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第三章
3-26 アルミンとヴォルフラム
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◆◆◆◆◆◆
ヴォルフラム自身がアルミンの話を聞きたがっている。だったら、俺は彼等のやり取りを黙って見守るしかない。
「ヴォルフラム様はマテウス様を操るのがお上手ですね?」
「‥‥どういう意味ですか?」
アルミンの挑発的な言葉にもヴォルフラムは冷静に応じる。アルミンはヴォルフラムの問を無視して俺を見てきた。
「アルミン?」
俺がアルミンに声を掛けると、軽い調子で話し出す。
「ヴォルフラム様に性格を見抜かれていますよ、マテウス様。」
「性格?」
「そうです、マテウス様。貴方は自己評価が異常に低いので、心が不安定な状態で優しくされると相手を簡単に信用して心を靡かせる。」
「そ、それでは私が浮気性みたいに聞こえるんだけど!」
「違いますか、マテウス様?」
「ち、違うよ!私は一途に‥‥」
反論しようとして俺は口籠る。浮気性の自覚があるから、言い訳も思いつかない!アルミンが面白そうにこっちを見てるのが腹立つ。
「アルミンはヴォルフラム様に話があるのでしょ?私に急に話を振らないでよ」
「承知しました、マテウス様。では、改めてヴォルフラム様にお尋ねします。」
「‥‥どうぞ、アルミン殿」
アルミンはヴォルフラムに向き合うと、表情を改めて言葉を発する。
「ヴォルフラム様はマテウス様への恋心を胸の奥に沈めたいと仰った。でも、それは偽りの言葉だ。ヴォルフラム様はマテウス様を甘い言葉で煽り、胸に沈めた恋心が再燃するように彼を誘導した。そうでしょ、ヴォルフラム様?」
「アルミン殿‥‥私がマテウス卿に語った言葉は全て本心です。まるで、何か企てが有るかのように、含みを持たせる言い方は止めて頂きたい」
アルミンの言葉にヴォルフラムは毅然と答えた。アルミンはしばらく相手を見つめたあと口を開く。
「‥‥‥そこが貴方の厄介かつ迷惑なところです。貴方が何かを企んでいるのなら、それを明らかにして事前に排除できる。でも、ヴォルフラム様は企みなどしない。真っ正直に生きる事に重きを置いているから。」
「正直でありたいとは思っています‥‥その事が問題ですか?」
アルミンは肩を竦めて口を開く。
「問題ですよ、ヴォルフラム様。正直に生きるってのは実に怖い生き方だ。愛の告白も‥‥恐らくは人を殺す時ですら、貴方は正しいと思えば自らの逃げ道を確保することなく実行する。違いますか、ヴォルフラム様?」
ヴォルフラムはしばらく黙った後に言葉を紡ぐ。
「私は常に王家に見張られ生きてきた。策略を練れば事前に潰される。そんな経験を繰り返せば‥‥衝動的に生きたくもなる」
アルミンは不意に冷たい表情を見せた。そして、低い声で話す。
「ならば、そう生きてください。但し、マテウス様を貴方の人生に巻き込まないで頂きたい。」
「‥‥っ」
「孕み子とセックスがしたいなら他を当たって下さい、ヴォルフラム様。そうだ、いい提案がある。貴方を異端視する陛下を殺してこの国の王になればいい」
「何を言って‥‥」
「貴方の血脈は王家に繋がるものなのでしょ?正しい国王となるなら、民は喜びますよ‥‥ヴェルンハルト殿下が王となるよりね。国王になれば孕み子も抱き放題だ。羨ましい限りです。」
「不敬な発言はやめなさい」
ヴォルフラムの警告をアルミンは無視して笑みを浮かべた。
「まあ、貴方が国王となっても‥‥シュナーベル家はマテウス様を渡さないけどね。」
ヴォルフラムは不意に顔を歪めると、アルミンを睨み言葉を発する。
「カール卿と同じように、マテウス卿もシュナーベル家に縛り付けるつもりか?ヴェルンハルト殿下の護衛として、私はカール卿と面識があった。彼はあまりにも不幸だった!」
アルミンはヴォルフラムの言葉に眉を跳ね上げた。そして、意地悪な表情を浮かべ語気を強める。
「カール様の境遇があまりに不幸だったから、彼の殺害を自らヴェルンハルト殿下に申し出たのですか?」
「‥‥‥っ、」
「不幸なカールを殺す事こそが、正しい行いだと信じた訳ですね。そして‥‥実行した。実に衝動的な生き方ですね、ヴォルフラム様」
アルミンの言葉にヴォルフラムが唇を噛みしめた。カールを殺したのが俺だと知っているのに、アルミンはわざとヴォルフラムを疑う様な事を口にしている。
「もう止めて、アルミン‥‥。」
俺の言葉にアルミンは黙り込むと、静かに近づき手を差し出した。
「風が冷えてきた、マテウス。邸に帰ろう。お前の好きな紅茶とレーズンチーズケーキを用意するよう使いを出しておいた。帰り時だよ、マテウス。」
「そうだね、アルミン。」
俺はヴォルフラムに抱かれたファビアン殿下の髪に触れた。殿下の髪はひんやりとしていた。赤茶色の髪に、本来の金髪がちらほらと混ざっている。
不意にヴォルフラムが語りかけてきた。
「マテウス卿は弟君が亡くなられた経緯を、ヴェルンハルト殿下から全てお聞きですね?私がその件に関わっていたことも御存知ですか?」
「‥‥‥知っています。」
「ならば、何故マテウス卿は私に弟君の事を尋ねなかったのですか?私がカール卿の殺害に関わったとは思わなかったのですか?」
ヴォルフラムが殿下にカールの殺害を申し出たことは知っている。でも、彼はカールを殺していない。カールを殺したのは俺だから‥‥。
「では、尋ねても宜しいのですか?」
「何でも聞いて下さい、マテウス卿。真実をお答えします。」
俺は息を深く吐き出して、ヴォルフラムを見つめて質問した。
「カール殺害を実行されましたか?」
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ヴォルフラム自身がアルミンの話を聞きたがっている。だったら、俺は彼等のやり取りを黙って見守るしかない。
「ヴォルフラム様はマテウス様を操るのがお上手ですね?」
「‥‥どういう意味ですか?」
アルミンの挑発的な言葉にもヴォルフラムは冷静に応じる。アルミンはヴォルフラムの問を無視して俺を見てきた。
「アルミン?」
俺がアルミンに声を掛けると、軽い調子で話し出す。
「ヴォルフラム様に性格を見抜かれていますよ、マテウス様。」
「性格?」
「そうです、マテウス様。貴方は自己評価が異常に低いので、心が不安定な状態で優しくされると相手を簡単に信用して心を靡かせる。」
「そ、それでは私が浮気性みたいに聞こえるんだけど!」
「違いますか、マテウス様?」
「ち、違うよ!私は一途に‥‥」
反論しようとして俺は口籠る。浮気性の自覚があるから、言い訳も思いつかない!アルミンが面白そうにこっちを見てるのが腹立つ。
「アルミンはヴォルフラム様に話があるのでしょ?私に急に話を振らないでよ」
「承知しました、マテウス様。では、改めてヴォルフラム様にお尋ねします。」
「‥‥どうぞ、アルミン殿」
アルミンはヴォルフラムに向き合うと、表情を改めて言葉を発する。
「ヴォルフラム様はマテウス様への恋心を胸の奥に沈めたいと仰った。でも、それは偽りの言葉だ。ヴォルフラム様はマテウス様を甘い言葉で煽り、胸に沈めた恋心が再燃するように彼を誘導した。そうでしょ、ヴォルフラム様?」
「アルミン殿‥‥私がマテウス卿に語った言葉は全て本心です。まるで、何か企てが有るかのように、含みを持たせる言い方は止めて頂きたい」
アルミンの言葉にヴォルフラムは毅然と答えた。アルミンはしばらく相手を見つめたあと口を開く。
「‥‥‥そこが貴方の厄介かつ迷惑なところです。貴方が何かを企んでいるのなら、それを明らかにして事前に排除できる。でも、ヴォルフラム様は企みなどしない。真っ正直に生きる事に重きを置いているから。」
「正直でありたいとは思っています‥‥その事が問題ですか?」
アルミンは肩を竦めて口を開く。
「問題ですよ、ヴォルフラム様。正直に生きるってのは実に怖い生き方だ。愛の告白も‥‥恐らくは人を殺す時ですら、貴方は正しいと思えば自らの逃げ道を確保することなく実行する。違いますか、ヴォルフラム様?」
ヴォルフラムはしばらく黙った後に言葉を紡ぐ。
「私は常に王家に見張られ生きてきた。策略を練れば事前に潰される。そんな経験を繰り返せば‥‥衝動的に生きたくもなる」
アルミンは不意に冷たい表情を見せた。そして、低い声で話す。
「ならば、そう生きてください。但し、マテウス様を貴方の人生に巻き込まないで頂きたい。」
「‥‥っ」
「孕み子とセックスがしたいなら他を当たって下さい、ヴォルフラム様。そうだ、いい提案がある。貴方を異端視する陛下を殺してこの国の王になればいい」
「何を言って‥‥」
「貴方の血脈は王家に繋がるものなのでしょ?正しい国王となるなら、民は喜びますよ‥‥ヴェルンハルト殿下が王となるよりね。国王になれば孕み子も抱き放題だ。羨ましい限りです。」
「不敬な発言はやめなさい」
ヴォルフラムの警告をアルミンは無視して笑みを浮かべた。
「まあ、貴方が国王となっても‥‥シュナーベル家はマテウス様を渡さないけどね。」
ヴォルフラムは不意に顔を歪めると、アルミンを睨み言葉を発する。
「カール卿と同じように、マテウス卿もシュナーベル家に縛り付けるつもりか?ヴェルンハルト殿下の護衛として、私はカール卿と面識があった。彼はあまりにも不幸だった!」
アルミンはヴォルフラムの言葉に眉を跳ね上げた。そして、意地悪な表情を浮かべ語気を強める。
「カール様の境遇があまりに不幸だったから、彼の殺害を自らヴェルンハルト殿下に申し出たのですか?」
「‥‥‥っ、」
「不幸なカールを殺す事こそが、正しい行いだと信じた訳ですね。そして‥‥実行した。実に衝動的な生き方ですね、ヴォルフラム様」
アルミンの言葉にヴォルフラムが唇を噛みしめた。カールを殺したのが俺だと知っているのに、アルミンはわざとヴォルフラムを疑う様な事を口にしている。
「もう止めて、アルミン‥‥。」
俺の言葉にアルミンは黙り込むと、静かに近づき手を差し出した。
「風が冷えてきた、マテウス。邸に帰ろう。お前の好きな紅茶とレーズンチーズケーキを用意するよう使いを出しておいた。帰り時だよ、マテウス。」
「そうだね、アルミン。」
俺はヴォルフラムに抱かれたファビアン殿下の髪に触れた。殿下の髪はひんやりとしていた。赤茶色の髪に、本来の金髪がちらほらと混ざっている。
不意にヴォルフラムが語りかけてきた。
「マテウス卿は弟君が亡くなられた経緯を、ヴェルンハルト殿下から全てお聞きですね?私がその件に関わっていたことも御存知ですか?」
「‥‥‥知っています。」
「ならば、何故マテウス卿は私に弟君の事を尋ねなかったのですか?私がカール卿の殺害に関わったとは思わなかったのですか?」
ヴォルフラムが殿下にカールの殺害を申し出たことは知っている。でも、彼はカールを殺していない。カールを殺したのは俺だから‥‥。
「では、尋ねても宜しいのですか?」
「何でも聞いて下さい、マテウス卿。真実をお答えします。」
俺は息を深く吐き出して、ヴォルフラムを見つめて質問した。
「カール殺害を実行されましたか?」
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