嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

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◆◆◆◆◆

「陛下は俺の脅威だった。その存在に常に怯えて、俺は生きてきた。産みの親が火刑に処された時も、俺は陛下に・・父上に、抗議の一つも出来なかった」

「・・殿下」

「おそらく、陛下は・・俺も火刑に処したかったに違いない。だが、一人息子の俺を、陛下は殺す訳にはいかなかった。故に、陛下は求めた。『妃候補』との間に、新たな子を授かることを。俺には、恐ろしい日々だった」

ヴェルンハルト殿下は、天井に向かい滔々と語っていた。だが、不意に視線を俺に向けると、目を細めて俺を見つめニヤリと笑った。

「恐ろしい日々を、俺は息を潜めて過ごした。愚かな後継ぎは、陛下の前ではひれ伏す。そして、憂さ晴らしに弱い者を苛める。陛下の俺の評価は、最悪だっただろうな。だが、それでいい。愚息ならば、早々に殺す必要はないからな。新たな子を、陛下が得るまでは」

「王太子殿下の生い立ちが、苦しい日々であった事には同情いたします」

「俺に同情するとは、マテウスはバカがつくほど優しいな。マテウスは虐めがいがあり、よい憂さ晴らしとなった。おまけに、マテウスには妙な力があった。俺が死んで欲しいと望む人間の命を、次々に刈りとってくれた。まさしく、死神のように」

「っ、!」

俺は反論しようとしたが、俺が唇を噛み締めて沈黙を守った。 ここは、王太子殿下の思いを、全て語らせる事にした。

「マテウスが、俺の『親友』として初めて王城に出仕したその日・・お前は、陛下と『妃候補』との間のお子が死ぬことを予言した。俺はその言葉は信じなかった。だが、予言は的中した。赤子と『妃候補』は亡くなった。そして、俺は危機を乗り切った」

ヴェルンハルト殿下は、不意に沈黙するとソファーに身を沈めて目を閉じた。俺はそれを見守るしかなかった。どうやら、今日の殿下も情緒不安みたいだ。俺は思わずため息を付きそうになった。

「・・・」

くそ、疲れてきた。アルミンが側にいたなら、幼馴染みに抱きついて、癒しの体臭を嗅ぎたい。だが、アルミンはいない。アルミンがいないと、けっこう寂しいな。

「マテウス様、大丈夫ですか?」
「アンリ、大丈夫だよ」

おっと、年下のアンリに気遣われてしまった。そういえば、アンリの体臭は・・どうなっているのかな?もしや、アルミン同様に、癒しの力があったりして。

もしそうなら、アンリに抱きついて癒されたい。いや、変態行為は駄目だ。相手は少年だぞ、マテウス!しっかりするんだ!

「ヴェルンハルト殿下。マテウス卿は、療養を終えられたばかりと耳にしております。殿下が無理に出仕を促されたというのに、何時まで立たせて、無駄話を聞かせるおつもりですか?」

「ちっ、クリスティアンは、マテウスの味方か。改宗もせずに、枢機卿のお気に入りになるとは、どんな手を使ったんだ、マテウス?」

「ヴェルンハルト殿下」

枢機卿の再びの言葉に、殿下は手をふって言葉を制した。そして、俺を見つめて口を開いた。

「ソファーに座れ、マテウス。護衛は部屋のすみに立たせておけ」

「承知しました、殿下」

俺は、アンリに待機を命令した。そして、テーブルに近づくと、一礼した後にソファーに座った。俺が席につくと、枢機卿のクリスティアンが笑顔で俺を迎えてくれた。

「お久しぶりです、マテウス卿」

「再びお会いでき嬉しいです。しかし、クリスティアン様と殿下の執務室で会うことになるとは意外でした。お二人は、私の知らぬ間に、親好を深められたのでしょうか?」

俺が少し突っ込んだ質問をすると、殿下と枢機卿が同時に顔をしかめた。うむ。二人の仲は良くないようだ。

「教会が戴冠式の件で、難癖をつけてきた。フォーゲル国王では、フォルカー教を国教として以来、戴冠式には本国より枢機卿が派遣されてきた。だが、今回はフォルカー教国が枢機卿を派遣することに、難色を示してきた。だから、クリスティアンを呼び出し、抗議しているところだ」

「・・もしや、ヴェルンハルト殿下の産みの親が、シュナーベルの血縁者であるとの・・噂が原因でしょうか?」

「そうだ。根拠のない噂が、真実のように広まり世間を騒がせている。教会まで噂に惑わされて、真実を明らかにしろと言ってきた。これも全て、叔父のシュテフェン殿下の策略だ!くそ、今頃になって玉座に色気を見せるとは想定外だ。去勢した時点で、玉座を完全に諦めたと思ったのだがな」

どうやら、王太子殿下は産みの親の件を、根拠のない噂として押し通すつもりのようだ。

「すでに、産みの親のペーア様は亡くなっておられます。ペーア様を養子となさった男爵位のレトガー家も断絶したと聞きましたが・・」

「証拠など何もない。叔父の証言だけだ。それを、家系図大図鑑で『ペーア=シュナーベル』の名を見付けて、俺の産みの親と関連付けて、貴族達が勝手に騒いでいるだけだ」

枢機卿が黙って俺達のやり取りを聞いているので、俺が会話を続けるしかない。しかし、殿下の茶番劇に付き合わされる羽目になるとは思わなかった。

「では、本物のペーア=シュナーベルを探しだしてはどうですか?」

「すでに探しだした。ペーア=シュナーベルもその家族も、旅先で盗賊に遭い全員亡くなっている。彼らはフォルカー教に改宗していたが、その血脈を嫌われシュナーベルの領地に葬られていた。故に、俺の産みの親は、ペーア=シュナーベルとは他人だ。その事は、シュナーベル現当主も認めている」

「ヘクトール兄上が、そう認めたのですね?それならば、それが真実であるとしか、私には申し上げられません」


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