31 / 239
第三章
3-5 イチイの樹木に祈る
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
回廊にアルミンの姿はなかった。俺は庭園に視線を向けたが、どこにもアルミンの姿はない。
「マテウス卿、どうかされましたか?」
「ヴォルフラム様、先程までアルミンと話していたのです。なのに、急に彼の姿が見えなくなってしまって。私はアルミンに対し、酷い言葉を浴びせてしまいました。ですから、今すぐに謝りたいのです、アルミンに‥‥。」
「邸にお帰りになる際には、アルミン殿がマテウス卿の身辺護衛をされると聞いていましたが。今すぐにアルミン殿に謝りたいのですね?」
「はい、ヴォルフラム様。たった数行の文字数で、誰かが死ぬ世界に私達は生きています。アルミンや私がその対象にならないとは限りません。ですから、思った事はすぐに口にしなければ意味がないんです!」
ヴォルフラムは俺の話に耳を傾けながらも、庭園に視線を移した。そして暫く庭園を見回した後に、イチイの木に視線を止める。
「マテウス卿は変わった表現をされますね?だが、気持ちはわかります。マテウス卿、あの樹木をアルミン殿だと思い謝ってみてはいかがでしょうか?」
ヴォルフラムが指差す先には、イチイの樹木があった。俺は首を傾けながら、ヴォルフラムに尋ねる。
「イチイの樹木に謝るのですか?」
「樹木の名は知りません。ですが、今すぐに謝った方がよさそうだ。気配が動きそうです」
アルミンはイチイの樹木に隠れて、俺を護衛してくれているという事なのかな?全く気配を感じないが、そこにアルミンがいると信じよう。
恥ずかしいが‥‥樹木に謝る!
「イチイの樹木に宿る‥‥私の守護者よ。私は貴方に謝りたいのです。貴方は何時も私を守り、私を支えてくれる。なのに、お礼さえ伝えずに、貴方に『消えて』と言ってしまった。私の守護者よ、本当にごめんなさい。今はイチイの毒矢で胸を射ぬかれた様に心が痛みます。貴方が傍にいないと、寂しくて‥‥悲しい。今すぐに貴方の存在を感じたい。もしも私の謝罪を受け入れてくれるなら、その返事として貴方が宿るイチイの樹木を不自然なほどに揺らして‥‥‥私の守護者よ!」
突然、イチイの樹木がそれはもう不自然に揺れ出した。俺が想像した以上の揺れに、正直びびってしまう。このままではイチイの樹木が折れてしまう。
「私の守護者よ!もう、十分です。揺らしすぎです。王城の樹木を折って罰せられるのは嫌だよ、アルミン!」
『不自然に揺らせと言ったのは、マテウスだろ?じゃあ、殿下に俺の尻にも見舞金出せと言っておいてくれ。仕事頑張れよ、マテウス』
イチイの樹木は若干下品な言葉を呟くと、揺れは収まり静かな庭園が戻ってきた。
「すごい揺れ方でしたね。驚きました」
「ヴォルフラム様、私もあの大胆な揺らし方には驚きました。でも、アルミンらしい行動に気持ちが楽になりました。ヴォルフラム様、謝罪の機会を私に与えて下さりありがとうございます」
俺がヴォルフラムに微笑むと、彼も静かに微笑み返してくれた。その優しい笑顔に少し見とれてしまう。
「ここからは、マテウス卿の身辺護衛は私が担当いたします。アルミン殿は身を隠し、貴方の護衛を続けておられます‥‥たぶん」
「?」
「アルミン殿の気配が掴めなくなりました。申し訳ない、マテウス卿」
「とんでもないです、ヴォルフラム様。彼は虫の領域に達しているに違いありません。それよりも、ヴォルフラム様は私を探してくださっていたのでしょうか?」
ヴォルフラムは俺の言葉に軽く頷くと、経緯を簡単に説明してくれた。
「私は殿下の命を受け、マテウス卿を探しに来たのです。貴方が王城の正面玄関口の近辺にいてくださり助かりました。ヴェルンハルト殿下が心配されています。殿下の執務室に向かいましょう、マテウス卿」
「王太子殿下が私の心配を?」
「はい、殿下はマテウス卿のお越しが遅いので、心配なさっておられました。貴方が案内係に意地悪をされて、王城の何処かに置き去りにされたのではないかと気を揉んでおられましたよ」
意外すぎる!
妃候補の時でさえ、ヴェルンハルト殿下からの気遣いは感じられなかった。王城出仕一日目には、暴力まで振るわれて、散々な目に遭わされたのだ。心配していると言われても、俄には信じられない。
◆◆◆◆◆◆
回廊にアルミンの姿はなかった。俺は庭園に視線を向けたが、どこにもアルミンの姿はない。
「マテウス卿、どうかされましたか?」
「ヴォルフラム様、先程までアルミンと話していたのです。なのに、急に彼の姿が見えなくなってしまって。私はアルミンに対し、酷い言葉を浴びせてしまいました。ですから、今すぐに謝りたいのです、アルミンに‥‥。」
「邸にお帰りになる際には、アルミン殿がマテウス卿の身辺護衛をされると聞いていましたが。今すぐにアルミン殿に謝りたいのですね?」
「はい、ヴォルフラム様。たった数行の文字数で、誰かが死ぬ世界に私達は生きています。アルミンや私がその対象にならないとは限りません。ですから、思った事はすぐに口にしなければ意味がないんです!」
ヴォルフラムは俺の話に耳を傾けながらも、庭園に視線を移した。そして暫く庭園を見回した後に、イチイの木に視線を止める。
「マテウス卿は変わった表現をされますね?だが、気持ちはわかります。マテウス卿、あの樹木をアルミン殿だと思い謝ってみてはいかがでしょうか?」
ヴォルフラムが指差す先には、イチイの樹木があった。俺は首を傾けながら、ヴォルフラムに尋ねる。
「イチイの樹木に謝るのですか?」
「樹木の名は知りません。ですが、今すぐに謝った方がよさそうだ。気配が動きそうです」
アルミンはイチイの樹木に隠れて、俺を護衛してくれているという事なのかな?全く気配を感じないが、そこにアルミンがいると信じよう。
恥ずかしいが‥‥樹木に謝る!
「イチイの樹木に宿る‥‥私の守護者よ。私は貴方に謝りたいのです。貴方は何時も私を守り、私を支えてくれる。なのに、お礼さえ伝えずに、貴方に『消えて』と言ってしまった。私の守護者よ、本当にごめんなさい。今はイチイの毒矢で胸を射ぬかれた様に心が痛みます。貴方が傍にいないと、寂しくて‥‥悲しい。今すぐに貴方の存在を感じたい。もしも私の謝罪を受け入れてくれるなら、その返事として貴方が宿るイチイの樹木を不自然なほどに揺らして‥‥‥私の守護者よ!」
突然、イチイの樹木がそれはもう不自然に揺れ出した。俺が想像した以上の揺れに、正直びびってしまう。このままではイチイの樹木が折れてしまう。
「私の守護者よ!もう、十分です。揺らしすぎです。王城の樹木を折って罰せられるのは嫌だよ、アルミン!」
『不自然に揺らせと言ったのは、マテウスだろ?じゃあ、殿下に俺の尻にも見舞金出せと言っておいてくれ。仕事頑張れよ、マテウス』
イチイの樹木は若干下品な言葉を呟くと、揺れは収まり静かな庭園が戻ってきた。
「すごい揺れ方でしたね。驚きました」
「ヴォルフラム様、私もあの大胆な揺らし方には驚きました。でも、アルミンらしい行動に気持ちが楽になりました。ヴォルフラム様、謝罪の機会を私に与えて下さりありがとうございます」
俺がヴォルフラムに微笑むと、彼も静かに微笑み返してくれた。その優しい笑顔に少し見とれてしまう。
「ここからは、マテウス卿の身辺護衛は私が担当いたします。アルミン殿は身を隠し、貴方の護衛を続けておられます‥‥たぶん」
「?」
「アルミン殿の気配が掴めなくなりました。申し訳ない、マテウス卿」
「とんでもないです、ヴォルフラム様。彼は虫の領域に達しているに違いありません。それよりも、ヴォルフラム様は私を探してくださっていたのでしょうか?」
ヴォルフラムは俺の言葉に軽く頷くと、経緯を簡単に説明してくれた。
「私は殿下の命を受け、マテウス卿を探しに来たのです。貴方が王城の正面玄関口の近辺にいてくださり助かりました。ヴェルンハルト殿下が心配されています。殿下の執務室に向かいましょう、マテウス卿」
「王太子殿下が私の心配を?」
「はい、殿下はマテウス卿のお越しが遅いので、心配なさっておられました。貴方が案内係に意地悪をされて、王城の何処かに置き去りにされたのではないかと気を揉んでおられましたよ」
意外すぎる!
妃候補の時でさえ、ヴェルンハルト殿下からの気遣いは感じられなかった。王城出仕一日目には、暴力まで振るわれて、散々な目に遭わされたのだ。心配していると言われても、俄には信じられない。
◆◆◆◆◆◆
32
お気に入りに追加
4,575
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。