上 下
43 / 239
第三章

3-17 アルミンの心配

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆


側近の仕事ってなんだっけ‥‥?

逞しい肉体を衣服で覆い隠し、殿下の側近となった男達が懸命に大量の書類と格闘する。

そんな姿を想像していた。

或いは、逞しい男達が会議室で互いの意見を激しく交わし合う。時には殴り合いに発展しながらも、最後には一致団結して業務に取り組む。

そんな姿も想像していた。

◇◇◇◇


男達の肉体がぶつかり合う度に、キングサイズのベッドはギシギシと軋む。俺がその姿を呆然と見つめていると、ヴォルフラムから声を掛けられた。

「マテウス卿、庭園を散策しましょう!ファビアン殿下もお庭に行きましょうね!」

「ち、ちち、うー、いっ、い?」

ファビアン殿下の言葉に、ヴェルンハルト殿下が男と絡んだまま応じる。

「ファビアン、父はこれから側近と大事な用を済ませなくてはならない。マテウスとヴォルフラムと一緒に、庭園を散策してきなさい。」

「ちちぅ、ちち、うえ、も」

「ファビアンの言葉が戻るように、マテウスとヴォルフラムは全力を尽くせ。俺も全力を尽くすつもりだ」

待って!何に全力を尽くすの?頑張り処が違うのでは!?

「ちち、うー」

「ヴェルンハルト殿下の命に従いファビアン殿下をお連れして庭園を散策しています。失礼します、殿下」

ヴォルフラムがヴェルンハルト殿下に声を掛けると、殿下は軽く手を振って応じた。

「早くファビアンを連れて部屋を出ていけ、ヴォルフラム。ふふ、相変わらず素晴らしい筋肉だ。布越しにも乳首の尖りがわかるぞ‥‥舐めさせろ!」

「いきなり乳首はやめて下さい!んっ、んん、ふっ、ふ、んっ、あぁ、素敵ですっ‥‥殿下ぁっ!」

俺は逞しい男達がベッドで抱き合う姿を見て思わず呟く。

「‥‥何これ?」

「マテウス卿、見てはいけません!」

ファビアン殿下を預けられたヴォルフラムは、殿下を抱いたまま俺を抱き寄せる。そして、俺を引きずるようにして側近の部屋を出た。

「ち、ちち、うー!」

扉の前でファビアン殿下が大きな声をあげたが、部屋の中からはあやしげな声が聞こえてきた。ヴォルフラムは殿下を抱いたまま、俺を促して王城の庭園に向う。


◇◇◇◇◇


『王太子殿下は昼間からセックスかよ?羨ましい限りだ。まあ、俺と殿下の好みはかけ離れているがな。やはり俺は柔肌の‥‥。』

王城の庭園に出ると、いきなりアルミンから声が聞こえてきた。

「アルミン?」

ヴェルンハルト殿下の行動を知っているという事は、アルミンは王城内に潜んでいたのかな?いったい何処にいたのだろう?

『マテウス様、俺も一緒に行動しても構わないでしょうか?』

「そうだね。ヴェルンハルト殿下に見られる心配は当分ないよね?構わないですか、ヴォルフラム様?」

「えっ、いや‥‥はい、マテウス卿」

ヴォルフラムにしては歯切れの悪い返事だが、それも仕方ない。ヴォルフラムが許可する前に、アルミンが茂みから出て来てしまったからだ。

「出てくるの早すぎ、アルミン!」
「悪いな、マテウス」

アルミンはそう応じると、ヴォルフラムが抱くファビアン殿下を見て首を傾げた。

「ファビアン殿下に挨拶を」

俺がアルミンにそう声を掛けると、彼は目を見開いてファビアン殿下を見た。

「え、ファビアン殿下?」

「ヴェルンハルト殿下と側室とのお子です。さあ、早く挨拶を」

「マテウス、ファビアン殿下の髪色は金髪だ。なぜ赤茶色の髪色に染めている?まるでカールの‥‥。」

アルミンは表情を硬くして『カール』の名を口にすると、そのまま黙り込んでしまった。

「‥‥事情があるの、アルミン。」

詳しい事情を伝えることを躊躇いそう応じると、アルミンは勘違いして語気を荒くした。

「ヴェルンハルト殿下が髪を赤茶色に染めたのか?くそ 、執務室には近づけなかったから事情がよくわからない。マテウス、執務室で何があったか説明してくれ!」

「事情は後で説明するよ」

「マテウス、俺は今すぐに事情を知りたい。息は乱れていないか?苦しくはないか?」

「え、大丈夫だけど?」

「顔色が悪い上にふらついている。マテウス、休んだ方がいい。ヘクトール様の執務室で休ませて貰おう。行こう、マテウス」

アルミンが俺に手を差し出す。俺はその手を見つめながら、首を左右にふった。

「アルミン、心配してくれて有り難う。でも、今はファビアン殿下の御前です」

「俺の主はマテウスだ」

「では、私が命じます。ファビアン殿下がお待ちです。アルミン、殿下に挨拶しなさい。」

「‥‥‥‥。」

アルミンをため息を付くと、彼は地面に片膝をついてファビアン殿下に挨拶した。

「ファビアン殿下、失礼しました。お初にお目に掛かります。アルミン・シュナーベルと申します。どうぞ、アルミンとお呼び下さい」

「アル、ン、アルミ、ミー、」
「アルミンです」
「ア、ルミン!」

「お上手です、ファビアン殿下。なるほど、マテウス様の子供の頃と同じ症状ですね。言葉が出ているので、マテウス様より回復は早いかもしれません。」

俺はアルミンの言葉に頷いた。そして、ファビアン殿下に視線を移すと微笑み掛けて口を開く。

「ファビアン殿下は既に言葉を取り戻しつつあります。焦ることなく私達と過ごしながら、言葉を取り戻しましょう。マテウスはファビアン殿下と同じ時を過ごせる事が、何よりも嬉しく感じています。」

「マテウ、ス、うれ、うれ、り!」
「ファビアン殿下。」

庭園には気持ちの良い風が吹き、殿下の赤茶色の髪が風に靡く。不意にファビアン殿下の姿にカールの幻を見て、俺はゆっくりと目を閉じた。



◆◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。