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最終話 お別れと再会
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◆◆◆◆◆◆◆
「奇跡か!凌辱バッドエンドを乗り越えて、ウォーレン・ヒルを攻略するとは!」
アイリス=スノードロップは、白い花嫁衣装を着ていた。勿論、男なのでドレスではないが、アイリスは花のように美しかった。
「相変わらず、ライカは失礼な奴だな。だが、結婚式に出てくれて嬉しいよ」
「そうかぁ、攻略チョロは、ウォーレン・ヒルだったのかぁ!意外だな。てっきり、パウル・ミュラーだと思っていたのに・・」
「俺がなんやって?」
女好きのパウル・ミュラーが現れた。この軽い容姿と言葉使いに騙された。攻略チョロではなかった。
「でたな、攻略チョロと思わせて、おっぱい好きだった、パウル・ミュラー」
「いちいち煩いわ!それより、ライカ。そろそろ、浮気したくなってきたんと違う?ハッシュのぺニスだけでは足りんやろ」
「僕は既に人妻だよ、パウル」
「じゃあ、今度一緒に女抱きに行こうや?」
「うーん。ハッシュが許してくれたらね?」
「ハッシュも誘えばいいやん」
「駄目だ!」
「ハッシュ!」
しなやかな筋肉を身につけたハッシュ・アルカロイドは、素早い動きで僕を抱き込む。
「俺の妻がいくら可愛いからといって、声をかけるな、パウル・ミュラー!」
「いや、ライカは相変わらず不細工やけど」
「確かに。顔の黄金比率を持ち合わせながら、ライカが美しくないのが、今だに理解できない。新婚旅行から帰ったら、ライカのライフマスクを作りたいのだがよいだろうか、ライカ=ベラドンナ?」
「勉学に役立つなら構わないけど・・ライフマスクは必要かな、ウォーレン・ヒル?」
「デスマスクでも構わないが、君が死ぬのは大分先だからね。是非とも、ライフマスクをとらせてくれ」
「まあ、構わないけど」
「感謝する」
「ウォーレン?」
「アイリス」
ウォーレン・ヒルは、白い衣装を素敵に着こなしていた。そのウォーレンに、アイリスが近付く。この神々しさ!まさに、主人公と攻略対象者の結婚式だ!眩しい。モブには眩しすぎる!
「アイリス君、とても綺麗だよ。ねえ、そう思わないかい、フィスト・ファック君?」
カール・ブィルヘルム先生は、愛犬を連れて結婚式に参加していた。愛犬は頑丈な首輪に、これまた頑丈な鎖で繋がれていた。
「ふざけんな!俺はこいつらに関わりたくない!ひっ、厄災ライカが目の前にいる!ライカ、貴様のせいでこの有り様だ!」
「お尻が膨らんでるけど大丈夫?」
「尻には常にバイブだ!極太のな。だが、全く勃起しない。ライカ、頼む助けてくれ。先生から解放してくれ」
「無理だよ・・灰色ぺニスを勃起しない限り、カール先生は君を解放しないと思うよ」
「絶望しかない」
不意にカール先生が、衣装の隠しから花の形を模した装置をとりだした。そして、力強くボタンを押す。途端に、灰色ぺニスが床に倒れ込み、涎を垂れ流しひくひくしだした。
「ひぁ、しぇんしぇ、やめろ・・尻が、尻が、ひぁ、あんっ、らめえ、感じるぅ、でも勃起しません。実験は中止にしてぇ・・のはぁ~!」
「仕方ないねえ。勃起させるのに、これ程手間取るとは、君のペニスの構造はどうなっている?興味はつきないが、全く困ったものだよ。好みの男ではないのに、手放せないではないか。困るよ、ねえ?」
何故か、カール先生が僕に微笑んできた。僕は思わず顔をひきつらせた。
「ライカ君は、ひょっとして・・フィスト・ファック君が勃起しない秘密を知っているのではないのかい?」
「し、知りません!」
「そう、残念だな。残念といえば、学園の地下牢獄に君の部屋を作ったのに、一度も来てくれないね?楽しい玩具が沢山あって、色々なプレイが楽しめるよ?」
「僕は既に学園を卒業しました。それに、人妻ですから。ね、ハッシュ?」
「勿論だ!君は、俺の可愛すぎる妻だ。ライカ、今すぐキスしたい。セックスしたい。まずい、発射したい!」
「え、ここで!ま、まずいよ。早くトイレに行って、一発、二発、発射してきて!式はもうすぐだよ。早く帰って来てね!」
ハッシュ・アルカロイドは、トイレに向かい床を這うように猛ダッシュして行った。礼服をきているので、何故か黒い虫に見えたが・・気のせいだ。
「ふん、ライカはハッシュと上手くやっているようだな。不細工の癖に」
「どういたしまして、アイリス」
アイリスが話しかけてきた。花嫁衣装が似合いすぎる。可愛すぎます。
「もう、コック・リングの事は吹っ切れたのか?すこしは、お前のことも心配してやっているのだからな、不細工なライカ」
ツンデレか、アイリス=スノードロップ?
「コックさんは、只今、敵国『ニポーン』を攻略中です。戦況は膠着状態で、一時的に休戦になるかもしれないって。帰国したら、一発したいと、手紙には書いてあったよ!あ、ハッシュには内緒ね、アイリス!」
「浮気するのか!?」
アイリスが、驚いた表情を浮かべた。その表情に、僕の方が驚いた。あんなにビッチだったアイリスが、淡白そうなウォーレン・ヒルだけで我慢できるのだろうか?
「アイリスは、もう浮気はしないの?」
不意に、アイリス=スノードロップが頬を赤らめた。やめて、眩しい!可愛すぎます!女神か!女神だっ!
「浮気はもうしないかな」
アイリス=スノードロップが優しく微笑んで、僕の理解が一気に進んだ。
これは、アイリスのトゥルーエンドだ。
いくつもあるトゥルーエンドの中の一つ。それを、アイリスは手にした。とても幸せな事だ。
だけど、この世界が終わるのは、どうやらバッドエンドを喰らった時だけでは無さそうだ。アイリスがトゥルーエンドに辿り着けば、世界は続くものだと思い込んでいた。
でも、世界は終焉に向かっている。
また始まる為に。
「ライカ=ベラドンナ」
振り替えると、アルフレッド・ノーマンがいた。彼はそっと笑うと、手を差し出した。僕は彼に向かって尋ねていた。
「もう少し、駄目かな?」
「君は魂の存在だからね?終わりに巻き込まれると、魂は消し飛ぶよ?」
「でも、ハッシュが・・」
「彼は君を忘れる。すぐにね。そして、二度と『君』を思い出すことはない。次の世界では、何時も通りに、ライカとハッシュはただの幼馴染みに戻る。おいで、ライカ=ベラドンナ」
「僕の存在を残せたのは、アルフレッドにだけなんだね。ハッシュとあれほど交わりながら、心に・・何も残せなかった」
「俺の心に、ライカは大きな爪痕を残した。この世界は終わり、またつまらない世界が始まる。そこに君はいない。俺は『君に向かうべき愛の言葉』を他人に吐かないと駄目になる。それは、寂しいことだよ・・ライカ」
「アルフレッド」
僕はいつの間にか、アルフレッド・ノーマンに抱きしめられていた。不意に、世界が形を変え始めた。
アイリス=スノードロップがウォーレン・ヒルにお姫様抱っこされる。
その姿が、美麗なスチルに変貌し始める。誰もが、アイリスを見つめていた。そして、アイリスを見つめた人々は、動きを止めて美麗スチルの一部に変貌する。
アイリスが主人公のBLゲームなのだから、世界が彼を中心に、終焉を迎えるのは当然かもしれない。誰もがアイリスを祝福しながら、動きを止めていく。
「もう行くよ、ライカ=ベラドンナ?」
「・・はい」
僕の返事と重なる様に、ハッシュの叫び声が聞こえた。ぼくは目を見開いて、ハッシュを見た。
「ライカーーーー!」
ハッシュ・アルカロイドだけは、僕を見つめてくれていた。彼だけが、美麗スチルにならずに僕に向かってくる。
「ハッシューー!」
僕はハッシュに向かい必死に手を伸ばした。ほぼ同時に、アルフレッド・ノーマンが小さく呟いた。
「・・二人とも眠れ」
一気に意識が危うくなる。ハッシュが床に倒れ込むのが見えた。でも、僕も意識を保ってはいられなかった。ただ、アルフレッドが優しく抱き上げてくれたのはわかった。
「この世界で、多くの人に愛されたな、ライカ=ベラドンナ。向こうの世界でも愛されろ。真実の名前でな。さようなら、愛しい人」
「アルフレッド・・僕は・・ハッシュを絶対に忘れない。皆の事も忘れない・・だから、皆に忘れ去られたくない・・嫌だよ、寂しいよ」
「俺が必ず覚えている・・お休み、ライカ」
◇◇◇◇◇◇
目が覚めたら、入院していた。何でも、死にかけていたところを、親友が見つけて救急車を呼んでくれたようだ。お陰で命拾いした。
「有名な声優さんが、僕の病室にいたから看護師さんがびっくりしてたよ?」
「ふーん、そうか。はい、りんご」
「りんご剥くの上手いな」
「お前が目覚めるまで、見舞いの品を、お裾分けしてもらっていたからな。全く、お前は親に心配かけすぎだ。お前の母さん、泣いてたぞ」
「目覚めたら、お袋とお前がイチャイチャしてたからびびった。お袋が親父と離婚して、若い男に走ったのかと思ったぞ!」
「イチャイチャしている時に、お前が目覚めたからびびった。だが、安心しろ。お前の両親は、もっとイチャイチャしていた」
「それを聞いて安心した。しかし、何故僕は、死にかけていたのかな?」
「栄養失調だったらしいぞ」
「栄養失調で死ぬのか?」
「医者の話では、死ぬらしい。だから、りんごを食べろ。ゆっくりでいいから・・食べて元気になれ。ほら、口開けろ」
「あーん」
親友が、小さく切ったりんごを口に入れてくれた。僕は甘酸っぱいりんごを頬張る。旨い。僕は、親友に微笑みかけていた。親友も僅かに微笑んでくれた。
「んー、美味しいね。もう一つ頂戴!」
「そうか、良かった」
「甘酸っぱいりんごは恋の味」
「恋愛経験ゼロの奴が言いそうな台詞だな」
僕は親友を見つめながら、そっと呟いた。
「沢山、恋愛をしたよ」
「いつ、どこで、誰とだ!?」
親友が驚き、すぐに突っ込んだ質問をしてきた。僕は笑いながら、答えをごまかした。
「秘密~!」
「嘘だな」
「嘘じゃないよ!ハッシュと共に、世界の終わりを迎えることも少し考えたくらいだ。アルフレッドは許さないだろうけどね」
「相手は、外国人か!何が、世界の終わりを迎えるだ!引きこもりのお前の事だ。SNSで騙されて、ノコノコ会いに行き、危うく心中相手にされそうになったんだろう!或いは・・いや。とにかく、栄養失調になったのは、奴等に監禁されていたせいだな?くそ、今すぐに警察に届けを出そう!」
「だから、恋愛だってば~。まあ、アルフレッドのせいで、栄養失調になって死にかけたのは確かだけど」
「やはりか!ああ、もう!お前はどうして心配ばかりかける。もう我慢ならない!」
「どうしたの?」
「その外国人が、お前の周辺をうろうろしている間は、俺がお前の恋人のふりをして追い払う!わかったな!それと、SNSで呼び出されても二度と逢うな!お前は、その・・一部の人間から、好かれる顔立ちをしている。だから、とにかく駄目なんだ。危険すぎる!」
「ハッシュも、アルフレッドも、コックさんも、皆好い人だよ?」
「一人増えてる!!コックとは誰だ?料理人か!いや、菓子職人だな?お前は口がいやしいから、お菓子につられて会いに行ったに違いない!」
親友は椅子から立ち上がると、突然僕の唇にキスをした。そして、僕を見つめて囁く。
「お前は、今から俺のものだ。恋人のふりを本気でやるぞ。だが、今は全て忘れて・・休め」
「んー、お前の声には、魔力が宿っているらしいよ~。ふぁ、本当に眠くなってきた」
「魔力ねぇ?」
「声優さん、子守唄歌って」
「俺が音痴な事を知っていながらの仕打ちか」
親友が僕の頬を優しくつねった。同時に、僕の目から、涙がポロポロとこぼれ落ちた。親友は目を見開いたが、黙ったまま俺の頬を撫でてくれた。
全てを覚えているよ。皆はきっと僕の事を忘れて、新たな世界を迎えていることだろうね?君たちとの出逢いは、全てが僕の宝物になったよ?ハッシュや皆は元気かな?
でも、あのBLゲームはもうしないつもり。だって、本物の君たちに出会ってしまったら、ゲームじゃ満足できないよ。
僕がBLゲームをヤらなくなっても、世界は消えないとは思うよ。でも、心配だから、ネットに攻略サイトを開くよ。バッドエンドしか紹介できないけどね!
きっとBLゲームの世界は続くはず!
「皆、大好き!」
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「奇跡か!凌辱バッドエンドを乗り越えて、ウォーレン・ヒルを攻略するとは!」
アイリス=スノードロップは、白い花嫁衣装を着ていた。勿論、男なのでドレスではないが、アイリスは花のように美しかった。
「相変わらず、ライカは失礼な奴だな。だが、結婚式に出てくれて嬉しいよ」
「そうかぁ、攻略チョロは、ウォーレン・ヒルだったのかぁ!意外だな。てっきり、パウル・ミュラーだと思っていたのに・・」
「俺がなんやって?」
女好きのパウル・ミュラーが現れた。この軽い容姿と言葉使いに騙された。攻略チョロではなかった。
「でたな、攻略チョロと思わせて、おっぱい好きだった、パウル・ミュラー」
「いちいち煩いわ!それより、ライカ。そろそろ、浮気したくなってきたんと違う?ハッシュのぺニスだけでは足りんやろ」
「僕は既に人妻だよ、パウル」
「じゃあ、今度一緒に女抱きに行こうや?」
「うーん。ハッシュが許してくれたらね?」
「ハッシュも誘えばいいやん」
「駄目だ!」
「ハッシュ!」
しなやかな筋肉を身につけたハッシュ・アルカロイドは、素早い動きで僕を抱き込む。
「俺の妻がいくら可愛いからといって、声をかけるな、パウル・ミュラー!」
「いや、ライカは相変わらず不細工やけど」
「確かに。顔の黄金比率を持ち合わせながら、ライカが美しくないのが、今だに理解できない。新婚旅行から帰ったら、ライカのライフマスクを作りたいのだがよいだろうか、ライカ=ベラドンナ?」
「勉学に役立つなら構わないけど・・ライフマスクは必要かな、ウォーレン・ヒル?」
「デスマスクでも構わないが、君が死ぬのは大分先だからね。是非とも、ライフマスクをとらせてくれ」
「まあ、構わないけど」
「感謝する」
「ウォーレン?」
「アイリス」
ウォーレン・ヒルは、白い衣装を素敵に着こなしていた。そのウォーレンに、アイリスが近付く。この神々しさ!まさに、主人公と攻略対象者の結婚式だ!眩しい。モブには眩しすぎる!
「アイリス君、とても綺麗だよ。ねえ、そう思わないかい、フィスト・ファック君?」
カール・ブィルヘルム先生は、愛犬を連れて結婚式に参加していた。愛犬は頑丈な首輪に、これまた頑丈な鎖で繋がれていた。
「ふざけんな!俺はこいつらに関わりたくない!ひっ、厄災ライカが目の前にいる!ライカ、貴様のせいでこの有り様だ!」
「お尻が膨らんでるけど大丈夫?」
「尻には常にバイブだ!極太のな。だが、全く勃起しない。ライカ、頼む助けてくれ。先生から解放してくれ」
「無理だよ・・灰色ぺニスを勃起しない限り、カール先生は君を解放しないと思うよ」
「絶望しかない」
不意にカール先生が、衣装の隠しから花の形を模した装置をとりだした。そして、力強くボタンを押す。途端に、灰色ぺニスが床に倒れ込み、涎を垂れ流しひくひくしだした。
「ひぁ、しぇんしぇ、やめろ・・尻が、尻が、ひぁ、あんっ、らめえ、感じるぅ、でも勃起しません。実験は中止にしてぇ・・のはぁ~!」
「仕方ないねえ。勃起させるのに、これ程手間取るとは、君のペニスの構造はどうなっている?興味はつきないが、全く困ったものだよ。好みの男ではないのに、手放せないではないか。困るよ、ねえ?」
何故か、カール先生が僕に微笑んできた。僕は思わず顔をひきつらせた。
「ライカ君は、ひょっとして・・フィスト・ファック君が勃起しない秘密を知っているのではないのかい?」
「し、知りません!」
「そう、残念だな。残念といえば、学園の地下牢獄に君の部屋を作ったのに、一度も来てくれないね?楽しい玩具が沢山あって、色々なプレイが楽しめるよ?」
「僕は既に学園を卒業しました。それに、人妻ですから。ね、ハッシュ?」
「勿論だ!君は、俺の可愛すぎる妻だ。ライカ、今すぐキスしたい。セックスしたい。まずい、発射したい!」
「え、ここで!ま、まずいよ。早くトイレに行って、一発、二発、発射してきて!式はもうすぐだよ。早く帰って来てね!」
ハッシュ・アルカロイドは、トイレに向かい床を這うように猛ダッシュして行った。礼服をきているので、何故か黒い虫に見えたが・・気のせいだ。
「ふん、ライカはハッシュと上手くやっているようだな。不細工の癖に」
「どういたしまして、アイリス」
アイリスが話しかけてきた。花嫁衣装が似合いすぎる。可愛すぎます。
「もう、コック・リングの事は吹っ切れたのか?すこしは、お前のことも心配してやっているのだからな、不細工なライカ」
ツンデレか、アイリス=スノードロップ?
「コックさんは、只今、敵国『ニポーン』を攻略中です。戦況は膠着状態で、一時的に休戦になるかもしれないって。帰国したら、一発したいと、手紙には書いてあったよ!あ、ハッシュには内緒ね、アイリス!」
「浮気するのか!?」
アイリスが、驚いた表情を浮かべた。その表情に、僕の方が驚いた。あんなにビッチだったアイリスが、淡白そうなウォーレン・ヒルだけで我慢できるのだろうか?
「アイリスは、もう浮気はしないの?」
不意に、アイリス=スノードロップが頬を赤らめた。やめて、眩しい!可愛すぎます!女神か!女神だっ!
「浮気はもうしないかな」
アイリス=スノードロップが優しく微笑んで、僕の理解が一気に進んだ。
これは、アイリスのトゥルーエンドだ。
いくつもあるトゥルーエンドの中の一つ。それを、アイリスは手にした。とても幸せな事だ。
だけど、この世界が終わるのは、どうやらバッドエンドを喰らった時だけでは無さそうだ。アイリスがトゥルーエンドに辿り着けば、世界は続くものだと思い込んでいた。
でも、世界は終焉に向かっている。
また始まる為に。
「ライカ=ベラドンナ」
振り替えると、アルフレッド・ノーマンがいた。彼はそっと笑うと、手を差し出した。僕は彼に向かって尋ねていた。
「もう少し、駄目かな?」
「君は魂の存在だからね?終わりに巻き込まれると、魂は消し飛ぶよ?」
「でも、ハッシュが・・」
「彼は君を忘れる。すぐにね。そして、二度と『君』を思い出すことはない。次の世界では、何時も通りに、ライカとハッシュはただの幼馴染みに戻る。おいで、ライカ=ベラドンナ」
「僕の存在を残せたのは、アルフレッドにだけなんだね。ハッシュとあれほど交わりながら、心に・・何も残せなかった」
「俺の心に、ライカは大きな爪痕を残した。この世界は終わり、またつまらない世界が始まる。そこに君はいない。俺は『君に向かうべき愛の言葉』を他人に吐かないと駄目になる。それは、寂しいことだよ・・ライカ」
「アルフレッド」
僕はいつの間にか、アルフレッド・ノーマンに抱きしめられていた。不意に、世界が形を変え始めた。
アイリス=スノードロップがウォーレン・ヒルにお姫様抱っこされる。
その姿が、美麗なスチルに変貌し始める。誰もが、アイリスを見つめていた。そして、アイリスを見つめた人々は、動きを止めて美麗スチルの一部に変貌する。
アイリスが主人公のBLゲームなのだから、世界が彼を中心に、終焉を迎えるのは当然かもしれない。誰もがアイリスを祝福しながら、動きを止めていく。
「もう行くよ、ライカ=ベラドンナ?」
「・・はい」
僕の返事と重なる様に、ハッシュの叫び声が聞こえた。ぼくは目を見開いて、ハッシュを見た。
「ライカーーーー!」
ハッシュ・アルカロイドだけは、僕を見つめてくれていた。彼だけが、美麗スチルにならずに僕に向かってくる。
「ハッシューー!」
僕はハッシュに向かい必死に手を伸ばした。ほぼ同時に、アルフレッド・ノーマンが小さく呟いた。
「・・二人とも眠れ」
一気に意識が危うくなる。ハッシュが床に倒れ込むのが見えた。でも、僕も意識を保ってはいられなかった。ただ、アルフレッドが優しく抱き上げてくれたのはわかった。
「この世界で、多くの人に愛されたな、ライカ=ベラドンナ。向こうの世界でも愛されろ。真実の名前でな。さようなら、愛しい人」
「アルフレッド・・僕は・・ハッシュを絶対に忘れない。皆の事も忘れない・・だから、皆に忘れ去られたくない・・嫌だよ、寂しいよ」
「俺が必ず覚えている・・お休み、ライカ」
◇◇◇◇◇◇
目が覚めたら、入院していた。何でも、死にかけていたところを、親友が見つけて救急車を呼んでくれたようだ。お陰で命拾いした。
「有名な声優さんが、僕の病室にいたから看護師さんがびっくりしてたよ?」
「ふーん、そうか。はい、りんご」
「りんご剥くの上手いな」
「お前が目覚めるまで、見舞いの品を、お裾分けしてもらっていたからな。全く、お前は親に心配かけすぎだ。お前の母さん、泣いてたぞ」
「目覚めたら、お袋とお前がイチャイチャしてたからびびった。お袋が親父と離婚して、若い男に走ったのかと思ったぞ!」
「イチャイチャしている時に、お前が目覚めたからびびった。だが、安心しろ。お前の両親は、もっとイチャイチャしていた」
「それを聞いて安心した。しかし、何故僕は、死にかけていたのかな?」
「栄養失調だったらしいぞ」
「栄養失調で死ぬのか?」
「医者の話では、死ぬらしい。だから、りんごを食べろ。ゆっくりでいいから・・食べて元気になれ。ほら、口開けろ」
「あーん」
親友が、小さく切ったりんごを口に入れてくれた。僕は甘酸っぱいりんごを頬張る。旨い。僕は、親友に微笑みかけていた。親友も僅かに微笑んでくれた。
「んー、美味しいね。もう一つ頂戴!」
「そうか、良かった」
「甘酸っぱいりんごは恋の味」
「恋愛経験ゼロの奴が言いそうな台詞だな」
僕は親友を見つめながら、そっと呟いた。
「沢山、恋愛をしたよ」
「いつ、どこで、誰とだ!?」
親友が驚き、すぐに突っ込んだ質問をしてきた。僕は笑いながら、答えをごまかした。
「秘密~!」
「嘘だな」
「嘘じゃないよ!ハッシュと共に、世界の終わりを迎えることも少し考えたくらいだ。アルフレッドは許さないだろうけどね」
「相手は、外国人か!何が、世界の終わりを迎えるだ!引きこもりのお前の事だ。SNSで騙されて、ノコノコ会いに行き、危うく心中相手にされそうになったんだろう!或いは・・いや。とにかく、栄養失調になったのは、奴等に監禁されていたせいだな?くそ、今すぐに警察に届けを出そう!」
「だから、恋愛だってば~。まあ、アルフレッドのせいで、栄養失調になって死にかけたのは確かだけど」
「やはりか!ああ、もう!お前はどうして心配ばかりかける。もう我慢ならない!」
「どうしたの?」
「その外国人が、お前の周辺をうろうろしている間は、俺がお前の恋人のふりをして追い払う!わかったな!それと、SNSで呼び出されても二度と逢うな!お前は、その・・一部の人間から、好かれる顔立ちをしている。だから、とにかく駄目なんだ。危険すぎる!」
「ハッシュも、アルフレッドも、コックさんも、皆好い人だよ?」
「一人増えてる!!コックとは誰だ?料理人か!いや、菓子職人だな?お前は口がいやしいから、お菓子につられて会いに行ったに違いない!」
親友は椅子から立ち上がると、突然僕の唇にキスをした。そして、僕を見つめて囁く。
「お前は、今から俺のものだ。恋人のふりを本気でやるぞ。だが、今は全て忘れて・・休め」
「んー、お前の声には、魔力が宿っているらしいよ~。ふぁ、本当に眠くなってきた」
「魔力ねぇ?」
「声優さん、子守唄歌って」
「俺が音痴な事を知っていながらの仕打ちか」
親友が僕の頬を優しくつねった。同時に、僕の目から、涙がポロポロとこぼれ落ちた。親友は目を見開いたが、黙ったまま俺の頬を撫でてくれた。
全てを覚えているよ。皆はきっと僕の事を忘れて、新たな世界を迎えていることだろうね?君たちとの出逢いは、全てが僕の宝物になったよ?ハッシュや皆は元気かな?
でも、あのBLゲームはもうしないつもり。だって、本物の君たちに出会ってしまったら、ゲームじゃ満足できないよ。
僕がBLゲームをヤらなくなっても、世界は消えないとは思うよ。でも、心配だから、ネットに攻略サイトを開くよ。バッドエンドしか紹介できないけどね!
きっとBLゲームの世界は続くはず!
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