嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

文字の大きさ
上 下
55 / 239
第三章

3-29 『フォルカー病』の初期症状

しおりを挟む
◆◆◆◆◆


俺が慌てるアルミンに微笑むと、幼馴染は急に顔を赤らめた。俺はアルミンの衣服越しに、軽く彼の肌に指を添わせてから手を離す。

「‥‥っ!落ち着けー、俺!よし、話の続きだが‥‥フォルカー教国が奴隷貿易の拠点港を密かに封鎖したと、シュナーベル家の密偵が報告してきた。おそらく今回も感染源はそこだろうな。」

俺は首を傾げて尋ねる。

「港を閉鎖したって事は、相当の感染者が出てるのかな?伝染病がフォルカー教国中に広がらないと良いけど‥‥。」

「‥‥流行り病は厄介だからな」

「でも、フォルカー教国とフォーゲル王国は国境を接していないよね?フォルカー教国内でもまだ病が蔓延しているわけじゃない。もしかして、王都で発症者が見つかったの?」

「いや、見つかってない」

「その状況で私が『フォルカー病』に罹患するとは思えない。なのに、アルミンや兄上は急に『フォルカー病』を警戒しだした。港の閉鎖以外に警戒を強めた理由があるのなら教えて、アルミン」

俺がそう尋ねると、アルミンは返事に躊躇いを見せた。

「詳しくはヘクトール様に聞いてくれ、マテウス」

「アルミン~!アルミン~!」

俺はアルミンの服の裾を掴んで名を連呼した。アルミンは困って口を開く。

「マテウス、うるさい。」
「情報下さい、アルミン」
「あ~、くそ。」
「アルミン」
「分かったから‥‥裾を引っ張るな」

俺が素直に裾から手を離すと、アルミンは一つ息を付いて話し出す。

「‥‥数日前から、フォルカー教国の枢機卿が王都の教会を訪れて滞在中だ。枢機卿は教会に籠りきりだが、教会の関係者は王城と王都の教会を頻繁に行き来している。」

「え、枢機卿が来てるの?」

「ああ、そうだ。だから、王城や王都の医療関係者はピリピリしているわけ。感染症を持ち込まれてはたまらないからな。」

「フォルカー教国の枢機卿‥‥」

「ヘクトール様の心配が分かるだろ?王城に出仕しているお前の身を案じておられる。もちろん、俺もお前の事が心配で」

「黙って、アルミン!」
「えっ?いや、だから心配で‥‥」

「今はそれどころじゃないの!枢機卿の名前を教えて!誰なの、アルミン!」

「え、いや‥‥‥聞いたが忘れた」

俺は思わず頭を抱える。

「忘れたって‥‥馬鹿なの、アルミン!私の鼻血の危機と殿下の尻の危機が身近に迫っているのに!」

「‥‥マテウス、熱のせいで発言がおかしくなっているぞ?殿下の尻って何の話だよ?」

しまった。
また余計な発言を‥‥。

「あ~、ごめんなさい。熱のせいで、はしたない発言をしちゃった。でも、私は『フォルカー病』では無いと思うよ?症状も微熱だけだし」

「『フォルカー病』の初期症状は、微熱と疲労感だ。警戒するに越したことはない。医者からは微熱が治まるまでは休養するように言われるはずだ。その間は王城出仕も取りやめだな、マテウス」

「えぇっ!?」

前世の社畜人生では、微熱と疲労感など常の事だった。高熱でも出社して残業していたのは、クビになるのも給料が減るのも嫌だかから。

毎日ふらふらになりながら働いていた前世社畜の俺には、微熱で王城を休む事は気が引ける!




◆◆◆◆◆◆◆
    
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼毎週、月・水・金に投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ
BL
皇子殿下(7歳)に転生したっぽいけど、何も分からない。 侍従(8歳)と仲良くするように言われたけど、無表情すぎて何を考えてるのか分からない。 分からないことばかりの中、どうにか日々を過ごしていくうちに 主人公・イリヤはとある事件に巻き込まれて……? 思い出せない前世の死と 戸惑いながらも歩み始めた今世の生の狭間で、 ほんのりシリアスな主従ファンタジーBL開幕! .。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ HOTランキング入りしました😭🙌 ♡もエールもありがとうございます…!! ※第1話からプチ改稿中 (内容ほとんど変わりませんが、 サブタイトルがついている話は改稿済みになります) 大変お待たせしました!連載再開いたします…!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。