嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第三章

3-28 二度目の王城出仕を終えて

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◆◆◆◆◆◆

二度目の王城出仕も色々ありすぎて、帰路に着く馬車の中で俺は発熱してしまった。

シュナーベル邸に着くと、アルミンは馬車内で俺を抱き上げると外に出た。アルミンがお姫様抱っこで運ぼうとするとで、俺は慌てて抗議する。

「お姫様抱っこは嫌だ、アルミン」

「うるせー、おんぶだとお前の下半身がぐにぐに背中に当たるから駄目!俺が困るの、色々と!」

アルミンは俺の抗議を軽くいなすと、玄関ホールを通り抜け軽やかに階段を駆け上る。舌を噛みそうだが、反論せずにはいられなかった。

「下半身が当たるとかどうでもいいだろ?お姫様抱っこは美しい男限定の格式高い抱き方だって知らないの?私の顔面で姫抱っこは無理!嫌だー!」

「うるせぇな~。マテウスは時々美しくなるから安心しろ!」

「軽く嘘を吐かない、アルミン!」

「マテウス、うるさい!あのな、孕み子のあれは非常に柔らかくてヤバイの。とにかく、ヤバイから!非常に柔らかくて、まずいの!」

「柔らかいとか言うな、アルミンのバカ!勃起したら、私のあれは十倍に膨らみカチカチになるから。アルミンの世間知らず!」

「マテウス‥‥頼むからシュナーベルの邸で下品な事を言わないでくれ。しかも、子供みたいな嘘を付くな!お前が下品な事を言う度に、後で俺がヘクトール様に叱られるんだぞ」

「アルミンなんか叱られちゃえ」

「怖いこと言うな!マテウスが下品な発言をするのは俺の影響だって疑われてるんだぞ!本当に怖いから!あの人、恐いから!」

アルミンは俺の部屋の前にたどり着くと、俺を抱いたまま閉まった扉を開いた。アルミンが器用すぎて泥棒に見えてきた‥‥さっきはガゼボの屋根の上に潜んでいたし。

「よし、ベッド到着~!」
「ひゃ!」

アルミンが俺を抱いたままベッドにダイブした。アルミンはうまい具合に俺を抱きしめ衝撃から守る。ベッドに沈んだアルミンを見詰めながら、俺は首を傾げた。

「何してるの、アルミン?」

「ヴェルンハルト殿下と側近がベッドに飛び込む様を再現してみた。まあ、もっと荒々しかったけどな」

「成る程‥‥ん?アルミンはあの時何処に潜んでいたの?」

「秘密。マテウス‥‥熱が上がってきてる。悪ふざけしている場合じゃないな。医者を呼んでくる。ゆっくり寝てくれ」

アルミンはベッドから降りると、俺にベッドに横になるように促した。俺は素直に従うことにする。アルミンは心配そうに、俺の額に手のひらを宛がった。

「アルミンの手が冷たい」

「いや、マテウスの額が熱いんだよ。やっぱり、熱があるな。高熱ではないが‥‥微熱でも心配だ。例の伝染病の例もあるしな」

「アルミンは心配性だな。それに、フォルカー教国で伝染病が大流行したのって、五年前じゃなかった?」

「マテウスはまだ、ヘクトール様から聞いていないのか?」

「何を?」

アルミンは少し躊躇った後に、俺に丁寧に説明をしてくれた。

「フォルカー教国で五年前に猛威を振るった伝染病が、『フォルカー病』と呼ばれているのは知っているよな?」

「知ってる。でも、伝染病に国名付けられたフォルカー教国が、呼び方を変えようと他国に働きかけてなかった?」

「マテウス、詳しいな。フォルカー教国では『フォルカー病』と呼ぶ民は、異端審問に掛けられ罰せられるらしいぞ。でも、他国の民までは罰せられないから困ってるようだ」

「まあ、内政干渉になるからね」

「教皇が治めるフォルカー教国で、伝染病の大流行を招いたのが五年前。国力低下で他国への影響力も削られた。しかも、フォルカー教の枢機卿団は二つの派閥に別れて、教皇の座を巡って争っているらしい」

俺は眉を潜めて思ったことを口にしていた。

「フォルカー教の教義は受け入れられないけど、フォルカー教国の民が不幸になるのは嫌だな」

「マテウスは優しいな。だが、俺は違う」

「どう違うの、アルミン?」

「フォルカー教国の民は全てフォルカー教の信者だぞ?マテウスは怖くないのか?」

「それは‥‥。」

俺が返事に窮して黙り込むと、アルミンは話を続けた。

「奴等は教義を盲信して、シュナーベル家を貶め‥‥マテウスを傷つけた。許せるわけがない」

アルミンが吐き捨てるように言葉を発して、俺は面食らってしまう。

「でも、フォルカー教の信者にも色々な人がいるよ?フォルカー教の教会では、生活に困った人達を保護して食事や寝床を与えているし‥‥」

「食事と寝床と引き換えに、フォルカー教に入信させられ‥‥入信しない者は早々に教会から追い出される。結局、奴等は信者を集めたいだけだろ」

「でも、アルミン。排除されるから排除する。その考え方では、争いが絶えることなく続く事になるよ?」

「だが、それが現実だろ?」

アルミンが皮肉な笑みを浮かべた。

何時ものゆるゆるのアルミンの笑顔の方が、俺はやっぱり好きだ。

俺は指先でアルミンの服をちょこっと掴んでみる。アルミンはピクリと体を動かし俺を見つめると、ちょっと笑って口を開いた。

「甘え上手か、マテウス?」

「服をちょこっと掴んだ私の姿は、いつもより十割増しに可愛く見えるでしょ?」

「いや、何時もと変わらないな」

「そうですか、残念!では、少し疲れてきたので、アルミンは伝染病に話を戻して下さい」

少し命令口調でアルミンに話しかけると、彼は慌てて言葉を発した。

「わ、悪かった!」
「いいよ、アルミン」

慌てるアルミンに微笑みかけると、幼馴染は急に頬を赤らめる。俺はアルミンの衣服越しに、軽く彼の肌に指を這わせてから手を離した。




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