57 / 239
第三章
3-31 ヘクトール兄上とのキス
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
「ヘクトール兄上、どうぞお入り下さい!」
扉に向かい慌てて声を掛けると、ヘクトール兄上が部屋に入ってきた。アルミンは素早く扉の脇に下がると、兄上に対して一礼する。
ヘクトール兄上はアルミンに視線を向けて命じた。
「アルミン、ご苦労様。厨房に行って薬草粥を頼んできてくれるかい?」
「承知しました、ヘクトール様」
なんてことだ!
アルミンがあっさりと俺を裏切った。俺は上半身をベッドから起こすと、ヘクトール兄上に向かい懇願する。
「ヘクトール兄上はご存知でしょ?私は薬草粥が苦手なのです。芋粥が良いです。サツマイモ入りの芋粥が食べたいです、兄上!」
「芋粥は子供の食べ物だよ、マテウス?」
「マテウスはまだ子供です!」
「夜を共にしたのに?」
「あにうえ~」
「マテウスは反応が全て可愛いから困る」
「か、可愛い?」
俺は頬を赤らめヘクトール兄上を見つめた。俺の視線を受けて、ヘクトール兄上は柔和な笑みを浮かべる。そして、背後を振り返り誰かに声を掛けた。
「では、医者の判断を仰ごうかな。どう思う、ルドルフ?」
「芋粥で良いと思いますよ、ヘクトール様。マテウス様が喜んで食べて下さる事が何より大切ですので」
ヘクトール兄上が連れてきた医者は意外な人物で、俺にとっては嬉しい再会だった。
「ルドルフおじさま!」
「マテウス様、お久しぶりです。ヘクトール様のご厚意により、マテウス様の担当医をさせて頂く事となりました。」
「嬉しいです、ルドルフ様!」
「王都の町医者も兼ねた身ですが、マテウス様がご病気の際には泊まり込みで様子を見させてもらいます」
「頼もしいです、ルドルフ様」
ルドルフおじさまの優しい笑顔に心が穏やかになる。でも、ルドルフとの再会を、アルミンは不快に思っているようだ。
アルミンは我慢がならないというように、ルドルフに食って掛かる。
「長男で親父の跡継ぎだったアンタは、処刑人の任を突然投げ出してシュナーベル家を去った。その事に、親父がどれほど衝撃を受けたか分かっているのか?」
「アルミン‥‥」
「なのに、今頃になってシュナーベル家にで戻ってきた。しかも、処刑人としてではなく医師として‥‥随分と恥知らずだな?」
「‥‥‥」
ルドルフは反論することなく沈黙する。アルミンの語気の強さに戸惑いつつ、俺は彼の名を呼んだ。
「アルミン」
アルミンはちらりと俺に視線を向けたが、すぐにルドルフに視線を戻し睨み付ける。そんな様子のアルミンを制したのは、ヘクトール兄上だった。
「アルミン、言葉を慎みなさい。ルドルフに邸への出入りを許したのは俺だ。ルドルフを責めるのは止めなさい。」
「ヘクトール様、コイツは!」
「アルミン‥‥王城で毒を飲んだお前は、ルドルフの治療のお陰で後遺症なく完治した。アルミンはルドルフの医師としての実力を認めてはどうだ?」
「‥‥っ!」
ヘクトール兄上の言葉に、アルミンは唇を噛み締めて黙り込む。ルドルフは軽く息を吐き出すと、アルミンに向かい言葉を発した。
「マテウス様の担当医として、シュナーベル家と再び繋がれた事を私は喜んでいる。いずれ、父上にも挨拶に行くつもりだ。だが、処刑人を止め、医者となった事については後悔はしていない」
「兄貴!」
「さて、マテウス様の診察を始めるので、アルミンは部屋を出てくれるかな?」
「っ!」
ルドルフの言葉にアルミンは表情を歪めたが、無言のまま部屋を出て行く。俺はアルミンに声を掛ける事ができなかった。
ヘクトール兄上はアルミンが部屋から出ていくと、ルドルフに声を掛けた。
「俺も部屋を出ていくべきかな?」
「ヘクトール様はマテウス様の婚約者ですので‥‥。ここはマテウス様の要望に従いましょう。マテウス様、どうされますか?」
ルドルフにそう問われ、戸惑いながらも兄上に視線を向け口を開いた。
「ヘクトール兄上に肌を見せるのは恥ずかしいです。でも、兄上は婚約者ですから、え~と、その‥‥部屋にいてください。でも、肌を見ちゃ駄目ですよ、兄さま!恥ずかしいから!」
ヘクトール兄上は、俺の言葉に笑みを浮かべる。そして、兄上はベッドに近づくと俺の髪を優しく撫でた。
「残念ながら‥‥俺は堪え性が無くてね。マテウスの肌を見ないでいる自信がない。診察が終わるまでは、扉の外で待つことにする。それでいいかい、マテウス?」
「はい、兄上」
不意にヘクトール兄上は身を屈めると、俺の唇に軽くキスをした。そして、重なり合った唇があっさりと離れていく。
ヘクトール兄上とのただ一度の情交を思い出し、体が熱くなるのを感じた。もう一度‥‥欲しい。
「あ、兄上‥‥あの、その」
「どうした、マテウス?」
「‥‥もう一度」
俺の言葉と同時に唇が重なる。今度は深い交わりだった。互いの体を巡る血脈が熱を帯びる。舌を絡み合わせながら、先を望んでしまう自分がいた。
もっと、もっと、中に、深く。
◆◆◆◆◆◆
「ヘクトール兄上、どうぞお入り下さい!」
扉に向かい慌てて声を掛けると、ヘクトール兄上が部屋に入ってきた。アルミンは素早く扉の脇に下がると、兄上に対して一礼する。
ヘクトール兄上はアルミンに視線を向けて命じた。
「アルミン、ご苦労様。厨房に行って薬草粥を頼んできてくれるかい?」
「承知しました、ヘクトール様」
なんてことだ!
アルミンがあっさりと俺を裏切った。俺は上半身をベッドから起こすと、ヘクトール兄上に向かい懇願する。
「ヘクトール兄上はご存知でしょ?私は薬草粥が苦手なのです。芋粥が良いです。サツマイモ入りの芋粥が食べたいです、兄上!」
「芋粥は子供の食べ物だよ、マテウス?」
「マテウスはまだ子供です!」
「夜を共にしたのに?」
「あにうえ~」
「マテウスは反応が全て可愛いから困る」
「か、可愛い?」
俺は頬を赤らめヘクトール兄上を見つめた。俺の視線を受けて、ヘクトール兄上は柔和な笑みを浮かべる。そして、背後を振り返り誰かに声を掛けた。
「では、医者の判断を仰ごうかな。どう思う、ルドルフ?」
「芋粥で良いと思いますよ、ヘクトール様。マテウス様が喜んで食べて下さる事が何より大切ですので」
ヘクトール兄上が連れてきた医者は意外な人物で、俺にとっては嬉しい再会だった。
「ルドルフおじさま!」
「マテウス様、お久しぶりです。ヘクトール様のご厚意により、マテウス様の担当医をさせて頂く事となりました。」
「嬉しいです、ルドルフ様!」
「王都の町医者も兼ねた身ですが、マテウス様がご病気の際には泊まり込みで様子を見させてもらいます」
「頼もしいです、ルドルフ様」
ルドルフおじさまの優しい笑顔に心が穏やかになる。でも、ルドルフとの再会を、アルミンは不快に思っているようだ。
アルミンは我慢がならないというように、ルドルフに食って掛かる。
「長男で親父の跡継ぎだったアンタは、処刑人の任を突然投げ出してシュナーベル家を去った。その事に、親父がどれほど衝撃を受けたか分かっているのか?」
「アルミン‥‥」
「なのに、今頃になってシュナーベル家にで戻ってきた。しかも、処刑人としてではなく医師として‥‥随分と恥知らずだな?」
「‥‥‥」
ルドルフは反論することなく沈黙する。アルミンの語気の強さに戸惑いつつ、俺は彼の名を呼んだ。
「アルミン」
アルミンはちらりと俺に視線を向けたが、すぐにルドルフに視線を戻し睨み付ける。そんな様子のアルミンを制したのは、ヘクトール兄上だった。
「アルミン、言葉を慎みなさい。ルドルフに邸への出入りを許したのは俺だ。ルドルフを責めるのは止めなさい。」
「ヘクトール様、コイツは!」
「アルミン‥‥王城で毒を飲んだお前は、ルドルフの治療のお陰で後遺症なく完治した。アルミンはルドルフの医師としての実力を認めてはどうだ?」
「‥‥っ!」
ヘクトール兄上の言葉に、アルミンは唇を噛み締めて黙り込む。ルドルフは軽く息を吐き出すと、アルミンに向かい言葉を発した。
「マテウス様の担当医として、シュナーベル家と再び繋がれた事を私は喜んでいる。いずれ、父上にも挨拶に行くつもりだ。だが、処刑人を止め、医者となった事については後悔はしていない」
「兄貴!」
「さて、マテウス様の診察を始めるので、アルミンは部屋を出てくれるかな?」
「っ!」
ルドルフの言葉にアルミンは表情を歪めたが、無言のまま部屋を出て行く。俺はアルミンに声を掛ける事ができなかった。
ヘクトール兄上はアルミンが部屋から出ていくと、ルドルフに声を掛けた。
「俺も部屋を出ていくべきかな?」
「ヘクトール様はマテウス様の婚約者ですので‥‥。ここはマテウス様の要望に従いましょう。マテウス様、どうされますか?」
ルドルフにそう問われ、戸惑いながらも兄上に視線を向け口を開いた。
「ヘクトール兄上に肌を見せるのは恥ずかしいです。でも、兄上は婚約者ですから、え~と、その‥‥部屋にいてください。でも、肌を見ちゃ駄目ですよ、兄さま!恥ずかしいから!」
ヘクトール兄上は、俺の言葉に笑みを浮かべる。そして、兄上はベッドに近づくと俺の髪を優しく撫でた。
「残念ながら‥‥俺は堪え性が無くてね。マテウスの肌を見ないでいる自信がない。診察が終わるまでは、扉の外で待つことにする。それでいいかい、マテウス?」
「はい、兄上」
不意にヘクトール兄上は身を屈めると、俺の唇に軽くキスをした。そして、重なり合った唇があっさりと離れていく。
ヘクトール兄上とのただ一度の情交を思い出し、体が熱くなるのを感じた。もう一度‥‥欲しい。
「あ、兄上‥‥あの、その」
「どうした、マテウス?」
「‥‥もう一度」
俺の言葉と同時に唇が重なる。今度は深い交わりだった。互いの体を巡る血脈が熱を帯びる。舌を絡み合わせながら、先を望んでしまう自分がいた。
もっと、もっと、中に、深く。
◆◆◆◆◆◆
13
お気に入りに追加
4,574
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。


侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。