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『親ガチャ』と『子ガチャ』
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◆◆◆◆◆
「‥‥羨ましいニート生活。確かにそう思われても仕方ないですね」
山﨑が苦笑いを浮かべる様子を見て、心がモヤモヤして俺は自然と謝っていた。
「‥‥言い過ぎた。すまない」
「先生が謝ることはないです。実際そうなのです。この言葉は好きではありませんが、私は『親ガチャ』に成功しました。両親は『子ガチャ』に失敗したわけですが‥‥」
「『親ガチャ』と『子ガチャ』か。」
山崎は暗い笑みを浮かべながら頷くと、淡々と事件後の経緯を話す。
「両親は私の保護者として賠償責任を負い、被害者家族に慰謝料を支払いました。相当の金額を一括で支払ったそうですが、経済的に困窮することはなかったようです。」
あまりに淡々と賠償責任について語るので、この男が過去に犯した殺人を反省しているのか分からなくなる。
嫌な汗が背中を流れていく。俺は山崎に不気味さを感じながらも、男に尋ねていた。
「君の両親は経済的に恵まれていたようだな。だが、少年犯罪で名や顔が伏せられたとはいえ、加害者家族は辛い思いをしただろう。被害者家族の事を思えば、単純には同情はできないが‥‥。」
山崎は少し顔を伏せてゆっくりと語る。
「そうですね。私の母は犯行がわかって以降、うつ病を発症して自殺未遂を繰り返すようになりました。今でもその状態が続き入退院を繰り返しているそうです。まさに、『子ガチャ』に失敗した親の末路ですね」
「‥‥‥‥‥‥。」
俺は言葉が見つけられず黙っていると、山崎は顔を上げて更に言葉を紡ぐ。
「母がその状態ですので、私の親権は母から離婚した父の元に移りました。父の姓の『山崎』を名乗るようになったのもその時です。そして、成人した今に至っても、父は私の面倒をみています。」
「この別荘は父親に貰ったと言っていたね。子を想う親の心か‥‥‥。」
俺の言葉に山崎は不意にニヤリと笑って応じる。
「父は怖いのですよ。生活に困窮した人間が自暴自棄なり、大きな犯罪を起こす事件が立て続けで起こっているでしょ?」
俺は様々な理不尽な事件を思い出し頷く。男は少し不服そうに呟く。
「息子がそうならない保証はどこにもない。父はそう思っているのでしょうね。『生活は保証するから世間との関わりを絶って大人しく一生を終えろ』、これが父の言葉です。私はもう罪を犯すつもりはないのですけどね‥‥。」
男の言葉に俺はつい皮肉を口にしていた。
「誘拐は立派な犯罪だろ」
誘拐犯は少し真顔になり、俺の顔を真っ直ぐに見つめた後に謝罪を口にした。
「先生を誘拐した事は反省しています。事故後に先生とメールのやり取りができなくなり‥‥焦っていました。大塚先生だけが、私と世間を繋ぐ接点だったので‥‥不安でたまらなかったのです。」
「俺が君と世間を繋ぐ接点か。正直なところ全く記憶にない。どこで俺達は出逢いどういう関係なのか、そろそろ種明かしをしてくれないか、山崎?」
「分かりました、先生」
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「‥‥羨ましいニート生活。確かにそう思われても仕方ないですね」
山﨑が苦笑いを浮かべる様子を見て、心がモヤモヤして俺は自然と謝っていた。
「‥‥言い過ぎた。すまない」
「先生が謝ることはないです。実際そうなのです。この言葉は好きではありませんが、私は『親ガチャ』に成功しました。両親は『子ガチャ』に失敗したわけですが‥‥」
「『親ガチャ』と『子ガチャ』か。」
山崎は暗い笑みを浮かべながら頷くと、淡々と事件後の経緯を話す。
「両親は私の保護者として賠償責任を負い、被害者家族に慰謝料を支払いました。相当の金額を一括で支払ったそうですが、経済的に困窮することはなかったようです。」
あまりに淡々と賠償責任について語るので、この男が過去に犯した殺人を反省しているのか分からなくなる。
嫌な汗が背中を流れていく。俺は山崎に不気味さを感じながらも、男に尋ねていた。
「君の両親は経済的に恵まれていたようだな。だが、少年犯罪で名や顔が伏せられたとはいえ、加害者家族は辛い思いをしただろう。被害者家族の事を思えば、単純には同情はできないが‥‥。」
山崎は少し顔を伏せてゆっくりと語る。
「そうですね。私の母は犯行がわかって以降、うつ病を発症して自殺未遂を繰り返すようになりました。今でもその状態が続き入退院を繰り返しているそうです。まさに、『子ガチャ』に失敗した親の末路ですね」
「‥‥‥‥‥‥。」
俺は言葉が見つけられず黙っていると、山崎は顔を上げて更に言葉を紡ぐ。
「母がその状態ですので、私の親権は母から離婚した父の元に移りました。父の姓の『山崎』を名乗るようになったのもその時です。そして、成人した今に至っても、父は私の面倒をみています。」
「この別荘は父親に貰ったと言っていたね。子を想う親の心か‥‥‥。」
俺の言葉に山崎は不意にニヤリと笑って応じる。
「父は怖いのですよ。生活に困窮した人間が自暴自棄なり、大きな犯罪を起こす事件が立て続けで起こっているでしょ?」
俺は様々な理不尽な事件を思い出し頷く。男は少し不服そうに呟く。
「息子がそうならない保証はどこにもない。父はそう思っているのでしょうね。『生活は保証するから世間との関わりを絶って大人しく一生を終えろ』、これが父の言葉です。私はもう罪を犯すつもりはないのですけどね‥‥。」
男の言葉に俺はつい皮肉を口にしていた。
「誘拐は立派な犯罪だろ」
誘拐犯は少し真顔になり、俺の顔を真っ直ぐに見つめた後に謝罪を口にした。
「先生を誘拐した事は反省しています。事故後に先生とメールのやり取りができなくなり‥‥焦っていました。大塚先生だけが、私と世間を繋ぐ接点だったので‥‥不安でたまらなかったのです。」
「俺が君と世間を繋ぐ接点か。正直なところ全く記憶にない。どこで俺達は出逢いどういう関係なのか、そろそろ種明かしをしてくれないか、山崎?」
「分かりました、先生」
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