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第三章
3-19 ファビアン殿下の裏事情
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◆◆◆◆◆◆
俺とファビアン殿下は抱き上げられた状態で会話を楽しんだ。庭園の小路を歩いていくとガゼボがあり、可愛らしい装飾に俺のテンションは上がる。
「ガゼボで休憩しましょう、ファビアン殿下。マテウスは、おやつを食べたいです。お茶したい!ケーキ!クッキー!」
「マテウ、ス、すきー!ク、クキー!クッキー!」
「クッキー!ファビアン殿下、私もクッキーが大好きです!」
アルミンとヴォルフラムが笑顔を浮かべて俺たちを見つめている。アルミンに抱かれた俺は彼の耳元で囁いた。
「アルミン、お茶の用意を小姓に頼んできてくれる?レーズンチーズケーキがあれば、更に幸せになれる予感!」
「仕方ないなぁ。ガゼボで休んでろよ、マテウス。ちゃんと座って休む。いいな!」
「分かってるよー!」
俺が返事をするとアルミンは眉を潜めて言葉を発する。
「マテウスが全然分かっていない予感!ヴォルフラム様、マテウスが暴れないように宜しくお願いします」
「承知しました、アルミン殿」
アルミンは俺をガゼボの椅子に座らせると、ひょいと庭園の垣根を飛び越えた。そして、あっという間に見えなくなる。
成人男性と同じかそれ以上の体格なのに、アルミンの筋肉の動きはしなやかで美しい。
でも、小柄でもないアルミンが茂みに隠れて気配が消せるとは道理に合わないよね?ヘクトール兄上に暗部を担う人達の平均体型について尋ねてみようかな?
◇◇◇◇
俺とヴォルフラムはガゼボの椅子に隣り合うように座った。僅かに肩が触れてヴォルフラムが身動ぎする。俺は恥ずかしさを誤魔化すように言葉を発した。
「ここはとても気持ちの良い場所ですね!風が花の薫りを運んできて、シュナーベルの領地に帰った気分になります」
「マテウス卿、ご覧になってください。ファビアン殿下もここが心地良いようです」
ヴォルフラムに抱かれたファビアン殿下に目をやると、睡魔に襲われうとうとしていた。
慣れない環境で疲れていたのかな?愛らしい殿下の姿に思わず微笑む。赤茶色の髪が風に靡く。その髪に触れようとして俺は手を引っ込めた。
「ファビアン殿下の髪に触れるなど‥‥不敬にあたりますね。ごめんなさい、ヴォルフラム様」
「いえ、大丈夫ですよ。ファビアン殿下は王太子殿下のお子ですが、王子ではありません。慣例により『殿下』と呼んでいますが、妃候補から生まれたお子が第一王子となります」
「あ、そうでしたね!」
たしか、BL小説にもそんな記述があった。あっさりと書かれていたので忘れていた。
「後宮制度では、ファビアン殿下の身分は産みの親に準じます。ファビアン殿下の産みの親は、子爵家の出身です。侯爵家のご子息であるマテウス卿がファビアン殿下の髪を撫でても誰も咎めません」
そういえば、ヴォルフラムの父親である王弟殿下は、妃候補から産まれている‥‥だから王子の身分だ。
虹彩異色症として産まれなければ、差別される事もなく、陛下の腹違いの弟として重職に就いていた筈だ。
ファビアン殿下が王太子殿下にならない限りは、王弟殿下の方が身分は上という事なのかな?
「ファビアン殿下は‥‥側室の子は、随分不安定な身分しか与えられないのですね?妃候補を王家に差し出す上位貴族への配慮ですか?」
ヴォルフラムは苦笑いを浮かべ、ファビアン殿下の髪を撫でた。俺も殿下の髪を撫でる。いつの間にかファビアン殿下は完全に眠っていた。
寝顔が尊い。ファビアン殿下が非常に可愛い‥‥連れ去り男マテウスが誕生しそう。
俺がファビアン殿下を見つめていると、ヴォルフラムが少し低い声で話し始めた。
「ファビアン殿下の産みの親は子爵家の出身で、後宮に住む側室の中では身分が高い部類に入ります。」
「そうなのですか?」
「はい、そうです。その環境から‥‥ファビアン殿下を産んだ後、彼は後宮で随分と横柄な態度を取っていました。」
「あ~、なるほど‥‥。」
「その彼が後宮を視察中だったアルトゥールと遭遇してしまって‥‥ファビアン殿下を巻き込む騒動に発展したのです。」
気の強いアルトゥール様と増長したファビアン殿下の産みの親の遭遇‥‥修羅場が見える。
「ファビアン殿下の産みの親は、アルトゥール様にも横柄な態度を取ったのですか?」
ヴォルフラムがファビアン殿下を抱いたまま、深いため息をついた。
「私の弟のアルトゥールは‥‥ファビアン殿下の産みの親から『永遠の妃候補』と呼ばれ揶揄されたそうです。」
「え!?」
「ヴェルンハルト殿下は孕まないアルトゥールの事を『永遠の妃候補』と揶揄して呼んでいて‥‥後宮の側室との閨の際にも、アルトゥールの愚痴を漏らしていた様です」
「えぇ、まさか?」
「弟のアルトゥールが殿下と不仲であることは知っていました。しかし、ヴェルンハルト殿下が弟の事を『永遠の妃候補』と揶揄しているとは思いもせず‥‥。」
「‥‥そうですよね。」
「‥‥閨での事ですから真実は分かりません。ただ、後宮で殿下と閨を共にした側室達から同様の噂が広がっているのは事実です。今では後宮の者達は、アルトゥールの事を公然と『永遠の妃候補』と呼ぶようになっています。」
「そんな‥‥何て酷い事を!」
ヴェルンハルト殿下が、アルトゥールに『永遠の妃候補』と不名誉な命名をしたの?
小説内のヴェルンハルト殿下は、一言もその事には触れていなかったのに。また殿下の一人称に騙された。
もうやだ。
ヴェルンハルト殿下はディートリッヒ家の後ろ楯を得るために、アルトゥールを妃候補にしたのではないの?
誰よりも大切にすべきアルトゥールを傷つけるなんて、自分自身で首を絞めるようなものなのに‥‥。
もしかして、ヴェルンハルト殿下は単純馬鹿なの?それとも何か考えがあってそうしている?
ああ、もう‥‥わからない!
それよりも、アルトゥールが『永遠の妃候補』と呼ばれているなら‥‥ファビアン殿下はいつ危害を加えられてもおかしくない時期に突入しているって事だ。
これは、まずい!
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俺とファビアン殿下は抱き上げられた状態で会話を楽しんだ。庭園の小路を歩いていくとガゼボがあり、可愛らしい装飾に俺のテンションは上がる。
「ガゼボで休憩しましょう、ファビアン殿下。マテウスは、おやつを食べたいです。お茶したい!ケーキ!クッキー!」
「マテウ、ス、すきー!ク、クキー!クッキー!」
「クッキー!ファビアン殿下、私もクッキーが大好きです!」
アルミンとヴォルフラムが笑顔を浮かべて俺たちを見つめている。アルミンに抱かれた俺は彼の耳元で囁いた。
「アルミン、お茶の用意を小姓に頼んできてくれる?レーズンチーズケーキがあれば、更に幸せになれる予感!」
「仕方ないなぁ。ガゼボで休んでろよ、マテウス。ちゃんと座って休む。いいな!」
「分かってるよー!」
俺が返事をするとアルミンは眉を潜めて言葉を発する。
「マテウスが全然分かっていない予感!ヴォルフラム様、マテウスが暴れないように宜しくお願いします」
「承知しました、アルミン殿」
アルミンは俺をガゼボの椅子に座らせると、ひょいと庭園の垣根を飛び越えた。そして、あっという間に見えなくなる。
成人男性と同じかそれ以上の体格なのに、アルミンの筋肉の動きはしなやかで美しい。
でも、小柄でもないアルミンが茂みに隠れて気配が消せるとは道理に合わないよね?ヘクトール兄上に暗部を担う人達の平均体型について尋ねてみようかな?
◇◇◇◇
俺とヴォルフラムはガゼボの椅子に隣り合うように座った。僅かに肩が触れてヴォルフラムが身動ぎする。俺は恥ずかしさを誤魔化すように言葉を発した。
「ここはとても気持ちの良い場所ですね!風が花の薫りを運んできて、シュナーベルの領地に帰った気分になります」
「マテウス卿、ご覧になってください。ファビアン殿下もここが心地良いようです」
ヴォルフラムに抱かれたファビアン殿下に目をやると、睡魔に襲われうとうとしていた。
慣れない環境で疲れていたのかな?愛らしい殿下の姿に思わず微笑む。赤茶色の髪が風に靡く。その髪に触れようとして俺は手を引っ込めた。
「ファビアン殿下の髪に触れるなど‥‥不敬にあたりますね。ごめんなさい、ヴォルフラム様」
「いえ、大丈夫ですよ。ファビアン殿下は王太子殿下のお子ですが、王子ではありません。慣例により『殿下』と呼んでいますが、妃候補から生まれたお子が第一王子となります」
「あ、そうでしたね!」
たしか、BL小説にもそんな記述があった。あっさりと書かれていたので忘れていた。
「後宮制度では、ファビアン殿下の身分は産みの親に準じます。ファビアン殿下の産みの親は、子爵家の出身です。侯爵家のご子息であるマテウス卿がファビアン殿下の髪を撫でても誰も咎めません」
そういえば、ヴォルフラムの父親である王弟殿下は、妃候補から産まれている‥‥だから王子の身分だ。
虹彩異色症として産まれなければ、差別される事もなく、陛下の腹違いの弟として重職に就いていた筈だ。
ファビアン殿下が王太子殿下にならない限りは、王弟殿下の方が身分は上という事なのかな?
「ファビアン殿下は‥‥側室の子は、随分不安定な身分しか与えられないのですね?妃候補を王家に差し出す上位貴族への配慮ですか?」
ヴォルフラムは苦笑いを浮かべ、ファビアン殿下の髪を撫でた。俺も殿下の髪を撫でる。いつの間にかファビアン殿下は完全に眠っていた。
寝顔が尊い。ファビアン殿下が非常に可愛い‥‥連れ去り男マテウスが誕生しそう。
俺がファビアン殿下を見つめていると、ヴォルフラムが少し低い声で話し始めた。
「ファビアン殿下の産みの親は子爵家の出身で、後宮に住む側室の中では身分が高い部類に入ります。」
「そうなのですか?」
「はい、そうです。その環境から‥‥ファビアン殿下を産んだ後、彼は後宮で随分と横柄な態度を取っていました。」
「あ~、なるほど‥‥。」
「その彼が後宮を視察中だったアルトゥールと遭遇してしまって‥‥ファビアン殿下を巻き込む騒動に発展したのです。」
気の強いアルトゥール様と増長したファビアン殿下の産みの親の遭遇‥‥修羅場が見える。
「ファビアン殿下の産みの親は、アルトゥール様にも横柄な態度を取ったのですか?」
ヴォルフラムがファビアン殿下を抱いたまま、深いため息をついた。
「私の弟のアルトゥールは‥‥ファビアン殿下の産みの親から『永遠の妃候補』と呼ばれ揶揄されたそうです。」
「え!?」
「ヴェルンハルト殿下は孕まないアルトゥールの事を『永遠の妃候補』と揶揄して呼んでいて‥‥後宮の側室との閨の際にも、アルトゥールの愚痴を漏らしていた様です」
「えぇ、まさか?」
「弟のアルトゥールが殿下と不仲であることは知っていました。しかし、ヴェルンハルト殿下が弟の事を『永遠の妃候補』と揶揄しているとは思いもせず‥‥。」
「‥‥そうですよね。」
「‥‥閨での事ですから真実は分かりません。ただ、後宮で殿下と閨を共にした側室達から同様の噂が広がっているのは事実です。今では後宮の者達は、アルトゥールの事を公然と『永遠の妃候補』と呼ぶようになっています。」
「そんな‥‥何て酷い事を!」
ヴェルンハルト殿下が、アルトゥールに『永遠の妃候補』と不名誉な命名をしたの?
小説内のヴェルンハルト殿下は、一言もその事には触れていなかったのに。また殿下の一人称に騙された。
もうやだ。
ヴェルンハルト殿下はディートリッヒ家の後ろ楯を得るために、アルトゥールを妃候補にしたのではないの?
誰よりも大切にすべきアルトゥールを傷つけるなんて、自分自身で首を絞めるようなものなのに‥‥。
もしかして、ヴェルンハルト殿下は単純馬鹿なの?それとも何か考えがあってそうしている?
ああ、もう‥‥わからない!
それよりも、アルトゥールが『永遠の妃候補』と呼ばれているなら‥‥ファビアン殿下はいつ危害を加えられてもおかしくない時期に突入しているって事だ。
これは、まずい!
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