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第三章
3-3 アルミンとヘクトールの確執
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◆◆◆◆◆◆
兄上とアルミンの間に、不穏な空気が流れる。俺は緊張して身を震わせてしまった。
「・・ヘクトール様は、マテウスとはまだ婚約関係にあります。情を交わすのは、婚姻関係を結んでからが常識です。もしも、マテウスに関係を強要したのならば貴方を軽蔑します。ヘクトール様を現当主の同類だと見なして対応します」
「っ!」
一瞬で兄上の感情が怒りに振れる。
俺は慌ててアルミンの誤解を解くことにした。恥ずかしいけど仕方ない。
「ちょっと待って!アルミンは誤解してる。私が兄上を閨に誘ったの。だから、兄上を責めるのは間違っているよ、アルミン」
「・・マジか?」
「マジです。それに、ヘクトール兄上はとても紳士的でした。だから、アルミンは兄上に謝って下さい」
「・・・」
「兄上に謝って、アルミン!」
アルミンは姿勢をただし、ヘクトール兄上に対して一礼した。そして、言葉を発する。
「ヘクトール様、無礼な態度と発言を心からお詫びいたします」
「謝罪を受け入れる、アルミン」
ヘクトール兄上の言葉に、再びアルミンが一礼した。俺はその様子を静かに見守る。
「ありがとうございます、ヘクトール様。これより、マテウス様の護衛の任に着きます。」
「マテウスをしっかりと護衛してくれ、アルミン。マテウスは無茶をしないこと。そして、何かあればすぐに俺の執務室においで。いいね、マテウス?」
ヘクトール兄上がアルミンの謝罪を受け入れた事で、俺の緊張が一気に解れた。兄上は俺に優しく微笑んでベンチから立ち上がる。そして、俺の手をとり、ベンチから立ち上がらせてくれた。
「互いに仕事に取り掛かろう」
「はい、ヘクトール兄さま!」
兄上に元気な返事を返すと、ヘクトール兄上は穏やかな笑みを浮かべる。そして、アルミンに俺を託すと兄上はこの場を後にした。
◇◇◇◇◇
アルミンはヘクトール兄上の後ろ姿が見えなくなるまで黙って見つめていた。俺はそんなアルミンの横顔を黙って見つめる。
「マテウス」
「なに、アルミン?」
「先の話に嘘はないか?ヘクトール様から‥‥無理矢理に関係を迫られた訳ではない。その言葉を俺は素直に信じて大丈夫なんだな?」
「・・なぜ疑うの、アルミン?」
「答えろよ、マテウス」
俺は深い息を吐いてから、アルミンの正面に立った。彼の瞳を見つめながら俺は口を開く。
「アルミンは知っていたんだね?父上とカールの残酷な関係を‥‥。そして、私と兄上の関係に同種のものを感じた。でも、違うよ?私達は互いに合意の上で閨を共にしたの」
「お前がヘクトール様と婚約した理由は、王城に出仕する為だったはずだ。婚約者のいない孕み子が王城に出仕するのは危険だからな。」
「それはそうだけど‥‥」
「それが、婚約者となって一月で閨を共にした。マテウスは、異常だと思わないのか?マテウスは気が付かない内に、ヘクトール様に誘導された可能性もある。」
俺はアルミンの言葉に苛立ちを覚えた。ルドルフおじさまも同様の心配をしていた節があった。
だけど、アルミンは私と兄上の関係に踏み込み過ぎだ。いくら幼馴染みでも踏み込んではいけない領域もあるはず。
「アルミンは私の大切な幼馴染みだけど、これ以上は私と兄上の関係に踏み込んで欲しくない。それに、アルミンは兄上に対して攻撃的に感じる。理由があるなら教えて、アルミン」
俺の言葉にアルミンは苦い表情を浮かべた。それでも、俺の目を見つめて言葉を紡ぐ。
「ヘクトール様の産みの親は、シュナーベル本家の血脈の濃さを調整する為だけに、傍流から本妻として選ばれた。ヘクトール様を産んだ後は、当主のアルノー様には全く相手にされずに、早々に生家に返されている」
「アルミンは、何が言いたいの?」
「シュナーベル家本家と繋がりの深い一族の家長達からは、ヘクトール様より血脈の濃いカールを次期当主にと推す声が挙がっていた」
「待ってよ、アルミン!兄上は正妻の子で、私とカールは側室の子だよ?ヘクトール兄上がいるのに、側室の子が当主になるなんて常識から外れてるよ!」
「確かに、常識ではそうだ。だが、マテウスとカールの産みの親は、アルノー様と腹違いの兄弟だ。シュナーベルの血脈に拘る一族の者は、お前が思う以上に多い。マテウスは孕み子だから当主にはなれない。だが、カールを当主にと画策する一族の者がいた事は確かだ」
「・・兄上の存在を蔑ろにし過ぎだよ」
俺が不快感をあらわにすると、アルミンは辛そうな表情を浮かべる。その表情を見て心に棘が刺さった気がした。
「ヘクトール様が、一族の者に蔑ろにされていた時期があった事は確かだ。だが、当主が側室のグンナー様に異常な執着を示し、領地運営を全て投げ出した事で状況は一変した。次期当主のヘクトール様は、領地運営を引き継ぎ見事な手腕を見せた」
「‥‥兄上」
「ヘクトール様には冷徹な部分もあったが、シュナーベル一族の家長達も次期当主に相応しいと思うようになっていった」
「兄上の努力の賜物です。才能を持ち合わせているだけでは、成果は得られないもの」
私はアルミンから僅かに視線をそらし呟いていた。アルミンが頷く気配を感じ、俺は再びアルミンに視線を戻す。
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兄上とアルミンの間に、不穏な空気が流れる。俺は緊張して身を震わせてしまった。
「・・ヘクトール様は、マテウスとはまだ婚約関係にあります。情を交わすのは、婚姻関係を結んでからが常識です。もしも、マテウスに関係を強要したのならば貴方を軽蔑します。ヘクトール様を現当主の同類だと見なして対応します」
「っ!」
一瞬で兄上の感情が怒りに振れる。
俺は慌ててアルミンの誤解を解くことにした。恥ずかしいけど仕方ない。
「ちょっと待って!アルミンは誤解してる。私が兄上を閨に誘ったの。だから、兄上を責めるのは間違っているよ、アルミン」
「・・マジか?」
「マジです。それに、ヘクトール兄上はとても紳士的でした。だから、アルミンは兄上に謝って下さい」
「・・・」
「兄上に謝って、アルミン!」
アルミンは姿勢をただし、ヘクトール兄上に対して一礼した。そして、言葉を発する。
「ヘクトール様、無礼な態度と発言を心からお詫びいたします」
「謝罪を受け入れる、アルミン」
ヘクトール兄上の言葉に、再びアルミンが一礼した。俺はその様子を静かに見守る。
「ありがとうございます、ヘクトール様。これより、マテウス様の護衛の任に着きます。」
「マテウスをしっかりと護衛してくれ、アルミン。マテウスは無茶をしないこと。そして、何かあればすぐに俺の執務室においで。いいね、マテウス?」
ヘクトール兄上がアルミンの謝罪を受け入れた事で、俺の緊張が一気に解れた。兄上は俺に優しく微笑んでベンチから立ち上がる。そして、俺の手をとり、ベンチから立ち上がらせてくれた。
「互いに仕事に取り掛かろう」
「はい、ヘクトール兄さま!」
兄上に元気な返事を返すと、ヘクトール兄上は穏やかな笑みを浮かべる。そして、アルミンに俺を託すと兄上はこの場を後にした。
◇◇◇◇◇
アルミンはヘクトール兄上の後ろ姿が見えなくなるまで黙って見つめていた。俺はそんなアルミンの横顔を黙って見つめる。
「マテウス」
「なに、アルミン?」
「先の話に嘘はないか?ヘクトール様から‥‥無理矢理に関係を迫られた訳ではない。その言葉を俺は素直に信じて大丈夫なんだな?」
「・・なぜ疑うの、アルミン?」
「答えろよ、マテウス」
俺は深い息を吐いてから、アルミンの正面に立った。彼の瞳を見つめながら俺は口を開く。
「アルミンは知っていたんだね?父上とカールの残酷な関係を‥‥。そして、私と兄上の関係に同種のものを感じた。でも、違うよ?私達は互いに合意の上で閨を共にしたの」
「お前がヘクトール様と婚約した理由は、王城に出仕する為だったはずだ。婚約者のいない孕み子が王城に出仕するのは危険だからな。」
「それはそうだけど‥‥」
「それが、婚約者となって一月で閨を共にした。マテウスは、異常だと思わないのか?マテウスは気が付かない内に、ヘクトール様に誘導された可能性もある。」
俺はアルミンの言葉に苛立ちを覚えた。ルドルフおじさまも同様の心配をしていた節があった。
だけど、アルミンは私と兄上の関係に踏み込み過ぎだ。いくら幼馴染みでも踏み込んではいけない領域もあるはず。
「アルミンは私の大切な幼馴染みだけど、これ以上は私と兄上の関係に踏み込んで欲しくない。それに、アルミンは兄上に対して攻撃的に感じる。理由があるなら教えて、アルミン」
俺の言葉にアルミンは苦い表情を浮かべた。それでも、俺の目を見つめて言葉を紡ぐ。
「ヘクトール様の産みの親は、シュナーベル本家の血脈の濃さを調整する為だけに、傍流から本妻として選ばれた。ヘクトール様を産んだ後は、当主のアルノー様には全く相手にされずに、早々に生家に返されている」
「アルミンは、何が言いたいの?」
「シュナーベル家本家と繋がりの深い一族の家長達からは、ヘクトール様より血脈の濃いカールを次期当主にと推す声が挙がっていた」
「待ってよ、アルミン!兄上は正妻の子で、私とカールは側室の子だよ?ヘクトール兄上がいるのに、側室の子が当主になるなんて常識から外れてるよ!」
「確かに、常識ではそうだ。だが、マテウスとカールの産みの親は、アルノー様と腹違いの兄弟だ。シュナーベルの血脈に拘る一族の者は、お前が思う以上に多い。マテウスは孕み子だから当主にはなれない。だが、カールを当主にと画策する一族の者がいた事は確かだ」
「・・兄上の存在を蔑ろにし過ぎだよ」
俺が不快感をあらわにすると、アルミンは辛そうな表情を浮かべる。その表情を見て心に棘が刺さった気がした。
「ヘクトール様が、一族の者に蔑ろにされていた時期があった事は確かだ。だが、当主が側室のグンナー様に異常な執着を示し、領地運営を全て投げ出した事で状況は一変した。次期当主のヘクトール様は、領地運営を引き継ぎ見事な手腕を見せた」
「‥‥兄上」
「ヘクトール様には冷徹な部分もあったが、シュナーベル一族の家長達も次期当主に相応しいと思うようになっていった」
「兄上の努力の賜物です。才能を持ち合わせているだけでは、成果は得られないもの」
私はアルミンから僅かに視線をそらし呟いていた。アルミンが頷く気配を感じ、俺は再びアルミンに視線を戻す。
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