嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第三章

3-20 ファビアン殿下の産みの親フベルトゥス = ヒルシュ

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『永遠の妃候補』のアルトゥールと、ファビアン殿下の産みの親のフベルトゥス = ヒルシュの対立。

前世の後宮は女の園で今世の後宮は孕み子の園。それでも、恨み辛みのドロドロ具合は変わらないらしい。

後宮の揉め事話なんて、正直なところ聞きたくない。だけど、ファビアン殿下の危機を回避する為には情報収集は大事!

「ファビアン殿下の産みの親から『永遠の妃候補』と揶揄されては、アルトゥール様も黙ってはいられないですよね‥‥?」

俺の問にヴォルフラムは心底困った表情を浮かべる。

「‥‥侮辱されたアルトゥールはファビアン殿下の産みの親フベルトゥスを潰すべき敵とみなし、その場で攻撃を仕掛けました。」

「‥‥‥攻撃!?」

やっぱり後宮怖い!

でも、アルトゥールがどんな攻撃を仕掛けたのか気になる!

「アルトゥール様はどのような攻撃を仕掛けたのですか?」

「アルトゥール自身が子を産めば、フベルトゥスなど簡単に潰せます。ですが、子ができねば弟は揶揄された通り『永遠の妃候補』で終わってしまう。」

「‥‥確かにそうなりますね」

「それを避けるために、弟はヘロルド殿下を利用したのです。」

「ヘロルド殿下を?」

ヘロルド殿下はファビアン殿下の弟で‥‥産みの親の名はイグナーツ = ファッハ。

「アルトゥールは候爵家の力を背景に、その場でヘロルド殿下の後ろ盾になる事を公言しました。そのことで、後宮内の力関係が一気に変化したのです。」

「どの様に変化したのですか?」

俺が尋ねるとヴォルフラムはすぐに答えてくれた。

「自業自得と言えなくもないのですが‥‥それまでファビアン殿下の産みの親に抑圧されていた後宮の者達が、一気にヘロルド殿下側に付いたのです。」

フベルトゥス = ヒルシュに恨みを抱いていた後宮の人達が、全員敵に回ったって事か‥‥。

「ファビアン殿下の産みの親は、後宮内で孤立無援の状態になったのですね。そのストレスから自らの子を虐待して‥‥殿下の髪色を染めた?」

俺の言葉にヴォルフラムがため息で応じる。不思議に思って見つめていると、ヴォルフラムが困り顔で言葉を漏らした。

「ファビアン殿下の髪色の件にも、アルトゥールは深く関わっています。」

「そうなのですか?」

「ファビアン殿下の髪色が王太子殿下と同じ金髪であることが不快だと言って、アルトゥールはフベルトゥスに毛染め剤を送ったのです。」

「アルトゥール様が毛染め剤を送ったのですか!?」

俺が驚いて声をあげると、ヴォルフラムは腕に抱いた殿下の髪を撫でながら言葉を発する。

「アルトゥール自身はそれが使用されるとは思っていなかった様です。ですが、ファビアン殿下の産みの親は、我が子の髪を染めた‥‥。」

「ファビアン殿下の髪を染める事で、後宮内に虐めがあるとヴェルンハルト殿下に訴えたかったのかな?」

俺は金髪から赤茶色に染まったファビアン殿下の髪を撫でつつそう呟いた。ヴォルフラムが頷いて応じたので、俺は気になっていた事を尋ねる。

「ファビアン殿下がどんな薬剤で毛染めをしたのか御存知ですか?」

「植民地で採取できるヘナの葉から作られた毛染め剤だと、アルトゥールからは聞いています。」

ヘナはミソハギ科の植物で毒性はない。アルトゥールに悪意はあったが殺意は無かったってことか。

「ヘナなら問題なさそうですね。フォルカー教が栄える前は、この地でもヘナで髪を染めてお洒落を楽しんでいたくらいなので。」

「元の髪色に戻りますか?」

「少し時間は掛かりますが何もせずとも自然に元の髪色に戻ります、ヴォルフラム様。」

俺がそう答えると、ヴォルフラムは安堵の息をついた。

ヴォルフラムがアルトゥールとファビアン殿下のどちらを大切に思っているのか少し気になる‥‥。

とにかく、アルトゥールが『永遠の妃候補』と呼ばれているのは、今のところ後宮内だけみたい。

でも、いずれは王城や王都でもアルトゥールは『永遠の妃候補』と呼ばれるようになる。

そして、小説の筋書き通りならば‥‥アルトゥールはやがて心を病みファビアン殿下に危害を加える。

ファビアン殿下のそばにいられるなら、アルトゥールの接近を制する事はできると思う。でも、俺だけでは全ての危機を防ぐことは無理だ。

ヴェルンハルト殿下に、アルトゥールの行動に注意するよう促すべきだろうか‥‥?



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