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第四章

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◆◆◆◆◆


バラ園に向かうと、アンリとヴォルフラムが戦っていた。俺は唖然としながら、紳士に変装したアルミンに、視線を向けて尋ねた。

「何故、二人は戦っていると思う?」

「ふむ。アンリはマテウスの為に、ナイフでバラの剪定に行っただろ?だが、明らかに庭師でない者がいばらを切り裂き、ファビアン殿下の元に近付いてくる。ならば、体が不自由でも、ヴォルフラムなら護衛として戦うだろ。で、ああなってんじゃねーの?」

「アンリ~ー!!」

アンリは、猪突猛進タイプのようだ。のらりくらりのアルミンとは、別種の扱い辛さがある。

「ヴォルフラム様は、右半身が不自由なんだよ?弟のアンリをとめてよ、アルミン!」

ヴォルフラムは、異端審問官のヘンドリクに陥れられ、激しい拷問を受けた。そして、右半身の機能を失った。

右目を潰され、右耳を削ぎ落とされた。右手の指を根元から全て斬り落とされた。そして、右手、右足の腱を切られた。

「よく見てみろ。ヴォルフラムの動きを」
「戦っているわ、ヴォルフラム様が・・」
「大したものだな」

剣を握れなくなったヴォルフラムは、一時期心を壊しかけた。でも、ギリギリで持ちこたえた。彼には、まだ左手があったから。

「ヴォルフラム様は、左手に剣を握ってる。なんて滑らかな動き」

「左利き用の剣をうまく使う。右足の腱を切られたと聞いたが、あれは足首を支える特殊なブーツだな。確かに、滑らかな動きだ。『マテウスの騎士』の復活だな」

アンリは俊敏に動き、ヴォルフラムの右目の死角に潜り込む。そして、懐に飛び込みナイフで切り込む。だが、ヴォルフラムにその動きは、既に読まれているようだ。

「ヴォルフラム様が、敵にまわらない限りは」
「奴を、信じてないのか?」

「分からない。でも、ヴォルフラム様は、運命の真ん中にいる人だから。その動きは、読めないよ。全然、よめない・・」

「マテウス」

ヴォルフラムの蹴りが、アンリのナイフを弾いた。アンリは地面を跳ねるようにして、ヴォルフラムから距離を取る。二人の間に空白が出来た。

「二人に近づいても大丈夫かな、アルミン?」

「いやぁ、危ないって。ここは、奴等の方から、来てもらうとするか。では、マテウス、お口をいただきます~!」

「いただき、、まふっ、!?」

アルミンに抱き寄せられて、俺は唇を奪われていた。いや、口って!キスじゃん!アルミン!

「ふみゅっ、んっ、ん、」
「、っ、・・、」

いつの間にか、アルミンに身を預けていた。だが、キスは突然終わりを告げた。

「うまかった。マテウス、去らば!」
「ふみゅっ、んっあ??」

アルミンは俺を置き去りにして、脱兎の如く走り出した。その姿を見つめていると、背後からとんでもない殺気が迫ってきた。そして、俺の背後で動きが止まる。

びびりながらも、俺は振り返った。案の定、ヴォルフラムとアンリが、とんでもない形相で立っていた。

「マテウス卿、御逢いできる日を心待にしておりました。しかし、今すぐに、始末すべき害虫を発見しました。処理に行ってまいります」

「ヴォルフラム様、私も会えて嬉しいです。この季節は虫が多いですね。ですが、害虫と益虫を誤っては駄目ですよ?剣を納めて下さい」

「・・承知しました」

ヴォルフラムが、自然な動きで剣をおさめた。左利きの剣は、右のサーベルホルダーにおさめられた。少し見慣れぬ姿だが、なんだか格好いい!と、ヴォルフラムに見惚れていると、アンリが頭を下げていた。

「マテウス様!申し訳ございません。心踊る戦いに夢中になり、マテウス様の護衛をすっかりわすれていました。うう、アルミン兄上よりも、護衛に向いていないかもしれません!」

「アンリ、大丈夫だよ。ヴォルフラム様と戦う貴方の勇姿は、素晴らしかったよ。でも、ヴォルフラム様は、私の同僚で敵ではないからね。そして、アンリは私の護衛であることを忘れないで。知らない紳士に、唇を奪われてしまったもの。ヘクトール兄上には、秘密にしてね?」

「く、唇を奪われ、ひぃ、申し訳ございません。あの、あのー、マテウス様!鞭で僕を打って下さい!どうぞ!」

アンリは言葉と同時に、懐から鞭を取り出した。いや、やめて。俺を悪役令息に、逆戻りさせないで!そして、ヴォルフラム。全身から異様な気配が発してるから。怖いから、怖いから。

俺には安らぎが必要だ。今すぐに、安らぎを必要としている。誰か~!


◇◇◇


「マテウス!」

ファビアン殿下の声が耳に響く。バラ園のガゼボから、殿下が飛び出してきた。右目に眼帯をしたファビアン殿下が、バラの小路を駆ける。だが、その足取りは覚束ない。右目の視野を奪われた、殿下にはバラの小道は怖いに違いない。

「あっ、殿下!」

なのに、手の甲にバラの棘で傷を作っても、ファビアン殿下は笑顔を絶さず走る。

「マテウス!!」

ファビアン殿下が俺を捉えた。腰に手を回す殿下を、俺もしっかりと捉えた。そして、俺はしゃがんで殿下の顔を見つめた後、強く抱き締めた。

「ファビアン殿下、帰って参りました」
「マテウス、おかえり!」

ファビアン殿下が、涙声で俺を歓迎してくれた。俺も目を滲ませていた。

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