崎は笑ってソファーから立ち上がる。そしてそのまま窓辺に向かう。しばらくすると、車の音が俺の耳にも届く。
「‥‥客か?」
「ええ。客人です」
山崎は緊張して玄関に向かう。俺もソファーを立とうとしたが、山崎に制される。
「私の父が様子を見に来たのでしょう。この別荘には監視カメラが仕掛けられているので‥‥。」
俺は緊張してつばを飲んだ。
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「さあ、大塚先生。過去の話はここまでです。私の共犯者として新作の執筆をお願いします」
山崎はテーブルの上の原稿を指さして、俺にペンを取るように促す。
「しかし、原稿は完成している。」
「完成していません。以前のように、加筆修正して下さい。先生が手を加えてくれないと、小説の世界は完成しません。」
俺は山﨑がペンを手渡される。それは青ペンだった。俺はペンを見つめながら呟く。
「赤ペンの方がよくないか?」
「赤ペンは担当編集者の色。青ペンは先生の色です。そのペンで、私の小説を先生の作品に書き換えて下さい。」
俺は躊躇いを覚えて男に尋ねる。
「以前もこうだったのか?」
「以前はネットでのやり取りが主でしたが、担当編集者さんに原稿を渡す前には紙の原稿を送りあっていました。」
「そうか。」
「先生は私の共犯者として協力して下さい。もう一度、共に書籍化を目指しましょう。先生は事故に遭いペンを折りましたが、先生のファンが待っていますよ。」
俺は山崎をしばらく見つめた後に、原稿に視線を移す。そこでは馴染の探偵が昭和の街で活躍をしているはずだ。
「ファンが待っているか。その第一のファンは俺だ。俺は君の書く探偵が好きなんだ。だから、先ずはゆっくりと小説を読ませてくれ。加筆修正はその後にする」
「先生は‥‥」
「なんだ?」
「私の行為を許してくれますか?私はこれからも先生を束縛します。先生が逃げ出しても、何度だってここに連れ戻す。先生と共に執筆する為に。私のそばを離れないで下さい」
俺は原稿を見つめながら返事に窮する。山崎の行為は明らかに犯罪だ。誘拐の罪は重い。だが、それを俺は許そうとしている。
盗作をした負い目がある。
でも、それ以上に小説の続きが読みたい。できるなら、盗作者としてではなく、共同執筆者として‥‥この小説のラストまで付き合いたいと思ってる。
「身勝手な願いだが‥‥盗作者でも共犯者でもなく、共同執筆者としてこの作品に向き合いたい。この作品が終わりを迎えたら‥‥俺達の関係も終わりだ。それで許してくれないか、山崎?」
山崎は大きく目を見開き俺を見つめる。そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「共同執筆者ですか‥‥素敵ですね。でも、前科者の私は名前は出せないので、今まで通り『大塚蓮司』の著者名でお願いします。」
「‥‥そうか」
「それと、『この作品が終わりを迎えたら‥‥俺達の関係も終わりだ』は駄目です。その提案は受け付けません。私は先生との関係を続けるためなら、この作品を書き続けます。」
俺は山崎の言葉に呆れて笑いだしていた。少しからかい気味に尋ねる。
「言い切っていいのか?『昭和喫茶探偵社』の主人公は何時もピンチに見舞われる探偵だ。いつか、硝煙の匂いと共に命を落とすのでは?」
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俺は手をふって否定する。
「殺して生き返らせるのなら、一度だけにしてくれ。シャーロック・ホームズも二回は死んでないだろ?」
「先生がそうおっしゃるなら」
山崎は笑ってソファーから立ち上がる。そしてそのまま窓辺に向かう。しばらくすると、車の音が俺の耳にも届く。
「‥‥客か?」
「ええ。客人です」
山崎は緊張して玄関に向かう。俺もソファーを立とうとしたが、山崎に制される。
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俺は緊張してつばを飲んだ。
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