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第三章

3-25 禁じられた孕み子との恋

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◆◆◆◆◆◆


多くの悩みを抱えながら、なぜ貴方は真っ直ぐでいられるの?俺はすぐに心を歪ませて人を不幸にするのに。

カールが死んだのも俺が原因で‥‥。

「ヴォルフラム様‥‥。」
「はい、マテウス卿っ、えっ!?」

俺はヴォルフラムの額に軽くキスをした。ファビアン殿下を抱くヴォルフラムは、抵抗できずに俺のキスを受け入れる。

「‥‥‥っ!」

なぜヴォルフラムにキスをしたのか自分でもよく分からない。真っ直ぐな彼の心を分けて欲しかったのかもしれない。

「んっ‥‥、」

額から唇を離した俺は、ヴォルフラムの瞳を見つめ謝罪した。

「ごめんなさい、ヴォルフラム様。信じて貰えると良いのですが、私は『遅れてやって来た騎士』だと貴方に言った記憶がなくて‥‥。」

「え?」

「私には貴方に抱きつき泣いていた記憶しかありません。どうかお許し下さい、ヴォルフラム様」

「‥‥‥言った記憶がない?」

ヴォルフラムは俺の言葉に相当な衝撃を受けたみたい。

当然だよね。

『遅れてやって来た騎士』という言葉は、長くヴォルフラムを苦しめてきた。なのに、その言葉を発した張本人に記憶がないなんて‥‥。

「言い訳になりますが‥‥冷静さを取り戻したように見えた私は、まだ正気ではなかったのだと思います。」

「‥‥‥それは、」

「男たちに肌を暴かれた私は、恐怖と同時に‥‥男たちの卑劣な行為に憤りを感じていたのだと思います。その怒りをヴォルフラム様にぶつけてしまった。」

「‥‥マテウス卿」

「あの場で私の怒りを受け止めてくれる人は貴方だけで、甘えてしまったのだと思います。正常でない状態での発言とはいえ、貴方をひどく傷つけました。本当にごめんなさい、ヴォルフラム様」

「そうでしたか‥‥。」

ヴォルフラムが俺から視線を外した。嫌われて当然の告白をしているのに、その仕草が辛くて言い訳が口から溢れて止まらない。

「聞いてください、ヴォルフラム様。私にとって貴方は恩人であり特別な人であることに変わりはありません!そして、その言葉に別の意味合いはありません。言葉は言葉のままに、受け取って欲しいです!貴方はいつだって私の特別な人で、私の初恋の相手です!」

ヴォルフラムに嫌われるのは嫌だ。嫌われ悪役令息にはもう戻りたくない!

「あの当時、私は確かにヴォルフラム様に恋心を抱いていました。でも、貴方に告白する勇気がなく‥‥初恋は実らぬものと言い聞かせ貴方への恋心を胸の奥に沈めました。私はその恋心に再び火がつかぬように、常に見張っております。私は婚約者のある身ですから‥‥‥。」

「マテウス卿。」

今度はヴォルフラムからキスをされる。額に軽く触れた唇は余韻を残しながら、そっと離れていった。

「私の封印すべき恋心は、今でも心に渦巻きこの胸を焦がしています。マテウス卿、私は貴方の様にはこの恋心を胸の奥に沈める事はできません‥‥。」

ヴォルフラムからキスされて俺の胸は高鳴る。沈めた恋心が浮上しそうで怖い。

「ヴォルフラム様、私たちの恋はまるでシェイクスピアの戯曲のようです。悲劇か悲喜劇なのか‥‥迷うところですが。でも、私たちが恋を成就させようと動けば、この戯曲は必ず悲劇的結末を迎えます。」

初恋の想いを着飾った言葉でヴォルフラムに伝える。この恋を虚構にする為に、俺はもっと言葉を着飾らせた。

「私はヴォルフラム様と悲劇的な結末を迎える事は出来ません。全てを投げだし恋に生きるには、大切なモノを抱えすぎています。私は貴方の恋心には応じません。ヴォルフラム様、どうぞ冷淡な選択をする私への恋心などお忘れください」

虚構の恋は虚構のままで。

「マテウス卿、無知な私はシェイクスピアの名前も彼の戯曲も存じ上げません。シェイクスピアの戯曲の登場人物たちは、恋を成就させるために多くの犠牲を払ったのでしょうね?」

俺が黙って頷くと、ヴォルフラムは俺を見つめて言葉を紡ぐ。

「‥‥私も貴方を不幸にはしたくありません。でも、この恋心を忘れろなどと‥‥どうか仰らないでください、マテウス卿。」

「‥‥‥ヴォルフラム様。」

初恋相手のヴォルフラムが、禁じられた孕み子との恋に胸を焦がしている。これは‥‥ヘクトール兄上、浮気のピンチです。

「マテウス卿」
「ヴォルフラム様」

互いの名を呼び合って瞳を覗き込む。オッドアイのヴォルフラムの瞳に惹きつけられて‥‥。


「あー、ヴォルフラム様。マテウス様はシュナーベル家の次期当主の婚約者です。婚約中のマテウス様を口説くのはやめて頂けますかね?」

「ん、アルミン!?」

アルミンがガゼボの屋根から顔を覗かせ、こちらを伺っている。

いや、何してるの?

「アルミン!高い所に登りたがるのは馬鹿と煙と相場が決まっているよ!ガゼボの屋根が壊れたらどうするの?アルミン、降りてきて。」

「了解~。」

俺の言葉に応じ、アルミンはひらりと屋根から降りてきた。そして、ガゼボの中に軽い足取りで入ってくる。

その動きは猫のようにしなやかだ。でも、アルミンを可愛い猫に例えることには抵抗を感じる。

‥‥虫で十分だな、虫で!

「アルミン、クッキーとお茶はどうしたの?」

アルミンが手ぶらなので尋ねてみると、返事は別の方向から返ってきた。

「アルミン殿はファビアン殿下が眠ったことを知り、お茶会は延期にされたようですよ?彼はガゼボの屋根でマテウス卿の護衛をしながら、私たちの会話に聞き耳を立てておられました」

「え!?」

俺が驚いてアルミンを見ると、彼は肩をすくめて戯ける。

「ヴォルフラム様は俺が聞き耳を立てている事を知りながら、マテウス様に恋心を打ち明けた。図太い精神の持ち主ですね、ヴォルフラム様?」

「アルミン、止めなさい!」

「あ~、駄目みたいです。口が勝手に動いて毒を吐きまくってしまう~。王太子殿下とのセックスで、大量の毒を煽った事が原因と思われます。そういう訳ですから、まだまだ毒を吐きます。お許し下さい、マテウス様」

「アルミン!」

「マテウス卿、構いません。アルミン殿は随分と苛立っておられる様子。私がマテウス卿に無体な事をしたと、アルミン殿は勘違いしておられる可能性があります。誤解を解くためにも、彼の話をじっくり聞きたい。宜しいでしょうか、マテウス卿?」

「うっ‥‥はい。」

ヴォルフラム自身がアルミンの話を聞き違っている。俺は頷くしかなかった。


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