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第三章

3-15 父上と言いたいのか?

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◆◆◆◆◆◆


「では、側近達に会いに行くぞ!」
「いく、ち、ち、ちう!」

ファビアン殿下に微笑み掛ける殿下を見ていると、こちらまで幸せな気分になってきた。ヴェルンハルト殿下には子を慈しむ優しい一面がある。そのことが分かっただけでも大きな収穫だ。


「父上と言いたいのか?ちちうえ、ちちうえ‥‥さあ言ってみろ」

「ちちう、え!ちち、うえ。」
「焦らなくていいぞ、ファビアン」
「ちちうえ!」
「上手いぞ、ファビアン。」

でも、小説の筋書き通りなら‥‥ヴェルンハルト殿下は悲惨な最期を迎える。その場合、二人の側室の子供達はどうなってしまうのかな‥‥。

「マテウス卿、まだ足がふらついておられます。どうぞ私の腕に掴まってください」

「ヴォルフラム様、お気遣いありがとうございます。貴方の進言のお陰で、私はファビアン殿下の話し相手に採用されました。感謝いたします、ヴォルフラム様」

俺は笑顔でヴォルフラムに話し掛けた。でも、ヴォルフラムの表情は冴えず心配になる。

「ヴォルフラム様?」

「‥‥ファビアン殿下の話し相手役を得たのは、マテウス卿の実力です。」

「えっ?」

「私はヴェルンハルト殿下の側近を名乗っておりますが、殿下自身に側近とは認められてはいません。なので、私の進言に価値はないのです」

ヴォルフラムの言葉に、俺は諦めと共に僅かな闇を感じた。ヴォルフラムがヴェルンハルト殿下を殺害する動機は、意外と単純なものかもしれない。

俺はヴォルフラムを見つめながら、少し戯けて言葉を紡ぐ。

「感謝は素直に受け取るものだと貴方に進言してもよいですか、ヴォルフラム様?」

「マテウス卿は手厳しいですね」

ヴォルフラムは僅かに目を細めて俺を見ると少し笑って返事する。やがて、絡み合った俺達の視線はヴェルンハルト殿下に向かった。

ヴェルンハルト殿下は俺達の視線を感じてこちらに向く。そして、ニヤリと笑って言葉を発した。

「マテウス、俺について来い。直々に側近を紹介してやる。名前と顔を頭に叩き込め。まあ、お前が関わる機会は少ないと思うがな。」

「はい、殿下」

ヴェルンハルト殿下はファビアン殿下を抱き上げたまま、執務室の扉に向かい外に出る。俺とヴォルフラムも殿下の後に続き執務室を出た。


◆◆◆◆◆


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