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第三章
3-32 ルドルフの診察
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◆◆◆◆◆◆
「ヘクトール様。マテウス様のお体に負担がかかります。過度な接触はお控えいただきたく存じます」
ルドルフのヒヤリとした声に、俺は慌ててヘクトール兄上から身を離す。ルドルフの目の前で兄上にキスをおねだりしてしまった。
恥ずかしい!
「ルドルフ様、兄上に触れ合いを強請ったのは私の方なのです‥‥ごめんなさい」
俺が慌てて謝ると、ヘクトール兄上がそれを制して口を開いた。
「謝る必要はない、マテウス。ルドルフ、俺達は婚約している。キスぐらい許されるはずだ。鋭い声で制する事でもないと思うが‥‥何を懸念している、ルドルフ?」
ヘクトール兄上はそう問うと、鋭い眼差しをルドルフに向ける。
なにこれ‥‥?
甘い空気が一気に不穏になってしまった。俺は黙って二人の様子を伺う事にする。
ルドルフはヘクトール兄上を見つめて、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「もしもマテウス様が流行り病に罹患している場合、過度の接触でヘクトール様にも病が移る可能性があります。ヘクトール様はシュナーベル家の次期当主です。行動には細心の注意を払って然るべきかと存じます」
ルドルフの尤もな説明に、ヘクトール兄上は皮肉な笑みで応じた。
「俺の身を気遣っての言葉だと?」
「そうです」
「そろそろ正直に語ってはどうだ、ルドルフ?シュナーベル家と縁を切った筈のお前が、俺やマテウスの元にやって来た理由を」
「すでに申し上げた筈です。『町医者の収入だけでは心許なく、マテウス様の主治医として働かせて欲しい』と‥‥」
ヘクトール兄上はルドルフの言葉を鼻で笑うと、鋭い言葉を放った。
「そう言ってお前は俺に頭を下げた。プライドの高いルドルフが実につまらない嘘を付くものだと、俺は不愉快になったぞ」
「嘘など付いておりません」
ルドルフの言葉にヘクトールは眉を跳ね上げる。
「ルドルフは優秀な処刑人であり医者だ。お前を雇うことはシュナーベル家にとっても利となる。だが、ルドルフがマテウスに近づく真の理由を語らねば、安心してマテウスを預けられない。」
ヘクトール兄上の言葉にルドルフは一礼すると、はっきりとした口調で語り始める。
「では、正直に申し上げます。私がマテウス様の主治医になることを望んだのは、グンナー様と同様の死を迎えさせない為です。そして、ヘクトール様を見張る為でもあります」
「‥‥俺を見張る為だと?」
「不愉快でしょうが‥‥ヘクトール様はアルノー様のお子でいらっしゃいます。マテウス様を守る為には貴方を見張る必要があります」
「ルドルフおじさま、なんて酷いことを!兄上に謝って下さい!」
父上の名を出したルドルフに、俺は思わず大きな声をあげていた。
「マテウス、やめなさい」
「でも、兄上!」
「マテウス」
「‥‥っ」
俺の抗議の声を制したのは兄上だった。ヘクトール兄上はルドルフを見つめると、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ルドルフ、正直に話してくれた事に感謝する。喧嘩を仕掛ける様な真似をして悪かった。マテウスの診察に専念してくれ」
「承知しました」
「マテウス、叱ってすまない。疲れてはいないかい?すぐに部屋を出るから、ルドルフの診察を受けてくれ。では、また後で‥‥マテウス」
ヘクトール兄上が優しく微笑み頬を撫でたので、俺は兄上の手に触れて返事をした。
「はい、兄上」
ヘクトール兄上は軽く頷くと部屋を後にした。ルドルフは俺に気遣いの言葉を掛けてから診察を始める。
◇◇◇
ルドルフは幾つかの問診の後に、聴診器を取り出した。そして、診察の為に俺に服を脱ぐように指示する。俺は服のボタンに手を掛けたままもじもじと躊躇う。
「マテウス様?」
「あの、その‥‥恥ずかしくて」
医者とはいえ、ルドルフに肌を見せるのは恥ずかしい。何故なら、ルドルフはイケオジだから!
「私は医者だよ、マテウス様?それに、ヘクトール様のような美丈夫でもない。私のような冴えない中年男でも、恥ずかしいのかい?」
「ルドルフおじさまは、間違っています。おじさまはイケてる男性です!冴えない男とはマテウスの事を言います!」
「ん、マテウス様が冴えない男?どうもマテウス様は、自己評価が低いみたいだね。マテウス様はとても可愛いよ?」
俺はルドルフの言葉に衝撃を受けて、思わず心の声が漏れ出す。
「なんてこと!シュナーベル家の八割以上に美的感覚の欠損がみられるなんて!性格に難のあるヴェルンハルト殿下とアルミンだけが、正常な美的感覚を持ってるとか‥‥悲惨過ぎる!」
俺の嘆きの声はルドルフの心には響かなかったようで、わずかに首を傾げるのみだった。
「ふむ、全く診察が進まないな。ヘクトール様を長くお待たせするのも気の毒だから、私がマテウス様の服を脱がせるね。いいかな?」
「は、はい、おじさま!」
俺の返事を待った後、ルドルフは服を手際よく脱がしていった。俺は思わず変な声を出してしまう。
「えっ、え、うひぁ!」
「静かに、マテウス様」
「あぅ、あうっ‥‥」
俺は着せ替え人形の様に、ルドルフに服を剥ぎ取られた。ルドルフの動きは無駄がなく、医者の目で露になる肌を観察する。
「ん?」
「え?」
「マテウス様、背中と肩に打撲傷らしき痣ができていますね?少し肌に触りますよ」
「ルドルフ様‥‥痛いのはやだ。優しくしてね」
「‥‥優しくします」
ルドルフが背中に触れると、全身に痛みが走った。優しくするって言ったのに!嘘つき!
◆◆◆◆◆◆
「ヘクトール様。マテウス様のお体に負担がかかります。過度な接触はお控えいただきたく存じます」
ルドルフのヒヤリとした声に、俺は慌ててヘクトール兄上から身を離す。ルドルフの目の前で兄上にキスをおねだりしてしまった。
恥ずかしい!
「ルドルフ様、兄上に触れ合いを強請ったのは私の方なのです‥‥ごめんなさい」
俺が慌てて謝ると、ヘクトール兄上がそれを制して口を開いた。
「謝る必要はない、マテウス。ルドルフ、俺達は婚約している。キスぐらい許されるはずだ。鋭い声で制する事でもないと思うが‥‥何を懸念している、ルドルフ?」
ヘクトール兄上はそう問うと、鋭い眼差しをルドルフに向ける。
なにこれ‥‥?
甘い空気が一気に不穏になってしまった。俺は黙って二人の様子を伺う事にする。
ルドルフはヘクトール兄上を見つめて、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「もしもマテウス様が流行り病に罹患している場合、過度の接触でヘクトール様にも病が移る可能性があります。ヘクトール様はシュナーベル家の次期当主です。行動には細心の注意を払って然るべきかと存じます」
ルドルフの尤もな説明に、ヘクトール兄上は皮肉な笑みで応じた。
「俺の身を気遣っての言葉だと?」
「そうです」
「そろそろ正直に語ってはどうだ、ルドルフ?シュナーベル家と縁を切った筈のお前が、俺やマテウスの元にやって来た理由を」
「すでに申し上げた筈です。『町医者の収入だけでは心許なく、マテウス様の主治医として働かせて欲しい』と‥‥」
ヘクトール兄上はルドルフの言葉を鼻で笑うと、鋭い言葉を放った。
「そう言ってお前は俺に頭を下げた。プライドの高いルドルフが実につまらない嘘を付くものだと、俺は不愉快になったぞ」
「嘘など付いておりません」
ルドルフの言葉にヘクトールは眉を跳ね上げる。
「ルドルフは優秀な処刑人であり医者だ。お前を雇うことはシュナーベル家にとっても利となる。だが、ルドルフがマテウスに近づく真の理由を語らねば、安心してマテウスを預けられない。」
ヘクトール兄上の言葉にルドルフは一礼すると、はっきりとした口調で語り始める。
「では、正直に申し上げます。私がマテウス様の主治医になることを望んだのは、グンナー様と同様の死を迎えさせない為です。そして、ヘクトール様を見張る為でもあります」
「‥‥俺を見張る為だと?」
「不愉快でしょうが‥‥ヘクトール様はアルノー様のお子でいらっしゃいます。マテウス様を守る為には貴方を見張る必要があります」
「ルドルフおじさま、なんて酷いことを!兄上に謝って下さい!」
父上の名を出したルドルフに、俺は思わず大きな声をあげていた。
「マテウス、やめなさい」
「でも、兄上!」
「マテウス」
「‥‥っ」
俺の抗議の声を制したのは兄上だった。ヘクトール兄上はルドルフを見つめると、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ルドルフ、正直に話してくれた事に感謝する。喧嘩を仕掛ける様な真似をして悪かった。マテウスの診察に専念してくれ」
「承知しました」
「マテウス、叱ってすまない。疲れてはいないかい?すぐに部屋を出るから、ルドルフの診察を受けてくれ。では、また後で‥‥マテウス」
ヘクトール兄上が優しく微笑み頬を撫でたので、俺は兄上の手に触れて返事をした。
「はい、兄上」
ヘクトール兄上は軽く頷くと部屋を後にした。ルドルフは俺に気遣いの言葉を掛けてから診察を始める。
◇◇◇
ルドルフは幾つかの問診の後に、聴診器を取り出した。そして、診察の為に俺に服を脱ぐように指示する。俺は服のボタンに手を掛けたままもじもじと躊躇う。
「マテウス様?」
「あの、その‥‥恥ずかしくて」
医者とはいえ、ルドルフに肌を見せるのは恥ずかしい。何故なら、ルドルフはイケオジだから!
「私は医者だよ、マテウス様?それに、ヘクトール様のような美丈夫でもない。私のような冴えない中年男でも、恥ずかしいのかい?」
「ルドルフおじさまは、間違っています。おじさまはイケてる男性です!冴えない男とはマテウスの事を言います!」
「ん、マテウス様が冴えない男?どうもマテウス様は、自己評価が低いみたいだね。マテウス様はとても可愛いよ?」
俺はルドルフの言葉に衝撃を受けて、思わず心の声が漏れ出す。
「なんてこと!シュナーベル家の八割以上に美的感覚の欠損がみられるなんて!性格に難のあるヴェルンハルト殿下とアルミンだけが、正常な美的感覚を持ってるとか‥‥悲惨過ぎる!」
俺の嘆きの声はルドルフの心には響かなかったようで、わずかに首を傾げるのみだった。
「ふむ、全く診察が進まないな。ヘクトール様を長くお待たせするのも気の毒だから、私がマテウス様の服を脱がせるね。いいかな?」
「は、はい、おじさま!」
俺の返事を待った後、ルドルフは服を手際よく脱がしていった。俺は思わず変な声を出してしまう。
「えっ、え、うひぁ!」
「静かに、マテウス様」
「あぅ、あうっ‥‥」
俺は着せ替え人形の様に、ルドルフに服を剥ぎ取られた。ルドルフの動きは無駄がなく、医者の目で露になる肌を観察する。
「ん?」
「え?」
「マテウス様、背中と肩に打撲傷らしき痣ができていますね?少し肌に触りますよ」
「ルドルフ様‥‥痛いのはやだ。優しくしてね」
「‥‥優しくします」
ルドルフが背中に触れると、全身に痛みが走った。優しくするって言ったのに!嘘つき!
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