嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第三章

3-4 アルミンの存在

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◆◆◆◆◆◆


アルミンが会話を再開したので、俺は再びアルミンに視線を戻す。

「側室の死後に、アルノー様が己の子供達にまで同様の執着を見せ始めた時、一族の家長達は血脈の濃さの弊害に大きな衝撃を受けた。そして、当主の異常な行動に即座に対応したのは、年長者達ではなくヘクトール様だった」

「ヘクトール兄上は、独りで父上と対峙した。それは‥‥恐怖でしかなかった筈だよ」

「それはどうだろうな?シュナーベル一族の家長達が集められた時、ヘクトール様は既に当主のアルノー様との取引を済ませていた。」

「取引?」

「ヘクトール様は顔色も変えずに皆の前で、アルノー様から預かった手紙を読み上げた。手紙には、当主がカールを伴い別邸で暮らす旨が記されていた。」

「っ!」

「その手紙の内容に皆が愕然とした。まだ幼いカールが、当主の慰み者に選ばれた事を明白にする内容だったからだ」

俺は思わず唇を噛んだ。でも、黙ってはいられない。

「周囲の大人達は、父上を恐れて何も出来なかった。だから、ヘクトール兄上は次期当主として父上と対峙した。それを、責めるの?」

「物事はあらゆる角度から見なければ真実は見えないよ、マテウス」

「アルミンには、何が見えたの?」

「俺が見たもの?そうだな‥‥‥己の地位を揺るがしかねないカールと、厄介な父親を同時に処理したヘクトール様の姿かな?それが、真実だとは断言しない。だが、ヘクトール様の手腕に誰もがいい得ぬ恐怖を感じた。俺の親父でさえ、ヘクトール様に恐怖を感じたそうだから、相当なものだと思うぞ‥‥」

俺は怒りを抑え切れなかった。

カールが父上の犠牲となった事を、兄上の策略だと考えている者達が一族内にいる。どうしてそんな酷い考え方をするの?

「兄上はカールの事で十分に苦しんだ。なのに、まだ責めるの?このままでは、ヘクトール兄上は苦しみから永遠に救われないよ‥‥‥。」

ヘクトール兄上は深い眠りに落ちながら涙を流していた。それは、心に深い傷を負っている証だと思う。

なのに、そんな兄上をまだ責め苛むの?アルミンまでもが?

少なくとも、アルミンは兄上の味方だと思っていた。アルミンなら、ヘクトール兄上の苦しい胸の内を理解してくれると思っていた。


「アルミン‥‥‥もう黙って!」
「マテウス!」

「アルミンは兄上の苦悩を知らない。私も知らなかった。カールの犠牲にさえ、私は気が付いていなかった。でも、王城出仕一日目で‥‥私はシュナーベル家の深い闇を知った。カールの犠牲と兄上の苦悩の上で、私は生きてる。アルミン、今度は私が兄上を支えないといけないと感じているの。だって、兄上は今だに父上に呪縛されている状態だから」

「愛も無いのに閨を共にした理由がそれなのか、マテウス?」

「アルミンは愛が無いと断言するんだね?兄上との関係がこれからどう変化するのかはわからない。でも、あの日、あの時、私は必要だと思った。互いの傷は深くて痛くて‥‥癒したかった。」

「‥‥マテウス」

「私は兄上と閨を共にしたいと思って兄上を誘った。これ以上ヘクトール兄上を非難するなら、今すぐ私の前から消えて。お願い、アルミン!」

俺はなんて酷い言葉をアルミンにぶつけているのだろう。こんなのはただの八つ当たりだ。

俺を殿下から守る為に体を張り、アルミンは毒を飲み苦痛に耐えた。俺はアルミンの体を気遣い、お礼を言わないと駄目なのに。

「マテウス様」
「え?」

「ヴォルフラム様が俺の代わりに、マテウス様の身辺を護衛します。俺は身を隠し引き続き護衛に入ります。失礼します、マテウス様」

「‥‥アルミン」

アルミンに『マテウス様』と突然に呼ばれて戸惑う。アルミンに話し掛けようとした時、不意に背後から名前を呼ばれる。

「マテウス卿」

声の主はヴォルフラム様だった。

その事にすぐに気がついた俺は、ためらいなく背後を振り返る。そこには笑顔を浮かべたヴォルフラムが立ったいた。俺も笑顔を浮かべる。

「ヴォルフラム様、おはようございます。丁度、アルミンと護衛の件で、ヴォルフラム様の話をしていたところです。ね、アルミン」

俺が再び振り返った時には、既にアルミンはいなかった。俺はアルミンの姿を見失い狼狽えてしまう。

「アルミン?アルミン、どこにいるの?」

回廊にアルミンの姿はなかった。俺は庭園に視線を向ける。だが、どこにもアルミンはいない。


◆◆◆◆◆◆
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