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第三章

3-16 ムキムキの側近が好き

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◆◆◆◆◆


ヴェルンハルト殿下は、お世継ぎ騒動後に側近を刷新して新たに五人の側近を迎えた。

その五人の側近全員が殿下の愛人というヤバい事になっている‥‥。

ヴェルンハルト殿下は俺に対して、『愛』がいかに重要かを力説した。彼等は以前の側近より能力は劣るものの、殿下への『愛』により能力以上の力が発揮されるらしい。

『そんなバカな!』と俺は思ったけど、頭ごなしに否定することはやめた。

新しい側近達は王立学園を無事に卒業しているので、王立学園を中退した俺よりはずっと優秀な筈だ‥‥たぶん。

但し、周囲からの評判はあまり芳しく無いようだ。

側近を愛人で固めれば批判されるのは当然だと思うけど、殿下自身はその事が不満らしい。批判をされても己を省みないところが、ヴェルンハルト殿下らしいけど‥‥。

でも、臣下たちの不満がヴェルンハルト殿下の死因に繋がらないか心配ではある。

それにしても、ヴェルンハルト殿下は非常に上機嫌だ。少し前まで俺を殴ろうとした殿下は、何処に行ってしまったのだろう?

まあ、怒りの沸点が不明な人物は、前世の社畜時代にもいたけどね。上司ではなく部下だったけど。不快な記憶が蘇り気分が塞ぎそうになる。

そうだ!

社畜時代に編み出した不安と怒りを抑える最推し念仏を行おう。

前世での最推しは小説の主人公のヴェルンハルト殿下だった。でも、今世の殿下は即却下!

ヘクトール兄上の名前にしょうかな。駄目だ!兄上の名前を呟いたら‥‥あの夜の情事を思い出してしまって、癒されない!興奮する!

では、アルミンで‥‥なんか違う!

さて、誰を選ぶか。
それが問題だ。

◇◇◇

「ヴォルフラム様、ヴォルフラム様、ヴォルフラム様‥‥ヴォル‥‥‥」

「どうされましたか、マテウス卿!?」

小声のつもりがヴォルフラム念仏が本人に聞こえてしまった‥‥恥ずかしい。

「ヴォルフラム様の名前を繰り返し唱える事で、私は現在癒されております。」

「そ、そうですか。光栄です‥‥‥。」

ヴォルフラムが若干顔を引きつらせながら『光栄です』と口にした。そんなに引かなくてもいいのに‥‥。

「おい、マテウス。」
「はい、殿下」

「俺の優秀な側近を紹介する。まずはこの部屋にいる筋肉逞しい側近の顔と名を覚えるように。」

「はい‥‥承知しました。」

ヴェルンハルト殿下は丁寧に側近達を紹介してくれた。新しい側近達には、各々立派な個室が与えられている。部屋の造りも豪華で、業務机も立派な材質から作られていた。

そして、必ず部屋の中央にはキングサイズのベッドが置かれていて‥‥。

各部屋のキングサイズのベッドを見た俺の脳は、思考を完全停止してしまった。その為、俺の残念な脳は側近の顔も名前も覚えてはくれない。

ヴェルンハルト殿下はそんな俺の様子には気がつかないまま、最後の側近を紹介してくれた。

「顔と名前が‥‥ううっ、」
「マテウス卿?」

俺の異変に気付いていたヴォルフラムが、俺を気遣い話しかけてくれた。これは好機と俺はそっと彼に身を寄せて囁く。

「ヴォルフラム様、後で側近の方々の名前と家柄と経歴を教えて下さいますか?出来れば殿下には内密でお願いします。」

「はい、マテウス卿」

やっぱりヴォルフラム様は優しい!頼りになる!

俺とヴォルフラムが身を寄せて話していると、ヴェルンハルト殿下が突然話し掛けてきた。

「ヴォルフラム‥‥マテウスと随分親しい様子だが、孕み子と交わる事はするなよ?面倒な事には巻き込まれたくないからな。」

「承知しております、殿下」

「ふん、分かっているなら良い。ファビアンを暫くお前に預ける。護衛しろ、ヴォルフラム。マテウスもファビアンと一緒に行動しろ」

「承知しました、殿下」
「はい、殿下」

五人目の側近の紹介が済むと、殿下はヴォルフラムにファビアン殿下を預けた。

そして、いきなりムキムキの側近を強く抱き締めて唇を合わせると、そのままベッドに突っ込んでいった。

「ひっぃ!」

俺は余りの事に悲鳴をあげていた。


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