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第三章

3-33 クリスティアン = バイラント

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◆◆◆◆◆◆


ルドルフに触れられた時、全身に痛みが走った。俺がびくりと身を震わせると、ルドルフは難しい顔をして言葉を発する。

「どうやら…この打撲が微熱の原因の様ですね。ですが、他に原因がないか調べる必要があります。もう少しお付き合いください、マテウス様」

「はい、ルドルフおじさま」
「では、まず口を大きく開けて」

「あ~、」
「はい、そのまま…」

ルドルフは俺に口を開けさせると咥内を観察する。喉の腫れや口腔に異常が無いかを確認すると、ルドルフは説明してくれた。

「喉の腫れは無いね。次は心音の確認をするね。聴診器を肌に当てると少しひんやりしますが頑張って下さい、マテウス様」

「私は子供ではありませんよ、ルドルフおじさま?」

「そうだったね、申し訳ない」

ルドルフは俺の言葉に少し笑みを浮かべながら、聴診器を鞄から取り出した。そして、それを胸に当て心音を聞く。

俺は前世とあまり形の変わらない聴診器に懐かしさを覚え見つめた。

「この聴診器が珍しいかい?」

「はい。ルドルフ様が以前使っていた聴診器とは形が違いますね。シュナーベル家の物でもない。王都ではその聴診器が主流なのですか?」

「王都でもまだ主流ではないな。だが、すぐにこの形が主流になると思います。心音が以前の物に比べて鮮明に聞こえるからね」

「輸入品ですか?」

「診察は終わりましたので、マテウス様は服を着て下さい。体が冷えてしまうのは困るので…聴診器の話はその後にゆっくりとしましょう」

「はい、ルドルフおじさま!」

俺は急いで衣服を着たが、気がつくと服のボタンを一つ飛ばしで留めていた。

「あっ…」

昔からボタンを留めるのが苦手で、人に見られると余計にうまく出来なくなる。

まるで子供だ…恥ずかしい。

「手が震えているね。私がボタンを留め直しても構わないかい、マテウス様?」

「お願いします…」

ルドルフは優しく笑うと、俺のボタンを留め直してくれた。俺は恥ずかしくて、視線をうろうろとさせる。それに気がついたルドルフ様が、気を利かせて聴診器の話題を振ってくれた。

「王都に滞在中の枢機卿の医師団から、王城の医師団に対してこの聴診器が多数贈られてね。私はその贈られた聴診器を、知り合いから一つ譲ってもらったんだよ。使い始めたばかりだが実にいい」

「枢機卿の医師団から?」

「ああ、そえだよ。元々はフォルカー教国の植民地の土着の医師が使用していた物らしい。それをひな型に改良した聴診器がこれだ。既に量産の体制が出来ていて、輸出品として近々売り出すつもりだろうね」

まさか、聴診器の話からフォルカー教国の枢機卿の話に繋がるとは思わなかった。これは…チャンスだ。

俺は気持ちを落ち着けながらルドルフに尋ねた。

「先程、アルミンから王都に滞在中の枢機卿の件は聞きました。でも、アルミンはうっかり屋さんで、肝心の枢機卿の名前を忘れたそうなのです!ルドルフおじさまは、枢機卿のお名前をご存じですか?」

俺の質問にルドルフがあっさりと応じる。

「名前はクリスティアン = バイラント。フォルカー教国の枢機卿団の、最年少枢機卿だそうだよ。各国の教会を巡っているらしいね」

「クリスティアン = バイラント!」

俺が大きな声を出したので、ルドルフは目を丸くする。服のボタンを留めるルドルフの手が、ピタリと止まってしまった。

「マテウス様がフォルカー教の枢機卿に興味を持つとは意外ですね?もしかして、彼の別名を知っているから興味が有るのかな?」

「ルドルフおじさま!私は彼の別名を知っています。『孕み子狩り』ですよね?ああ、クリスティアン = バイラントがフォーゲル王国に来ているなんて!ついに、彼は…ヴェルンハルト殿下に禁断の恋をしてしまうのね!」

BL小説『愛の為に』の主人公ヴェルンハルト殿下は、友人と思っていたクリスティアンに裏切られる。

次々と衣服を剥ぎ取られながらも、殿下は必死に抵抗する。でも、逞しい肉体のクリスティアンに押し倒され、殿下は枢機卿に組み敷かれた。

そして、クリスティアンの猛った男根がヴェルンハルト殿下の肉体を割いて貫き最奥に…!

「うっ、うっーーーっ!」

俺は興奮のあまり、煩悩という名の鼻血を盛大に吹き出していた。


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