嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第三章

3-35 吐血ではなく鼻血です!

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◆◆◆◆◆◆


「マテウス様!!」

「ひはぁ、ご免なさい。ルドルフおじさまの衣服に…私の鼻血が掛かりました!」

「その様なことは気になさず。マテウス様、ベッドに横になりましょう。タオルで顔を拭きますね。吐き気や頭痛、その他の症状はありませんか、マテウス様?」

ルドルフがタオルで俺の顔を拭いてくれた。鼻血で真っ赤になったタオルを見て、ルドルフの表情は硬くなる。俺は新しいタオルをルドルフから受け取りながら口を開く。

「ルドルフ様、心配には及びません。これは激しい怒りと煩悩が招いた流血です」

「どういう意味だい?」

俺は鼻血を拭きながら応じる。

「私は自身が思う以上に、カールの件を持ち出し私を欺いた殿下に対して…激しい怒りを感じていたみたいなんです!」

「今は心を落ち着かせ眠るべきです、マテウス様」

俺はルドルフの忠告を無視して、鼻血を垂らしながら言葉を放つ。

「おじさま、私の醜い心を聞いてください!私はヴェルンハルト殿下が酷い目に遭う未来を望んでいます」

「…マテウス様」

「ヴェルンハルト殿下の心が幾ら傷付いても構わない!殿下はもっといっぱい傷付けばいい!カールを忘れて枢機卿に友情を求める殿下を、私は認めたくない!」

頭は興奮しているのに、体から力が抜けていく。俺は体を揺らしながら、心の内を吐き出し続けた。

「おじさま…私は性悪男です。ヴェルンハルト殿下の貞操の危機なのに、殿下を救う気になれない。でも、ヴェルンハルト殿下が死ぬのはやっぱり嫌だ。こんな気持ち…苦しい」

ルドルフが優しく俺の背中をさすってくれる。少し気持ちが楽になってきた。

「ルドルフ様…少し目眩がするので、横になり眠りたいです」

後ろに倒れる様にベッドに横たわったのとほぼ同時に、自室の扉が勢いよく開いた。扉の外にいたヘクトール兄上が、室内の異変に気づいたようだ。

「マテウス!?」

ヘクトール兄上が血相を変えて俺のベッドに駆け寄ってくる。

「にいさま…」

「タオルが血まみれではないか!血を吐いたのか、マテウス?どうなっている?マテウスは重病なのか?答えろ、ルドルフ!!」

ヘクトール兄上の顔色が悪い。

ルドルフが手に持つ血の付いたタオルを見て、俺が吐血したと勘違いしたみたい。

こんなに心配しているヘクトール兄上に、『この鼻血は煩悩による鼻血です』だなんて…恥ずかし過ぎて言えない。

「ルドルフ、状況を説明しろ!」

「今はマテウス様を安静にさせることが重要です。ヘクトール様はどうか落ち着いてください」

「俺に落ち着けと言うのか!マテウスが血を吐いたのに!」

どうしよう。このままでは、ルドルフが責められちゃうよ…。

「あの…ヘクトール兄上…」
「マテウス」

俺はタオルで鼻を覆いながら、ヘクトール兄上に話しかける。

「ヘクトール兄上、私は吐血していません。これは鼻血ですから心配は要りません。大丈夫です、兄上」

「吐血だろうと、鼻血だろうと、俺はお前の事が心配でたまらないよ、マテウス」

ヘクトール兄上を安心させたい。でも、どうしよう。何も言い訳を思い付かない!それに、俺は兄上には嘘を付かないと約束した。

「私は…ただ、」

ヴェルンハルト殿下の貞操の危機に萌えた上に、殿下の不幸に性的興奮を感じ鼻血を吹き出した。

…などと説明してみろ。兄上に嫌われる事間違いなし。嫌だ~。

「混乱して…私は何も言えないです。話したら…兄上に嫌われる」

「マテウス、何故話せないんだい?大好きなマテウス。俺は絶対にマテウスを嫌ったりしない」

嫌だぁ~。兄上が優しすぎるぅ!
絶対に絶対に、嫌われたくない!

でも、兄上に嘘は付きたくない。どうすればいい?

「まさか…マテウス。先見が起きたのか?陛下の子が死産する事を予言した時の様に、今回も先が見えて…その反動が体に現れた。そうなのか、マテウス?」

ナイス!
ヘクトール兄上、ナイスアシスト!

兄上が勘違いしている。この機会を逃しては駄目だ。俺が変態男である事は知られてはならない。

それに、これは嘘じゃ無い。

小説の内容は現実と繋がっている。その小説の内容に興奮して鼻血が噴き出たのだから、ヘクトール兄上を裏切った事にはならない筈!

「…ヘクトール兄上、突然に先見が起こりました」

「やはり、そうだったか…」

「今は予見で頭がいっぱいです。兄上、目眩がします。少し怖いです。悪夢を見ないように…手を繋いで欲しいです」

「マテウス、悪夢を見たりはしない。俺が傍で手を繋いでいるからな。安心して眠るといい。マテウス、大丈夫だから」

「…あにうえ」

ヘクトール兄上に手を繋いでもらった俺は、微熱と鼻血と疲れから気を失うようにベッドで眠りについた。



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