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最終話 お別れと再会

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「奇跡か!凌辱バッドエンドを乗り越えて、ウォーレン・ヒルを攻略するとは!」


アイリス=スノードロップは、白い花嫁衣装を着ていた。勿論、男なのでドレスではないが、アイリスは花のように美しかった。


「相変わらず、ライカは失礼な奴だな。だが、結婚式に出てくれて嬉しいよ」

「そうかぁ、攻略チョロは、ウォーレン・ヒルだったのかぁ!意外だな。てっきり、パウル・ミュラーだと思っていたのに・・」

「俺がなんやって?」

女好きのパウル・ミュラーが現れた。この軽い容姿と言葉使いに騙された。攻略チョロではなかった。

「でたな、攻略チョロと思わせて、おっぱい好きだった、パウル・ミュラー」

「いちいち煩いわ!それより、ライカ。そろそろ、浮気したくなってきたんと違う?ハッシュのぺニスだけでは足りんやろ」

「僕は既に人妻だよ、パウル」
「じゃあ、今度一緒に女抱きに行こうや?」
「うーん。ハッシュが許してくれたらね?」
「ハッシュも誘えばいいやん」

「駄目だ!」
「ハッシュ!」

しなやかな筋肉を身につけたハッシュ・アルカロイドは、素早い動きで僕を抱き込む。

「俺の妻がいくら可愛いからといって、声をかけるな、パウル・ミュラー!」

「いや、ライカは相変わらず不細工やけど」

「確かに。顔の黄金比率を持ち合わせながら、ライカが美しくないのが、今だに理解できない。新婚旅行から帰ったら、ライカのライフマスクを作りたいのだがよいだろうか、ライカ=ベラドンナ?」

「勉学に役立つなら構わないけど・・ライフマスクは必要かな、ウォーレン・ヒル?」

「デスマスクでも構わないが、君が死ぬのは大分先だからね。是非とも、ライフマスクをとらせてくれ」

「まあ、構わないけど」
「感謝する」

「ウォーレン?」
「アイリス」

ウォーレン・ヒルは、白い衣装を素敵に着こなしていた。そのウォーレンに、アイリスが近付く。この神々しさ!まさに、主人公と攻略対象者の結婚式だ!眩しい。モブには眩しすぎる!

「アイリス君、とても綺麗だよ。ねえ、そう思わないかい、フィスト・ファック君?」

カール・ブィルヘルム先生は、愛犬を連れて結婚式に参加していた。愛犬は頑丈な首輪に、これまた頑丈な鎖で繋がれていた。

「ふざけんな!俺はこいつらに関わりたくない!ひっ、厄災ライカが目の前にいる!ライカ、貴様のせいでこの有り様だ!」

「お尻が膨らんでるけど大丈夫?」

「尻には常にバイブだ!極太のな。だが、全く勃起しない。ライカ、頼む助けてくれ。先生から解放してくれ」

「無理だよ・・灰色ぺニスを勃起しない限り、カール先生は君を解放しないと思うよ」

「絶望しかない」

不意にカール先生が、衣装の隠しから花の形を模した装置をとりだした。そして、力強くボタンを押す。途端に、灰色ぺニスが床に倒れ込み、涎を垂れ流しひくひくしだした。

「ひぁ、しぇんしぇ、やめろ・・尻が、尻が、ひぁ、あんっ、らめえ、感じるぅ、でも勃起しません。実験は中止にしてぇ・・のはぁ~!」

「仕方ないねえ。勃起させるのに、これ程手間取るとは、君のペニスの構造はどうなっている?興味はつきないが、全く困ったものだよ。好みの男ではないのに、手放せないではないか。困るよ、ねえ?」

何故か、カール先生が僕に微笑んできた。僕は思わず顔をひきつらせた。

「ライカ君は、ひょっとして・・フィスト・ファック君が勃起しない秘密を知っているのではないのかい?」

「し、知りません!」

「そう、残念だな。残念といえば、学園の地下牢獄に君の部屋を作ったのに、一度も来てくれないね?楽しい玩具が沢山あって、色々なプレイが楽しめるよ?」

「僕は既に学園を卒業しました。それに、人妻ですから。ね、ハッシュ?」

「勿論だ!君は、俺の可愛すぎる妻だ。ライカ、今すぐキスしたい。セックスしたい。まずい、発射したい!」

「え、ここで!ま、まずいよ。早くトイレに行って、一発、二発、発射してきて!式はもうすぐだよ。早く帰って来てね!」

ハッシュ・アルカロイドは、トイレに向かい床を這うように猛ダッシュして行った。礼服をきているので、何故か黒い虫に見えたが・・気のせいだ。

「ふん、ライカはハッシュと上手くやっているようだな。不細工の癖に」

「どういたしまして、アイリス」

アイリスが話しかけてきた。花嫁衣装が似合いすぎる。可愛すぎます。

「もう、コック・リングの事は吹っ切れたのか?すこしは、お前のことも心配してやっているのだからな、不細工なライカ」

ツンデレか、アイリス=スノードロップ?

「コックさんは、只今、敵国『ニポーン』を攻略中です。戦況は膠着状態で、一時的に休戦になるかもしれないって。帰国したら、一発したいと、手紙には書いてあったよ!あ、ハッシュには内緒ね、アイリス!」

「浮気するのか!?」

アイリスが、驚いた表情を浮かべた。その表情に、僕の方が驚いた。あんなにビッチだったアイリスが、淡白そうなウォーレン・ヒルだけで我慢できるのだろうか?

「アイリスは、もう浮気はしないの?」

不意に、アイリス=スノードロップが頬を赤らめた。やめて、眩しい!可愛すぎます!女神か!女神だっ!

「浮気はもうしないかな」

アイリス=スノードロップが優しく微笑んで、僕の理解が一気に進んだ。

これは、アイリスのトゥルーエンドだ。

いくつもあるトゥルーエンドの中の一つ。それを、アイリスは手にした。とても幸せな事だ。

だけど、この世界が終わるのは、どうやらバッドエンドを喰らった時だけでは無さそうだ。アイリスがトゥルーエンドに辿り着けば、世界は続くものだと思い込んでいた。

でも、世界は終焉に向かっている。
また始まる為に。


「ライカ=ベラドンナ」


振り替えると、アルフレッド・ノーマンがいた。彼はそっと笑うと、手を差し出した。僕は彼に向かって尋ねていた。

「もう少し、駄目かな?」

「君は魂の存在だからね?終わりに巻き込まれると、魂は消し飛ぶよ?」

「でも、ハッシュが・・」

「彼は君を忘れる。すぐにね。そして、二度と『君』を思い出すことはない。次の世界では、何時も通りに、ライカとハッシュはただの幼馴染みに戻る。おいで、ライカ=ベラドンナ」

「僕の存在を残せたのは、アルフレッドにだけなんだね。ハッシュとあれほど交わりながら、心に・・何も残せなかった」

「俺の心に、ライカは大きな爪痕を残した。この世界は終わり、またつまらない世界が始まる。そこに君はいない。俺は『君に向かうべき愛の言葉』を他人に吐かないと駄目になる。それは、寂しいことだよ・・ライカ」

「アルフレッド」

僕はいつの間にか、アルフレッド・ノーマンに抱きしめられていた。不意に、世界が形を変え始めた。

アイリス=スノードロップがウォーレン・ヒルにお姫様抱っこされる。

その姿が、美麗なスチルに変貌し始める。誰もが、アイリスを見つめていた。そして、アイリスを見つめた人々は、動きを止めて美麗スチルの一部に変貌する。

アイリスが主人公のBLゲームなのだから、世界が彼を中心に、終焉を迎えるのは当然かもしれない。誰もがアイリスを祝福しながら、動きを止めていく。

「もう行くよ、ライカ=ベラドンナ?」
「・・はい」

僕の返事と重なる様に、ハッシュの叫び声が聞こえた。ぼくは目を見開いて、ハッシュを見た。


「ライカーーーー!」


ハッシュ・アルカロイドだけは、僕を見つめてくれていた。彼だけが、美麗スチルにならずに僕に向かってくる。


「ハッシューー!」


僕はハッシュに向かい必死に手を伸ばした。ほぼ同時に、アルフレッド・ノーマンが小さく呟いた。

「・・二人とも眠れ」

一気に意識が危うくなる。ハッシュが床に倒れ込むのが見えた。でも、僕も意識を保ってはいられなかった。ただ、アルフレッドが優しく抱き上げてくれたのはわかった。

「この世界で、多くの人に愛されたな、ライカ=ベラドンナ。向こうの世界でも愛されろ。真実の名前でな。さようなら、愛しい人」

「アルフレッド・・僕は・・ハッシュを絶対に忘れない。皆の事も忘れない・・だから、皆に忘れ去られたくない・・嫌だよ、寂しいよ」

「俺が必ず覚えている・・お休み、ライカ」



◇◇◇◇◇◇



目が覚めたら、入院していた。何でも、死にかけていたところを、親友が見つけて救急車を呼んでくれたようだ。お陰で命拾いした。

「有名な声優さんが、僕の病室にいたから看護師さんがびっくりしてたよ?」

「ふーん、そうか。はい、りんご」
「りんご剥くの上手いな」

「お前が目覚めるまで、見舞いの品を、お裾分けしてもらっていたからな。全く、お前は親に心配かけすぎだ。お前の母さん、泣いてたぞ」

「目覚めたら、お袋とお前がイチャイチャしてたからびびった。お袋が親父と離婚して、若い男に走ったのかと思ったぞ!」

「イチャイチャしている時に、お前が目覚めたからびびった。だが、安心しろ。お前の両親は、もっとイチャイチャしていた」

「それを聞いて安心した。しかし、何故僕は、死にかけていたのかな?」

「栄養失調だったらしいぞ」
「栄養失調で死ぬのか?」

「医者の話では、死ぬらしい。だから、りんごを食べろ。ゆっくりでいいから・・食べて元気になれ。ほら、口開けろ」

「あーん」

親友が、小さく切ったりんごを口に入れてくれた。僕は甘酸っぱいりんごを頬張る。旨い。僕は、親友に微笑みかけていた。親友も僅かに微笑んでくれた。

「んー、美味しいね。もう一つ頂戴!」
「そうか、良かった」

「甘酸っぱいりんごは恋の味」
「恋愛経験ゼロの奴が言いそうな台詞だな」

僕は親友を見つめながら、そっと呟いた。

「沢山、恋愛をしたよ」 
「いつ、どこで、誰とだ!?」

親友が驚き、すぐに突っ込んだ質問をしてきた。僕は笑いながら、答えをごまかした。

「秘密~!」
「嘘だな」

「嘘じゃないよ!ハッシュと共に、世界の終わりを迎えることも少し考えたくらいだ。アルフレッドは許さないだろうけどね」

「相手は、外国人か!何が、世界の終わりを迎えるだ!引きこもりのお前の事だ。SNSで騙されて、ノコノコ会いに行き、危うく心中相手にされそうになったんだろう!或いは・・いや。とにかく、栄養失調になったのは、奴等に監禁されていたせいだな?くそ、今すぐに警察に届けを出そう!」

「だから、恋愛だってば~。まあ、アルフレッドのせいで、栄養失調になって死にかけたのは確かだけど」

「やはりか!ああ、もう!お前はどうして心配ばかりかける。もう我慢ならない!」

「どうしたの?」

「その外国人が、お前の周辺をうろうろしている間は、俺がお前の恋人のふりをして追い払う!わかったな!それと、SNSで呼び出されても二度と逢うな!お前は、その・・一部の人間から、好かれる顔立ちをしている。だから、とにかく駄目なんだ。危険すぎる!」

「ハッシュも、アルフレッドも、コックさんも、皆好い人だよ?」

「一人増えてる!!コックとは誰だ?料理人か!いや、菓子職人だな?お前は口がいやしいから、お菓子につられて会いに行ったに違いない!」

親友は椅子から立ち上がると、突然僕の唇にキスをした。そして、僕を見つめて囁く。

「お前は、今から俺のものだ。恋人のふりを本気でやるぞ。だが、今は全て忘れて・・休め」

「んー、お前の声には、魔力が宿っているらしいよ~。ふぁ、本当に眠くなってきた」

「魔力ねぇ?」
「声優さん、子守唄歌って」

「俺が音痴な事を知っていながらの仕打ちか」

親友が僕の頬を優しくつねった。同時に、僕の目から、涙がポロポロとこぼれ落ちた。親友は目を見開いたが、黙ったまま俺の頬を撫でてくれた。

全てを覚えているよ。皆はきっと僕の事を忘れて、新たな世界を迎えていることだろうね?君たちとの出逢いは、全てが僕の宝物になったよ?ハッシュや皆は元気かな?

でも、あのBLゲームはもうしないつもり。だって、本物の君たちに出会ってしまったら、ゲームじゃ満足できないよ。

僕がBLゲームをヤらなくなっても、世界は消えないとは思うよ。でも、心配だから、ネットに攻略サイトを開くよ。バッドエンドしか紹介できないけどね!

きっとBLゲームの世界は続くはず!

「皆、大好き!」


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