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第四章
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◆◆◆◆◆
俺はヴォルフラムとアンリに頼み、ファビアン殿下と二人きりにしてもらった。薔薇園のガゼボのベンチに、殿下と隣り合わせで座った。そして、身を寄せあって言葉を交わす。
「あのね、マテウス。僕が国王になりたいのは、マテウスを父上に奪われたくないからで。僕はやっぱり、父上と似ていると思うんだ。そんな僕が国王を目指して・・民は不幸にならないかな?」
俺は思わず笑みを浮かべて、ファビアン殿下に応じる。
「ファビアン殿下が、民の事を気になさっている時点で、ヴェルンハルト殿下との違いは明らかだと思いますよ?民を思う殿下の成長が、マテウスには嬉しいです。民に好かれる国王に、ファビアン殿下はなられると思います」
「でも、僕は王城が嫌いだ」
「・・殿下」
ファビアン殿下が苦しげに、言葉を漏らす。俺は笑みを納めて、殿下の言葉に耳を傾けた。
「僕は、不器用で臆病なんだ。でも、将来国王になるなら、嫌いな奴にも笑わないとだめでしょ?だから、皆に好かれるように笑ったよ。皆に好かれたい。そう思って、行動しているつもりなのに、何もかも上手くいかないんだ」
「ファビアン殿下」
「アルトゥールとも、仲良くしようとしたんだよ?僕の後ろ楯になる人だから。でも、色々難しくて。それでもね、やっとね、お茶会を開けるまで仲良くなったんだ。なのに、茶会で僕が怪我をしたから・・アルトゥールはまた、部屋に綴じ込もってしまった」
ファビアン殿下が唇を噛みしめる。俺は不敬にあたるとは思いつつ、指先で殿下の唇に触れた。ファビアン殿下は、はっとしたように俺を見る。
「唇を噛みしめると、傷ができます」
「マテウス」
「ファビアン殿下は、被害者ですよ?その殿下が、責任を感じる必要はありません。アルトゥール様については、殿下の目を傷付けた事に責任を感じておられるのです。彼は、殿下と顔を会わせるのが怖いのだと思います。『孕み子』は私も含め、皆怖がりで独りよがりなところがあります。アルトゥール様の気持ちの整理がつくまで、もう少しお待ちいただけますか、殿下?」
ファビアン殿下がゆっくりと頷く。
「アルトゥールは、嫌いではないよ。それに、右目の視力を失ったのは・・僕の手当てをした宮廷医師が、わざと僕の眼を傷付けたと聞いた」
「宮廷医師の件は、ヘクトール兄上からお聞きになったのですか?」
「そうだ。ヘクトールから聞いた」
「私もヘクトール兄上に聞きました。フォルカー病に罹患した宮廷医師が精神を病み、ファビアン殿下の眼を害したそうです」
「宮廷医師は・・処刑されたのか?」
「王子に危害を加えたのです。それに、彼は末期のフォルカー病でした。殿下や他の方が、フォルカー病を発症しなくて良かったです」
「そうだった!マテウスが、フォルカー病に掛かっていたと、ヘクトールから聞いた。大丈夫なのか!?」
「『孕み子』は、元々フォルカー病に掛かりやすいそうです。それと、子を死産したので体力がなく、余計に掛かりやすくなっていたようで。ですが、このように王城に登城できました。もう、大丈夫です」
「僕は全然知らなくて、ヴォルフラムにマテウスに手紙を書くように命じてしまった。マテウスから手紙がなくて、腹を立っていたんだ。僕の目が見えなくなったのに、何の反応もなくて・・マテウスにまで捨てられたと思って辛かった」
そうだった。ヴォルフラムからもらった手紙に、書かれていた。右目の視力を失った殿下が、俺からの励ましの手紙が無いことに気落ちしていると。
「申し訳ございません、殿下」
「待って、マテウス。これは、八つ当たりなんだ。産みの親が、僕の傷を知って・・また僕に関心を向けるかもって期待した。だけど、産みの親は、今も生家に帰ったままだ。僕が右目に傷を負ったと手紙を送っても、一通も返信がなかった。僕は完全に、産みの親から捨てられたみたい。そう思うと、マテウスも僕を捨てたのかとと、不安になってしまって。もう、王城には現れないのかもって・・不安で・・」
「ファビアン殿下が、私に腹を立てても当然です。殿下が辛い思いをされている時に、傍にいることができませんでした。王城に独り残った殿下に、手紙さえも送らずごめんなさい。心細く、辛い思いをされていたのに・・」
「マテウスは病気だったのだから、仕方ないよ。なのに、マテウスが僕の目の事を知って、すごく気に病んでたって聞いた。ヘクトールから、病気療養中のマテウスの負担になる手紙は、送らないようにとも言われた。悔しかったけど、そうすべきだと思った」
「ヘクトール兄上が、殿下にそのような失礼な事を言ったのですか!?も、申し訳ございません、殿下。兄上には、お仕置きしときます!」
ヘクトール兄上は、王子相手に何を言ってるの?王子は、まだ子供ですよ!子供に圧力をかけるとかひどいです、ヘクトール兄上。お仕置きします!
「僕は、ヘクトールが嫌いだ」
「うっ、殿下」
ヘクトール兄上、殿下に嫌われていますよ。しかも、ファビアン殿下は、兄上に丸めこまれていない。かなりの、胆力!
「ファビアン殿下が、ヘクトール兄上に不信感を抱かれたのは、当然だと思いますが。それに、国王になる事にためらいがあり、気乗りしないならば・・計画は中止にいたしましょう。私から、兄上に伝えますね。ヘクトール兄上から、何かしら殿下に返答があると思います」
王弟殿下が玉座に関心を示したりと、状況は刻々と変している。殿下が不安になり、計画から降りたいのも理解できる。元々、実の父親を殺害する計画に、殿下を巻き込んだのが間違いだった。ファビアン殿下は、まだ子供なのに。
「違うよ、マテウス!僕は、マテウスの言葉が欲しい!ヘクトールではなく、マテウスの言葉が欲しいんだ!」
「ファビアン殿下?」
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俺はヴォルフラムとアンリに頼み、ファビアン殿下と二人きりにしてもらった。薔薇園のガゼボのベンチに、殿下と隣り合わせで座った。そして、身を寄せあって言葉を交わす。
「あのね、マテウス。僕が国王になりたいのは、マテウスを父上に奪われたくないからで。僕はやっぱり、父上と似ていると思うんだ。そんな僕が国王を目指して・・民は不幸にならないかな?」
俺は思わず笑みを浮かべて、ファビアン殿下に応じる。
「ファビアン殿下が、民の事を気になさっている時点で、ヴェルンハルト殿下との違いは明らかだと思いますよ?民を思う殿下の成長が、マテウスには嬉しいです。民に好かれる国王に、ファビアン殿下はなられると思います」
「でも、僕は王城が嫌いだ」
「・・殿下」
ファビアン殿下が苦しげに、言葉を漏らす。俺は笑みを納めて、殿下の言葉に耳を傾けた。
「僕は、不器用で臆病なんだ。でも、将来国王になるなら、嫌いな奴にも笑わないとだめでしょ?だから、皆に好かれるように笑ったよ。皆に好かれたい。そう思って、行動しているつもりなのに、何もかも上手くいかないんだ」
「ファビアン殿下」
「アルトゥールとも、仲良くしようとしたんだよ?僕の後ろ楯になる人だから。でも、色々難しくて。それでもね、やっとね、お茶会を開けるまで仲良くなったんだ。なのに、茶会で僕が怪我をしたから・・アルトゥールはまた、部屋に綴じ込もってしまった」
ファビアン殿下が唇を噛みしめる。俺は不敬にあたるとは思いつつ、指先で殿下の唇に触れた。ファビアン殿下は、はっとしたように俺を見る。
「唇を噛みしめると、傷ができます」
「マテウス」
「ファビアン殿下は、被害者ですよ?その殿下が、責任を感じる必要はありません。アルトゥール様については、殿下の目を傷付けた事に責任を感じておられるのです。彼は、殿下と顔を会わせるのが怖いのだと思います。『孕み子』は私も含め、皆怖がりで独りよがりなところがあります。アルトゥール様の気持ちの整理がつくまで、もう少しお待ちいただけますか、殿下?」
ファビアン殿下がゆっくりと頷く。
「アルトゥールは、嫌いではないよ。それに、右目の視力を失ったのは・・僕の手当てをした宮廷医師が、わざと僕の眼を傷付けたと聞いた」
「宮廷医師の件は、ヘクトール兄上からお聞きになったのですか?」
「そうだ。ヘクトールから聞いた」
「私もヘクトール兄上に聞きました。フォルカー病に罹患した宮廷医師が精神を病み、ファビアン殿下の眼を害したそうです」
「宮廷医師は・・処刑されたのか?」
「王子に危害を加えたのです。それに、彼は末期のフォルカー病でした。殿下や他の方が、フォルカー病を発症しなくて良かったです」
「そうだった!マテウスが、フォルカー病に掛かっていたと、ヘクトールから聞いた。大丈夫なのか!?」
「『孕み子』は、元々フォルカー病に掛かりやすいそうです。それと、子を死産したので体力がなく、余計に掛かりやすくなっていたようで。ですが、このように王城に登城できました。もう、大丈夫です」
「僕は全然知らなくて、ヴォルフラムにマテウスに手紙を書くように命じてしまった。マテウスから手紙がなくて、腹を立っていたんだ。僕の目が見えなくなったのに、何の反応もなくて・・マテウスにまで捨てられたと思って辛かった」
そうだった。ヴォルフラムからもらった手紙に、書かれていた。右目の視力を失った殿下が、俺からの励ましの手紙が無いことに気落ちしていると。
「申し訳ございません、殿下」
「待って、マテウス。これは、八つ当たりなんだ。産みの親が、僕の傷を知って・・また僕に関心を向けるかもって期待した。だけど、産みの親は、今も生家に帰ったままだ。僕が右目に傷を負ったと手紙を送っても、一通も返信がなかった。僕は完全に、産みの親から捨てられたみたい。そう思うと、マテウスも僕を捨てたのかとと、不安になってしまって。もう、王城には現れないのかもって・・不安で・・」
「ファビアン殿下が、私に腹を立てても当然です。殿下が辛い思いをされている時に、傍にいることができませんでした。王城に独り残った殿下に、手紙さえも送らずごめんなさい。心細く、辛い思いをされていたのに・・」
「マテウスは病気だったのだから、仕方ないよ。なのに、マテウスが僕の目の事を知って、すごく気に病んでたって聞いた。ヘクトールから、病気療養中のマテウスの負担になる手紙は、送らないようにとも言われた。悔しかったけど、そうすべきだと思った」
「ヘクトール兄上が、殿下にそのような失礼な事を言ったのですか!?も、申し訳ございません、殿下。兄上には、お仕置きしときます!」
ヘクトール兄上は、王子相手に何を言ってるの?王子は、まだ子供ですよ!子供に圧力をかけるとかひどいです、ヘクトール兄上。お仕置きします!
「僕は、ヘクトールが嫌いだ」
「うっ、殿下」
ヘクトール兄上、殿下に嫌われていますよ。しかも、ファビアン殿下は、兄上に丸めこまれていない。かなりの、胆力!
「ファビアン殿下が、ヘクトール兄上に不信感を抱かれたのは、当然だと思いますが。それに、国王になる事にためらいがあり、気乗りしないならば・・計画は中止にいたしましょう。私から、兄上に伝えますね。ヘクトール兄上から、何かしら殿下に返答があると思います」
王弟殿下が玉座に関心を示したりと、状況は刻々と変している。殿下が不安になり、計画から降りたいのも理解できる。元々、実の父親を殺害する計画に、殿下を巻き込んだのが間違いだった。ファビアン殿下は、まだ子供なのに。
「違うよ、マテウス!僕は、マテウスの言葉が欲しい!ヘクトールではなく、マテウスの言葉が欲しいんだ!」
「ファビアン殿下?」
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