上 下
53 / 239
第三章

3-27 シュナーベル家が滅びる

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆


俺は息を深く吐き出して、ヴォルフラムを見つめて質問した。

「カール殺害を実行されましたか?」

ヴォルフラムは俺を見つめ返しゆっくりと応じる。

「私は人を雇いカール卿の殺害を命じました。」 

「‥‥っ!」

「私の雇った実行犯はカール卿の殺害に成功したと報告し、成功報酬を要求してきました。ですが、報告内容とカール卿の遺体の損傷具合があまりに違っていた。恐らく、私の雇った実行犯は、カール卿の殺害には関わっていないと思われます。」

ヴォルフラムに雇われた輩は、カールの死を自分の手柄にして金をせしめようとしたのか‥‥。

「‥‥そうでしたか」

ヴォルフラムは不意に目を細めて俺を見つめると、静かに言葉を発した。

「‥‥これは私の想像ですが、殺害を実行したのはシュナーベル家の者だと思っています。」

俺はドキリとしてヴォルフラムを見つめ返す。逡巡した後に俺は彼に尋ねた。

「私が犯行に関わっているとお考えですか、ヴォルフラム様?」

「ヴェルンハルト殿下は、マテウス卿は犯行に関わっていないと仰っておられました。ですが、私は貴方も何らかの形で犯行に関わっておられると思っています。」

「ヴォルフラム様、それでも私にまだ恋心を抱けるものなのですか?」

「恋心とはそういうものです。少なくとも、私にとってはそうです」

俺は椅子から立ち上がり、アルミンの手を取った。そして、ヴォルフラムに言い放つ。

「カール殺害の件に、シュナーベル家は一切関わっていません。もしも、ヴォルフラム様が根も葉もない噂を流した場合には、シュナーベル家は容赦なく貴方を潰します」

ヴォルフラムはしばらく黙って俺を見つめていた。やがて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「私を潰せばディートリッヒ家が黙ってはいませんよ?」

「そうでしょうね、ヴォルフラム様」

俺がそう答えると、ヴォルフラムは少し逡巡した後に口を開いた。

「マテウス卿‥‥ヴェルンハルト殿下は、カール卿の事を今も大切に想われています。殿下は王位を継がれた暁には、カール卿の遺志を継ぎ、法により血族婚や近親婚を禁じるおつもりです。」

ヴォルフラムの言葉に俺は思わず震えたが、アルミンが震える手をしっかりと握り返してくれた。アルミンに力を借りて、俺はヴォルフラムに言葉を返す。

「差別された状態で血族婚や近親婚が禁止されたら‥‥シュナーベル家は滅びてしまいます」

「ヴェルンハルト殿下は、血族婚や近親婚を禁じることがカール卿の遺志に添うものだと信じておられるようです」

俺は思わず唇を噛みしめる。殿下は今でもカールを大切に思ってくれている。それでも‥‥。

「そうですか‥‥ヴォルフラム様。大切な情報を教えて下さりありがとうございます。情報の見返りは何をお望みですか?」

俺の言葉にヴォルフラムは柔らかく微笑む。

「マテウス卿に必要な情報だと思ったので話しただけです。アルミン殿によると、私は衝動的な生き方をしているそうなので‥‥この発言も衝動的に発しただけです。」

「ヴォルフラム様」

「ですが、もしも見返りを私に下さるなら‥‥マテウス卿、明日も変わらず同僚として私に接して下さい。」

俺はヴォルフラムに微笑み返した。

「承知しました。以前と変わらず接します、ヴォルフラム様。」

「よかった。」

「‥‥少し疲れましたので、私はアルミンと共に邸に帰りますね。ファビアン殿下をお願い出来ますでしょうか、ヴォルフラム様?」

「勿論です」

「ファビアン殿下によろしくお伝えください。ああ、そうでした!側近とのセックスの回数を減らすよう、ヴェルンハルト殿下に進言していただけますか?」

俺の言葉にヴォルフラムが不意に表情を曇らせ口を開く。

「全てお任せ下さいと申し上げたいところですが‥‥。側近とのセックスの件は生殖医療に通じた専門家を呼び、その上で殿下に進言したいと考えています。その際には、マテウス卿も同席をお願いします。」

「分かりました、ヴォルフラム様。ヴェルンハルト殿下を理詰めで追い込みましょう。ふふ、楽しみ!」

俺の言葉にアルミンが反応した。ニヤニヤしながら俺の顔を望み込む。

「マテウス、性格悪い~。ヴェルンハルト殿下、可哀想~。セックスの回数制限なんて拷問だろ。せっかく側近を好みの筋肉男で固めたのに、その殿下に禁欲を強いるとは!殿下は、常に勃起しながら仕事する事にならないか?殿下、可哀想~!」

アルミンがエロくてうるさい。

「うるさいよ、アルミン!疲れたから私をおんぶしなさい。アルミンの背中に張り付くから、振り落とさないでね。」

「えー、おんぶはお前の下半身が当たるから嫌なんだよなぁ~、うお、っ痛い!」

俺はアルミンの肩を殴り、そのまま彼の背中に回り込んで抱きつく。

「姫抱っこは恥ずかしいからダメ」

アルミンは嫌そうな顔をしたが、ちゃんとおんぶしてくれた。俺の下半身が当たるぐらい我慢して貰おう。

今日も色々ありすぎて、本当に疲れてしまった。アルミンの首筋が放つ癒しの体臭を遠慮なく吸い込む。

く~、たまんない。

「ヴォルフラム様、失礼します」
「はい、マテウス卿」

ヴォルフラムは苦笑いを浮かべながら、アルミンにおんぶされた俺を見送る。

俺はアルミンのおんぶが心地良く、すぐに眠気に襲われる。

まさかとは思うけど、アルミン‥‥首筋に眠気を誘う薬草入り練り香水を付けてない?すごく眠い。

とにかく今日も疲れた。



◆◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。