嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第三章

3-31 ヘクトール兄上とのキス

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◆◆◆◆◆◆


「ヘクトール兄上、どうぞお入り下さい!」

扉に向かい慌てて声を掛けると、ヘクトール兄上が部屋に入ってきた。アルミンは素早く扉の脇に下がると、兄上に対して一礼する。

ヘクトール兄上はアルミンに視線を向けて命じた。

「アルミン、ご苦労様。厨房に行って薬草粥を頼んできてくれるかい?」

「承知しました、ヘクトール様」

なんてことだ!

アルミンがあっさりと俺を裏切った。俺は上半身をベッドから起こすと、ヘクトール兄上に向かい懇願する。

「ヘクトール兄上はご存知でしょ?私は薬草粥が苦手なのです。芋粥が良いです。サツマイモ入りの芋粥が食べたいです、兄上!」

「芋粥は子供の食べ物だよ、マテウス?」
「マテウスはまだ子供です!」
「夜を共にしたのに?」
「あにうえ~」
「マテウスは反応が全て可愛いから困る」
「か、可愛い?」

俺は頬を赤らめヘクトール兄上を見つめた。俺の視線を受けて、ヘクトール兄上は柔和な笑みを浮かべる。そして、背後を振り返り誰かに声を掛けた。

「では、医者の判断を仰ごうかな。どう思う、ルドルフ?」

「芋粥で良いと思いますよ、ヘクトール様。マテウス様が喜んで食べて下さる事が何より大切ですので」

ヘクトール兄上が連れてきた医者は意外な人物で、俺にとっては嬉しい再会だった。

「ルドルフおじさま!」

「マテウス様、お久しぶりです。ヘクトール様のご厚意により、マテウス様の担当医をさせて頂く事となりました。」

「嬉しいです、ルドルフ様!」

「王都の町医者も兼ねた身ですが、マテウス様がご病気の際には泊まり込みで様子を見させてもらいます」

「頼もしいです、ルドルフ様」

ルドルフおじさまの優しい笑顔に心が穏やかになる。でも、ルドルフとの再会を、アルミンは不快に思っているようだ。

アルミンは我慢がならないというように、ルドルフに食って掛かる。

「長男で親父の跡継ぎだったアンタは、処刑人の任を突然投げ出してシュナーベル家を去った。その事に、親父がどれほど衝撃を受けたか分かっているのか?」

「アルミン‥‥」

「なのに、今頃になってシュナーベル家にで戻ってきた。しかも、処刑人としてではなく医師として‥‥随分と恥知らずだな?」

「‥‥‥」

ルドルフは反論することなく沈黙する。アルミンの語気の強さに戸惑いつつ、俺は彼の名を呼んだ。

「アルミン」

アルミンはちらりと俺に視線を向けたが、すぐにルドルフに視線を戻し睨み付ける。そんな様子のアルミンを制したのは、ヘクトール兄上だった。

「アルミン、言葉を慎みなさい。ルドルフに邸への出入りを許したのは俺だ。ルドルフを責めるのは止めなさい。」

「ヘクトール様、コイツは!」

「アルミン‥‥王城で毒を飲んだお前は、ルドルフの治療のお陰で後遺症なく完治した。アルミンはルドルフの医師としての実力を認めてはどうだ?」

「‥‥っ!」

ヘクトール兄上の言葉に、アルミンは唇を噛み締めて黙り込む。ルドルフは軽く息を吐き出すと、アルミンに向かい言葉を発した。

「マテウス様の担当医として、シュナーベル家と再び繋がれた事を私は喜んでいる。いずれ、父上にも挨拶に行くつもりだ。だが、処刑人を止め、医者となった事については後悔はしていない」

「兄貴!」

「さて、マテウス様の診察を始めるので、アルミンは部屋を出てくれるかな?」

「っ!」

ルドルフの言葉にアルミンは表情を歪めたが、無言のまま部屋を出て行く。俺はアルミンに声を掛ける事ができなかった。

ヘクトール兄上はアルミンが部屋から出ていくと、ルドルフに声を掛けた。

「俺も部屋を出ていくべきかな?」

「ヘクトール様はマテウス様の婚約者ですので‥‥。ここはマテウス様の要望に従いましょう。マテウス様、どうされますか?」

ルドルフにそう問われ、戸惑いながらも兄上に視線を向け口を開いた。

「ヘクトール兄上に肌を見せるのは恥ずかしいです。でも、兄上は婚約者ですから、え~と、その‥‥部屋にいてください。でも、肌を見ちゃ駄目ですよ、兄さま!恥ずかしいから!」

ヘクトール兄上は、俺の言葉に笑みを浮かべる。そして、兄上はベッドに近づくと俺の髪を優しく撫でた。

「残念ながら‥‥俺は堪え性が無くてね。マテウスの肌を見ないでいる自信がない。診察が終わるまでは、扉の外で待つことにする。それでいいかい、マテウス?」

「はい、兄上」

不意にヘクトール兄上は身を屈めると、俺の唇に軽くキスをした。そして、重なり合った唇があっさりと離れていく。

ヘクトール兄上とのただ一度の情交を思い出し、体が熱くなるのを感じた。もう一度‥‥欲しい。

「あ、兄上‥‥あの、その」
「どうした、マテウス?」
「‥‥もう一度」

俺の言葉と同時に唇が重なる。今度は深い交わりだった。互いの体を巡る血脈が熱を帯びる。舌を絡み合わせながら、先を望んでしまう自分がいた。

もっと、もっと、中に、深く。



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