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第三章
3-30 私は薬草粥が苦手
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◆◆◆◆◆
前世の社畜人生では微熱と疲労感など常の事で、それを理由に会社を休んだ事はない。
でも、蓄積した疲労が原因で過労死したので、生活態度は改めないとまた早死する!
「分かったよ、アルミン。もしもこの症状がフォルカー病の初期症状なら危ないし、医者の指示に従って休むことにするね」
俺の言葉にアルミンが安堵の表情を浮かべると、ちょっと笑って口を開いた。
「大人しく寝てくれると助かる」
「そうする。でも、どうして孕み子がフォルカー病に罹患すると重症化するのかな?」
俺が疑問を口にすると、アルミンはすぐに答えてくれた。
「原因はわからないが、孕み子が重症化しやすいのは確かだ。五年前の疫病蔓延で、フォルカー教国内の孕み子が激減したからな。」
「‥‥激減」
「ああ、激減だ。その穴埋めとして、今盛んに植民地から教国に奴隷の孕み子が輸入されてる」
「植民地の孕み子を輸入って‥‥孕み子はモノではないのに酷い」
俺がそう口にすると、アルミンは『悪い』と呟き視線を僅かにそらした。アルミンに謝られ、俺は慌てて言葉を発していた。
「アルミンを責めたわけじゃないよ。ただ同じ孕み子として辛くて」
「マテウスの気持ちは分かってる」
アルミンはちょっと笑って俺の頭を撫でた。髪に触れるその手は優しく、いつものアルミンに俺はホッとする。
「ねぇ、アルミン」
「なんだ?」
頭を撫でられて嬉しいなんて‥‥兄上と婚約している身では言えない。なので、別の事を口にする。
「‥‥前回の伝染病蔓延をきっかけに、フォルカー教国は奴隷貿易から手を引いてなかったっけ?」
俺がそう口にすると、アルミンは頭に置いた手を引いて肩を竦め言葉を紡いだ。
「疫病流行の発信源は教国内の奴隷貿易港。でも、フォルカー教国は疫病が周辺国に伝播するまでその事実を伏せた。打撃を受けた周辺国がフォルカー教国に怒りを向けるのは当然だろうな」
真面目に会話をするアルミンは、妙にいい男に変貌する。BL小説内ではアルミンなんて脇役中の脇役なのにズルい奴!
「なるほど‥‥フォルカー教国は周辺国に配慮して奴隷貿易から手を引いたって事ね。でも、教国は奴隷貿易を再開する必要に迫られた」
「伝染病でフォルカー教国内の孕み子が激減した。子が減少すれば国が滅びる。フォルカー教国としては、奴隷貿易を再開するしかなかったって事だな」
「どの国も奴隷貿易には少なからず関わっているから、教国が奴隷貿易を再開しても反対する国は少ないよね。私たちの国も‥‥」
答え合わせをするように、アルミンが俺の会話を引き継ぐ。
「奴隷貿易には消極的だが、フォーゲル王国も植民地貿易はしている。だから、陛下も反対はできない。」
俺は思わずため息をついた。前世の感覚だと奴隷貿易は受け入れ難いけど、今世には今世の事情がある。
「他国の奴隷の扱いに口出しはできないけど‥‥奴隷の孕み子に何人も子を産ませる事はやめて欲しいな‥‥」
俺はグンナーの死を思い出し不意に気分が悪くなる。
奴隷の孕み子たちは、子宮が裂けるまで子を産むことを強要されるのかな‥‥?
「喋りすぎた‥‥悪い、マテウス」
「大丈夫だよ、アルミン」
アルミンは不意に微笑むと俺の髪を撫でた。その優しい指先に俺はドキリとする。
「そうか‥‥じゃあ、医者を呼んでくるよ。厨房にも寄って消化のいい料理を頼んでくる。何が食べたい、マテウス?」
アルミンが話題を変えてくれので、俺も気持ちを切り替え返事をする。
「ラム酒多めの、レーズンベイクドチーズケーキがいい!」
「いや、駄目だから」
俺の要望はアルミンによりあっさりと却下された。でも、前世も今世も甘党の俺はここで諦めたりしない。
「病人の願いを無下に断るなんて。アルミンの薄情者!」
アルミンは俺の髪をかき乱すと、ひょいと手を離して背後に一歩身を引く。
「さて、厨房に行って薬草粥を頼んでくるか。多少苦いけど薬草粥はシュナーベル家伝統の病人食だ。すぐに元気になるぞ、マテウス!」
「薬草粥!?」
アルミンは俺の言葉をあっさりと受け流すと、医者と食事の手配をするため扉に向かう。
俺は慌ててアルミンの背中に向かって叫んでいた。
「やだ、待って!薬草粥は駄目!アルミンは知ってるよね?私が薬草粥が苦手な事を。せめて芋粥にして。お願い、アルミン‥‥ううっ、う」
泣いてみた。
「あ~、くそ!泣くのは卑怯だぞ、マテウス。仕方ないな‥‥芋粥に変更するか。どうせ『芋はサツマイモがいい』だろ?」
「アルミン、最高!好き!」
小麦粥にサツマイモがホロッと溶けて、自然な甘味が口に広がる芋粥。ケーキとは別種の旨味があるので、これは妥協ではない。
「俺への『好き』が雑すぎて辛い」
アルミンが俺に背中を向けブツブツと呟きながら扉にむかった。
でも、部屋の扉を開けたアルミンが、何故か硬直してその場に立ち尽くす。
「アルミン、どうしたの?」
「‥‥‥‥」
「マテウス、入るよ?医者を連れてきた」
アルミンの沈黙に重なるように、ヘクトール兄上の声が聞こえた。なるほど‥‥アルミンが硬直した理由がわかった。
扉の前でヘクトール兄上と鉢合わせして、アルミンはビビったに違いない。
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前世の社畜人生では微熱と疲労感など常の事で、それを理由に会社を休んだ事はない。
でも、蓄積した疲労が原因で過労死したので、生活態度は改めないとまた早死する!
「分かったよ、アルミン。もしもこの症状がフォルカー病の初期症状なら危ないし、医者の指示に従って休むことにするね」
俺の言葉にアルミンが安堵の表情を浮かべると、ちょっと笑って口を開いた。
「大人しく寝てくれると助かる」
「そうする。でも、どうして孕み子がフォルカー病に罹患すると重症化するのかな?」
俺が疑問を口にすると、アルミンはすぐに答えてくれた。
「原因はわからないが、孕み子が重症化しやすいのは確かだ。五年前の疫病蔓延で、フォルカー教国内の孕み子が激減したからな。」
「‥‥激減」
「ああ、激減だ。その穴埋めとして、今盛んに植民地から教国に奴隷の孕み子が輸入されてる」
「植民地の孕み子を輸入って‥‥孕み子はモノではないのに酷い」
俺がそう口にすると、アルミンは『悪い』と呟き視線を僅かにそらした。アルミンに謝られ、俺は慌てて言葉を発していた。
「アルミンを責めたわけじゃないよ。ただ同じ孕み子として辛くて」
「マテウスの気持ちは分かってる」
アルミンはちょっと笑って俺の頭を撫でた。髪に触れるその手は優しく、いつものアルミンに俺はホッとする。
「ねぇ、アルミン」
「なんだ?」
頭を撫でられて嬉しいなんて‥‥兄上と婚約している身では言えない。なので、別の事を口にする。
「‥‥前回の伝染病蔓延をきっかけに、フォルカー教国は奴隷貿易から手を引いてなかったっけ?」
俺がそう口にすると、アルミンは頭に置いた手を引いて肩を竦め言葉を紡いだ。
「疫病流行の発信源は教国内の奴隷貿易港。でも、フォルカー教国は疫病が周辺国に伝播するまでその事実を伏せた。打撃を受けた周辺国がフォルカー教国に怒りを向けるのは当然だろうな」
真面目に会話をするアルミンは、妙にいい男に変貌する。BL小説内ではアルミンなんて脇役中の脇役なのにズルい奴!
「なるほど‥‥フォルカー教国は周辺国に配慮して奴隷貿易から手を引いたって事ね。でも、教国は奴隷貿易を再開する必要に迫られた」
「伝染病でフォルカー教国内の孕み子が激減した。子が減少すれば国が滅びる。フォルカー教国としては、奴隷貿易を再開するしかなかったって事だな」
「どの国も奴隷貿易には少なからず関わっているから、教国が奴隷貿易を再開しても反対する国は少ないよね。私たちの国も‥‥」
答え合わせをするように、アルミンが俺の会話を引き継ぐ。
「奴隷貿易には消極的だが、フォーゲル王国も植民地貿易はしている。だから、陛下も反対はできない。」
俺は思わずため息をついた。前世の感覚だと奴隷貿易は受け入れ難いけど、今世には今世の事情がある。
「他国の奴隷の扱いに口出しはできないけど‥‥奴隷の孕み子に何人も子を産ませる事はやめて欲しいな‥‥」
俺はグンナーの死を思い出し不意に気分が悪くなる。
奴隷の孕み子たちは、子宮が裂けるまで子を産むことを強要されるのかな‥‥?
「喋りすぎた‥‥悪い、マテウス」
「大丈夫だよ、アルミン」
アルミンは不意に微笑むと俺の髪を撫でた。その優しい指先に俺はドキリとする。
「そうか‥‥じゃあ、医者を呼んでくるよ。厨房にも寄って消化のいい料理を頼んでくる。何が食べたい、マテウス?」
アルミンが話題を変えてくれので、俺も気持ちを切り替え返事をする。
「ラム酒多めの、レーズンベイクドチーズケーキがいい!」
「いや、駄目だから」
俺の要望はアルミンによりあっさりと却下された。でも、前世も今世も甘党の俺はここで諦めたりしない。
「病人の願いを無下に断るなんて。アルミンの薄情者!」
アルミンは俺の髪をかき乱すと、ひょいと手を離して背後に一歩身を引く。
「さて、厨房に行って薬草粥を頼んでくるか。多少苦いけど薬草粥はシュナーベル家伝統の病人食だ。すぐに元気になるぞ、マテウス!」
「薬草粥!?」
アルミンは俺の言葉をあっさりと受け流すと、医者と食事の手配をするため扉に向かう。
俺は慌ててアルミンの背中に向かって叫んでいた。
「やだ、待って!薬草粥は駄目!アルミンは知ってるよね?私が薬草粥が苦手な事を。せめて芋粥にして。お願い、アルミン‥‥ううっ、う」
泣いてみた。
「あ~、くそ!泣くのは卑怯だぞ、マテウス。仕方ないな‥‥芋粥に変更するか。どうせ『芋はサツマイモがいい』だろ?」
「アルミン、最高!好き!」
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「俺への『好き』が雑すぎて辛い」
アルミンが俺に背中を向けブツブツと呟きながら扉にむかった。
でも、部屋の扉を開けたアルミンが、何故か硬直してその場に立ち尽くす。
「アルミン、どうしたの?」
「‥‥‥‥」
「マテウス、入るよ?医者を連れてきた」
アルミンの沈黙に重なるように、ヘクトール兄上の声が聞こえた。なるほど‥‥アルミンが硬直した理由がわかった。
扉の前でヘクトール兄上と鉢合わせして、アルミンはビビったに違いない。
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