上 下
27 / 239
第三章

3-1 王城出仕二日目の朝 

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆


遂に王城出仕二日目の朝がやってきた。

初めての王城出仕から、既に一ヶ月以上が経過している。俺は朝から緊張感が高まり、そわそわしていた。

早めに自室を出て玄関ホールに向かうと、ヘクトール兄上が先に待っていた。

「兄上、遅れてごめんなさい!」 

「いや、俺が早く来てしまっただけだ。気にするな、マテウス。では、王城に向かおう」

「はい、兄上」

俺より数日早く王城出仕を再開していたヘクトール兄上。普段はもっと早い時間に王城に向かう。

でも、今日だけは俺と一緒に王城に出仕してくれる事となった。兄上が傍にいるだけで、緊張が少し解れた気がする。

シュナーベル邸の玄関扉から外に出ると、既に馬車が用意されていた。

「わぁ、すごく綺麗な馬車!!」
「マテウスが気に入ったなら良かった」

兄上が婚約の記念に新調した馬車に、ようやく二人で乗る機会が巡ってきた。

馬車は美しく磨かれている。華美ではないが、気品ある馬車に仕上がっていた。贅沢な素材と丁寧な造りから、前世が社畜だっただけに値段が気になるところ。

「美しく気品に満ちた馬車。値段がとても気になります、兄上」

「マテウスは相変わらず、思ったことを何でも口にするね。さあ、私の手をとりなさい。マテウスが馬車から転がり落ちる姿しか想像出来ないから‥‥これは強制だからね」

「ヘクトール兄上は私の運動能力を侮っています。ですが、手はお借りします」

ヘクトール兄上にエスコートされて馬車に乗り込む。兄上とは一度だけ情を交えた。それ以降は、元の婚約者の関係に戻っている。

以前と変わらず、兄上は俺を優しくエスコートしてくれる。

「んっ、」
「どうした、マテウス?」
「いえ、何も‥‥‥。」

重ね合わせた指先が仄かに熱を帯びるのを感じた。その感覚は一日中抱き合ったあの日を思い起こさせる。

以前と変わらぬ婚約関係ではあったが、どこか淫靡でもあった。

◇◇◇◇◇

馬車に乗り込み王城に向かいながら、俺は以前から気になっていた事を口にしていた。

「ヘクトール兄上、アルミンとは王城で待ち合わせているのですか?彼を私の護衛に戻してくれるのでしょ」

「そのつもりだが、少々問題が生じて困っているところだ」

「問題?」

兄上が困り顔で話し始めるので、俺は心配になってきた。アルミンの身に何かあったのだろうか?

「アルミンは、一ヶ月以上王城で寝泊まりして、俺の部下より処刑案件の処理方法を叩き込まれた。だが、部下の報告によると、アルミンは事務仕事が相当に苦手らしく、度々虫のごとき素早さで職場から消え失せ、行方不明となるらしい」

「アルミンらしい行動ですね。彼は学園を首席で卒業した優秀な人物です。ですが、向き不向きは誰にでもあります。やはり、アルミンには私の護衛について貰いたいのです。駄目ですか、兄上?」

「いや、構わないよ。但し、アルミンをマテウスの護衛に付けるとしても、影から護衛する形になると思う。実は、王太子殿下がアルミンを嫌っていて、顔も見たくないそうでね」

「どうして、殿下がアルミンを嫌うのですか?アルミンに酷いことをしたのは、殿下の方なのにおかしいです!」

「う~ん。どうも、殿下の話ではアルミンとのセックスが最悪だったらしい。二度と会いたくないそうだ」

「ですが、アルミンは毒を盛られた状態で、ベッドに縛られて殿下に貫かれたそうですよ?アルミンのお尻を犠牲にしながら、殿下がセックスの良し悪しに文句を付ける立場にはない筈です。抗議しましょう、ヘクトール兄さま!」

ヘクトール兄上は、今までに見たことも無いような不快な表情を浮かべた。俺は兄上の表情にびびりつつ話の続きを待った。

「‥‥‥婚約記念に新調した馬車の中で、愛しいマテウスとアルミンの尻の話をする事になるとは。腹立たしい」

「ですが、アルミンの尻には罪はありませんよ?アルミンのお尻は完全に犠牲者です」

「いや、原因はアルミンの尻の中にあったらしいぞ‥‥マテウス」

「え?」

「あー、あれだ。精子を弱らせる為に直腸内が酸性に傾くよう、王城の医師がアルミンの尻に柑橘類を詰めたらしい。だが、その医師は殿下が柑橘類の果汁により、皮膚が酷く腫れてただれる体質だと知らなかったようだ」

「ん?つまり殿下は、がつがつとぺニ‥‥男性器をアルミンの尻に突き込み、あれが酷いことになってしまった訳ですか?」

「ちょうど、陛下の妃候補のお産の為に、多くの医師が集められていた。それに呼ばれなかった出来の良くない医師が、アルミンの処置をしたらしい。アルミンの話では、殿下の体質も把握しておらず、更に致死量の毒を渡されたそうだ。」

「致死量!しかし、アルミンからの手紙には、殿下とのセックスの後遺症は切れ痔だけだと書いてありました!毒の後遺症はないと書いてあったのに‥‥」

「アルミンは殿下が二度と孕み子に毒を盛って抱かないように、自分で毒の量を調節して飲んだらしい。後遺症を残さないぎりぎりの量をね。実際、殿下は嘔吐と下痢と痙攣を繰り返すアルミンを見て、相当に衝撃を受けたらしい」

「ああ、アルミン!彼は体を張ってくれたのですね。しっかりとお礼をしないと。そうだ、切れ痔の薬を手配して、アルミンのお尻に薬を塗ってあげないといけない!」

突然、ヘクトール兄上に抱きしめられて唇を奪われた。絡み合う舌が体を熱くする。だだ一度の交わりが鮮やかに思い出されて、自然と兄上の背に手を回していた。

「んっ、んん‥‥っはぁ、やぁら、ヘクトール兄上は何時も突然です」

「移り気なマテウス」
「何ですかそれは?」
「誰にでも靡くマテウス」

「ヘクトール兄上?」

「だが、最後には俺の元に戻ると信じる事にする。さあ、王城に着いたよ。心の準備はいいかい、マテウス?」

「はい、ヘクトール兄上!!」

馬車は王城の門を通り抜ける。馬車の窓から王城を見て、俺は深呼吸をした。

王城出仕の再開だ。


◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。