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兄、暁月高宗。

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俺は椅子に座り淹れたてのコーヒーを飲んでいる。カフェインが体に染み渡る。しみじみとコーヒーを味わっていると、ベータ女子が背後から話しかけてきた。

「落ち着きましたか、暁月さま?」
「はい。ご心配をおかけしました」

騒ぎを聞きつけて部屋にやってきたベータ女子は、俺の悲しい胸の内を聞いてくれた。彼女は俺が書くベータ男色の耽美小説に興味を示し、親身になってくれた。嬉しい。

不意に三日月が咳払いをして、俺たちの会話を邪魔してきた。

「それでは、暁月さまの希望は‥‥耽美小説を好むアルファと番いたいということでよろしいですね?」

「わがままを言ってごめんなさい、三日月さん。アルファと番うことで趣味や好みまで喰われるとは知らなくて‥‥。でも、アルファが耽美小説好きなら、俺の趣味は喰われず生き残りますよね?」

三日月は少し考えるとベータ女子に声を掛けた。

「アルファとオメガが番った際の、オメガ性の嗜好の変化について書かれた論文が欲しい。君、頼めるかな?」

「はい、探してきます」
「よろしく頼む」

ベータ女子が部屋を去る前にLINEを交換したかったが、婚活中の身であること思い出して自重した。

「では失礼しますね、暁月さま」
「はい」

ベータ女子が部屋を後にすると、途端に静けさに包まれる。三日月アドバイザーはこちらをしばらく見つめた後に口を開いた。

「正直なところ、暁月さまがこれほど動揺されるとは思いませんでした。アルファと番ったオメガ性の嗜好が変化することは、義務教育の段階で習うのですが‥‥全くご存知なかったようですね?」

義務教育の段階で習うのか。あー、なるほど。学校に通ってなかった時期があるから、その時か。俺はアドバイザーに事情を話すことにした。

「実は学校に通えない時期があって、その時に教わるべき教育を履修できなかった可能性が高いです」

「なるほど。それは暁月さまのお兄様の件で騒動に巻き込まれた時期の事ですね。」

「あれ?兄の事をご存知なんですか?」

「勿論です。暁月高宗あかつきたかむねさまは、S級アルファですし‥‥色々と騒動もありましたので」

そうなのだ。俺の実兄の暁月高宗はS級アルファとして生まれて、将来を期待された人物だ。実際、兄さんは凄かった。

最高峰の大学に通いながら、オリンピックの各種目で金メダルを総なめにした強者である。最多金メダル数でギネスブックに載っている。

容姿端麗な筋肉美男子の活躍に、世界中が熱狂したものだ。

オリンピックを引退後は、スポンサーであった某殺虫剤会社に就職。そこで研究者として着実に実績を重ね、兄の論文は常に注目の的で世間を活気づかせた。

しかし、ゴキブリ恐怖症の俺のために、兄さんが地球上のゴキブリを半年で駆逐する薬剤、『バスターX』の開発に着手した事により歯車が狂い始める。

開発半ばであったが軍事転用の危険があるとされ、家族もろとも政府に隔離され監視対象にされてしまったのだ。


嘘みたいな話だが、事実だ。
笑いたい奴は笑え。俺は泣く(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)


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